『白い結婚から始まったはずなのに、冷徹公爵の溺愛が止まりません!』

しおしお

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第13話 公爵様、初めての“嫉妬”

第13話 公爵様、初めての“嫉妬”

天気の良い午後。
フィオナはリリィと一緒に、屋敷近くの町へ出かけた。

買い足したい材料があると言うと、レイヴンは
「護衛を二人つける」
と即答したが、フィオナは笑って受け入れた。

(公爵様、きっと心配してくださっているのよね)

その心づかいが、なんだか嬉しい。


---

街の菓子材料店。
カウンターに並べられたハチミツや粉糖を物色していると、
若い店主が声をかけてきた。

「お嬢さん、ずいぶん器用そうな手をしてますね。
どんなお菓子を作るんです?」

「あ、えっと……焼き菓子を少々。趣味程度ですけれど」

「へえ、いいですね。手の綺麗な人が作るお菓子って、絶対美味しいんですよ」

フィオナは恥ずかしくなりながらも微笑んだ。

(褒められるのって、やっぱり嬉しいわ)

リリィは後ろで必死に小声で笑いをこらえている。

「フィオナ様、なんか……モテてません……?」

「も、モテてなどいませんわ」

そんな穏やかな空気だった、まさにその時。

──店全体に、ひゅうっと冷たい風が吹いた気がした。

「……フィオナ」

その声は、背後から降ってきた。

ゆっくり振り返ると──
レイヴンが立っていた。

黒い外套、無表情の横顔。
しかしその瞳だけが、獲物を狙う獣のように鋭く光っている。

(えっ、公爵様!? どうしてここに……)

リリィは小声で叫んだ。

「しょ、障壁魔法レベルの圧……!」

レイヴンは店主に視線を向けた。

「……誰だ」

「えっ、あ、あの……ただの店の者で……」

「必要はない」

低く、冷ややかな声。

その瞬間、店主は裏方へ逃げるように引っ込んだ。

“この場から消えろ”とでも言うような圧力。
実際、言葉より圧が強すぎて、店主は顔色を失っていた。

フィオナはあわててレイヴンの前に立つ。

「こ、公爵様! どうしてここに?」

「護衛から報告があった。……気になっただけだ」

気になっただけ。

それは、心配だったという意味だろうか。

だがフィオナが口を開こうとした瞬間、
リリィがぽつりと呟いた。

「いや絶対、嫉妬ですよね……」

「リリィ」

「ひゃんっっ!! す、すみません!!」

レイヴンが眉をひそめるその様に、
フィオナはますます困惑した。

「店主さんは、ただ親切に……」

「必要以上の接触だった」

「……必要以上の?」

「……気にするな」

気にするな、と言うほどに、
レイヴンの耳はうっすら赤くなっている。

(まさか……嫉妬……なんてこと、あるの?)

白い結婚、干渉しない約束。
なのに、この人は明らかに自分のことを気にしている。

店の外に出ると、レイヴンはフィオナへ視線を向け直した。

「……買い物は済んだか?」

「は、はい」

「なら戻る。日差しが強いのでな」

その言葉に、リリィがまた小声で騒ぐ。

「いやもう、完全に“溺愛の入り口”……!
公爵様の距離感、白いどころか淡いピンクですよ……!」

フィオナは真っ赤になって、

「リリィ、しーっ!」

と口を押さえた。

でも──胸の奥は、少しだけ嬉しかった。


---

その日。
公爵は初めて知ることになる。

“嫉妬”という感情を。

そしてフィオナもまた、
“白い結婚のはずなのに、どうしてこんなに胸が温かいのだろう”と、
小さな戸惑いを抱き始めていた。


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