『白い結婚から始まったはずなのに、冷徹公爵の溺愛が止まりません!』

しおしお

文字の大きさ
15 / 41

第15話 揺れ始めた距離感と、小さな戸惑い

第15話 揺れ始めた距離感と、小さな戸惑い

その日の夕方。
フィオナは読書室で静かに本を閉じた。

ページの区切りに付けた指先が、わずかに震えている。

(……あの様子、やっぱり怒っていたわよね)

公爵が他の男に対してあんな態度を取るとは思わなかった。
氷のように冷静で、感情を表に出さない人だと思っていたのに。

フィオナは胸の前に手を当て、ゆっくりと息を吸う。

(どうして、私はこんなに気にしているのかしら)

白い結婚。
互いに干渉しない関係。
それが条件だったはずなのに。

それなのに──
レイヴンの表情ひとつで、胸がざわついてしまう。

その理由に、彼女自身が気づけていなかった。


---

「フィオナ様、今日のお夕食のご準備が整いました」

声をかけてきたリリィが、いつものように明るく微笑む。

「ありがとうございますわ。すぐに行きます」

フィオナは立ち上がって、
歩きながらぽつりと尋ねた。

「ねえ、リリィ……公爵様は……変わって見える?」

リリィはぴたりと歩みを止める。

「……フィオナ様。正直に言いますね」

「え、ええ」

「変わってます。というか……溶けてます!」

「そ、溶け……!?」

「はい。あの氷晶みたいな公爵様が、最近は常温になってます!」

フィオナは思わず立ち止まった。

「そ、そんなこと……ありますの?」

「ありますとも! 分かりやすいのは……フィオナ様への視線です!」

「視線……?」

「めちゃくちゃ柔らかいです。あれ、誰が見ても“特別扱い”です!」

「と、特別……!」

鼓動が跳ねた。

思わず胸元を押さえるフィオナに、リリィは優しく続ける。

「でも……フィオナ様は不安なんですよね?」

図星だった。
フィオナはそっとうなずいた。

「……白い結婚ですわ。干渉しないって……最初に言われましたもの。
でも、最近の公爵様は……あれを“干渉しない”とは言えなくて」

レイヴンの優しさ、距離の近さ、視線の熱。
どれも、最初の条件とは違っていた。

そして、それがフィオナの心を揺らす。

「ボクは思いますけど……」

リリィは小さく笑った。

「フィオナ様も、公爵様に惹かれてるんじゃありません?」

「そ、そういうわけじゃ……!」

言い返そうとしたが、
言葉が喉の奥で止まった。

否定しようとしてできない。

(私……公爵様のこと、気にしすぎているわ……)

気づきたくなかった気持ちに、
そっと触れてしまったような感覚。


---

夕食の時間、フィオナが食堂に入ると
レイヴンがすでに席についていた。

顔を上げた瞬間、
彼の視線がフィオナにすっと吸い寄せられる。

その瞳は、
昨日までよりも少しだけ柔らかい。

胸が、またどくんと脈打つ。

(どうして……こんなに意識してしまうのかしら)

彼は白い妻として迎えてくれた。
それ以上でも、それ以下でもないはず。

なのに──
自分の心が勝手に色づいていく。

フィオナは困惑しながら席につき、
ぎこちなくスープを口に運んだ。

レイヴンが気遣うように尋ねる。

「……食欲がないのか?」

「い、いえ! そんなことは……!」

「顔色が悪い。無理をしているのではないか」

その声がやさしくて、
フィオナはさらに視線をそらしてしまう。

(そんなふうに優しくされると……ますます……)

「……心配ですか?」
思わず口から漏れた。

レイヴンは一瞬だけ目を見開き──
ほんの少しだけ頬を染めた。

「……当然だ。おまえは、この家の……」

言いかけて、言葉を飲み込む。

(……この家の“妻”だ、と言いかけた?)

胸が熱くなる。

「大切にするべき存在だからな」

ぽつりと落ちたその言葉に、
フィオナは反射的に手を胸に当てた。

白い結婚のはずなのに。

その“白”が、
少しずつ透明から淡い色に変わりつつある。

(私……どうしたらいいのかしら)

それが、彼女の素直な気持ちだった。


--
感想 0

あなたにおすすめの小説

酔っぱらい令嬢の英雄譚 ~チョコレートを食べていたら、いつの間にか第三王子を救っていたようです!~

ゆずこしょう
恋愛
婚約者と共に参加するはずだった、 夜会当日── 婚約者は「馬車の予約ができなかった」という理由で、 迎えに来ることはなかった。 そして王宮で彼女が目にしたのは、 婚約者と、見知らぬ女性が寄り添う姿。 領地存続のために婿が必要だったエヴァンジェリンは、 感情に流されることもなく、 淡々と婚約破棄の算段を立て始める。 目の前にあった美味しいチョコレートをつまみながら、 頭の中で、今後の算段を考えていると 別の修羅場が始まって──!? その夜、ほんの少しお酒を口にしたことで、 エヴァンジェリンの評価と人生は、 思いもよらぬ方向へ転がり始める── 2月11日 第一章完結 2月15日 第二章スタート予定

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

【完結】白い結婚を終えて自由に生きてまいります

なか
恋愛
––アロルド、私は貴方が結婚初日に告げた言葉を今でも覚えている。  忘れもしない、あの時貴方は確かにこう言った。  「初めに言っておく、俺達の婚姻関係は白い結婚として……この関係は三年間のみとする」 「白い結婚ですか?」 「実は俺には……他に愛する女性がいる」   それは「公爵家の令嬢との問題」を理由に、三年間だけの白い結婚を強いるもの。 私の意思を無視して三家が取り決めたものであったが、私は冷静に合意を決めた ――それは自由を得るため、そして『私自身の秘密を隠すため』の計算でもあった。 ところが、三年の終わりが近づいたとき、アロルドは突然告白する。「この三年間で君しか見えなくなった。白い結婚の約束をなかったことにしてくれ」と。 「セシーリア、頼む……どうか、どうか白い結婚の合意を無かった事にしてくれ」 アロルド、貴方は何を言い出すの? なにを言っているか、分かっているの? 「俺には君しかいないと、この三年間で分かったんだ」 私の答えは決まっていた。 受け入れられるはずがない。  自由のため、私の秘密を守るため、貴方の戯言に付き合う気はなかった。    ◇◇◇ 設定はゆるめです。 とても強い主人公が自由に暮らすお話となります。 もしよろしければ、読んでくださると嬉しいです!

離婚寸前で人生をやり直したら、冷徹だったはずの夫が私を溺愛し始めています

腐ったバナナ
恋愛
侯爵夫人セシルは、冷徹な夫アークライトとの愛のない契約結婚に疲れ果て、離婚を決意した矢先に孤独な死を迎えた。 「もしやり直せるなら、二度と愛のない人生は選ばない」 そう願って目覚めると、そこは結婚直前の18歳の自分だった! 今世こそ平穏な人生を歩もうとするセシルだったが、なぜか夫の「感情の色」が見えるようになった。 冷徹だと思っていた夫の無表情の下に、深い孤独と不器用で一途な愛が隠されていたことを知る。 彼の愛をすべて誤解していたと気づいたセシルは、今度こそ彼の愛を掴むと決意。積極的に寄り添い、感情をぶつけると――

婚約破棄されるはずでしたが、王太子の目の前で皇帝に攫われました』

鷹 綾
恋愛
舞踏会で王太子から婚約破棄を告げられそうになった瞬間―― 目の前に現れたのは、馬に乗った仮面の皇帝だった。 そのまま攫われた公爵令嬢ビアンキーナは、誘拐されたはずなのに超VIP待遇。 一方、助けようともしなかった王太子は「無能」と嘲笑され、静かに失墜していく。 選ばれる側から、選ぶ側へ。 これは、誰も断罪せず、すべてを終わらせた令嬢の物語。 --

裏切られた令嬢は、30歳も年上の伯爵さまに嫁ぎましたが、白い結婚ですわ。

夏生 羽都
恋愛
王太子の婚約者で公爵令嬢でもあったローゼリアは敵対派閥の策略によって生家が没落してしまい、婚約も破棄されてしまう。家は子爵にまで落とされてしまうが、それは名ばかりの爵位で、実際には平民と変わらない生活を強いられていた。 辛い生活の中で母親のナタリーは体調を崩してしまい、ナタリーの実家がある隣国のエルランドへ行き、一家で亡命をしようと考えるのだが、安全に国を出るには貴族の身分を捨てなければいけない。しかし、ローゼリアを王太子の側妃にしたい国王が爵位を返す事を許さなかった。 側妃にはなりたくないが、自分がいては家族が国を出る事が出来ないと思ったローゼリアは、家族を出国させる為に30歳も年上である伯爵の元へ後妻として一人で嫁ぐ事を自分の意思で決めるのだった。 ※作者独自の世界観によって創作された物語です。細かな設定やストーリー展開等が気になってしまうという方はブラウザバッグをお願い致します。

この度娘が結婚する事になりました。女手一つ、なんとか親としての務めを果たし終えたと思っていたら騎士上がりの年下侯爵様に見初められました。

毒島かすみ
恋愛
真実の愛を見つけたと、夫に離婚を突きつけられた主人公エミリアは娘と共に貧しい生活を強いられながらも、自分達の幸せの為に道を切り開き、幸せを掴んでいく物語です。

王太子妃専属侍女の結婚事情

蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。 未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。 相手は王太子の側近セドリック。 ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。 そんな二人の行く末は......。 ☆恋愛色は薄めです。 ☆完結、予約投稿済み。 新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。 ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。 そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。 よろしくお願いいたします。