『白い結婚から始まったはずなのに、冷徹公爵の溺愛が止まりません!』

しおしお

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第14話 公爵様の“睨み”の理由

第14話 公爵様の“睨み”の理由

買い物騒動の翌日。
フィオナは朝から、なんとなく胸がざわざわしていた。

(公爵様……昨日、明らかに怒ってらしたわよね)

いつも落ち着いている彼が、あんなふうに鋭い目をするなんて。
フィオナはその理由を知りたくて仕方なかった。

その日の午前、
レイヴンは執務室の机に向かっていたが、
フィオナの姿を見ると静かに本を閉じた。

「フィオナ、何か用か」

「あ、あの……少しだけお話しても?」

レイヴンはうなずき、
彼女に向かいの椅子をすすめた。

「どうした」

フィオナは意を決して口を開く。

「昨日、店主さんを……すごく睨んでいらっしゃいましたよね?」

「…………」

レイヴンの手が止まった。

「睨んだつもりはない」

「で、でも……店主さん、怯えて逃げてしまいましたわ」

「……店主の気が弱かっただけだ」

「そう……でしょうか」

フィオナは首をかしげる。
その純粋な問いかけに、レイヴンは視線を逸らした。

(くっ……どう答えればいいのだ、これは……)

レイヴンの脳内は完全に混乱していた。

──昨日の反応は、自分でも驚くほど本能的だった。

フィオナが他の男に褒められて、
胸の中がざわりと揺れ、
言葉にできない違和感が湧き上がった。

それが、嫉妬というものだと
彼はまだ知らない。

フィオナは改めて問いかけた。

「公爵様……あの時、どうしてあんなに険しい表情を?」

沈黙。

沈黙。

沈黙。

レイヴンはゆっくり息を吸い、
言葉を探すように口を開いた。

「……気のせいだ」

「…………」

フィオナは思わず前に身を乗り出した。

「気のせい……?」

「ああ。気のせいだ」

(絶対に気のせいじゃありませんわよね!?)

フィオナの心の声が響き、
その横で控えていたリリィは耐えきれずに口を押さえた。

(公爵様……それは誤魔化しとしてはレベル1……!
どう考えても嫉妬でしょう!?)

しかし口に出したら処刑されるかもしれないので黙るリリィ。

フィオナは首を傾げながら、
恐る恐るもう一歩踏みこんだ。

「……あの店主さんが、私に話しかけたのが不快だったのでしょうか?」

レイヴンの肩がわずかにピクリと動いた。

そして、明らかに声のトーンが硬くなる。

「……必要以上の接触は良くない」

「じゃあ……やっぱり怒っていたのですか?」

「怒っていない」

「じゃあ……睨んでいたのですか?」

「睨んでいない」

「じゃあ……」

「気のせいだ」

フィオナ
「…………」

リリィ
(いや、完全に嫉妬……!)

レイヴンはわずかに咳払いし、視線をそらした。

「とにかく、危険は避けるべきだ。
男がどう言おうと……おまえが困るだろう」

その一言に、フィオナの心がふわりと温かくなる。

(あ……心配してくださってるんだ)

胸の奥がじん、と熱を帯びた。

「ありがとうございます、公爵様」

その控えめな笑顔に、
レイヴンは一瞬だけ息を詰めた。

「……気をつけろ」

それだけ言うと、
耳をうっすら赤くしながら書類に目を戻すレイヴン。

フィオナは部屋を出ながら、胸に手を当てた。

(公爵様……もしかして、本当に……)

“白い結婚”のはずの関係が、
少しだけ違う方向に向かおうとしている──
そんな予感が、確かにした。


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