『白い結婚から始まったはずなのに、冷徹公爵の溺愛が止まりません!』

しおしお

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第17話 庭に生まれた小さな喫茶店

第17話 庭に生まれた小さな喫茶店

春の風が心地よく吹き抜ける昼下がり。
フィオナは庭の一角に、小さな木のテーブルを置いていた。

テーブルクロスは生成り色で、花の刺繍が入っている。
その上にはハーブティーのポットと、小さな焼き菓子の皿。

(ふふ……ずっとやってみたかったの)

“庭でお茶を楽しめる小さなスペース”
それが今日、ようやく完成したのだ。

椅子を置いて、花を飾って、
お気に入りのカップをそっと並べる。

風がクロスをふわりと揺らした。

(ここで毎日お茶が飲めたら……最高の時間ですわ)

フィオナは満足げに微笑む。

そこへ──

「フィオナ、ここにいたのか」

低い声が背後からした。

振り返ると、レイヴンが立っていた。
執務室から出てきたばかりなのか、手には数枚の書類。

「公爵様。今日はいい天気なので……喫茶スペースを作ってみましたの」

フィオナは少し恥ずかしそうに笑いながら説明した。

レイヴンはテーブルを見つめ、
ゆっくりと一歩近づいた。

「……良い場所だ」

ただそれだけの言葉なのに、
なぜだかいつもより柔らかい響きがあった。

フィオナは嬉しさを隠せず、
ポットを手に取る。

「もしよろしければ……お茶、いかがですか?」

レイヴンは一瞬だけ驚いたように目を瞬いた。

「……いいのか」

「はい。公爵様も忙しいでしょうから、休憩にでも」

その言葉に、レイヴンの目がほんの少しだけ揺れた。

(ああ……誘われて、嬉しいのだ)

本人は気づいていないが、
その反応は“公爵としてのプライド”ではなく
“ひとりの男性としての素直な喜び”だった。

レイヴンは椅子に静かに腰を下ろした。

フィオナは手際よくハーブティーを注ぎ、
焼き菓子をそっと添える。

「どうぞ」

レイヴンはカップを手に取り、
ひと口、ゆっくりと味わった。

「……うまい」

「良かった……庭で飲むとまた違いますでしょう?」

「……ああ。悪くない」

その答えは素っ気ないはずなのに、
フィオナの胸は妙にくすぐったくなる。

そして──その日を境に、奇妙な習慣が生まれた。



翌日。
フィオナが庭に出てハーブを摘んでいると──

「フィオナ、ここにいたのか」

また来た。

執務室から直行したらしいレイヴンが、
まるで“当然のように”庭へ向かってくる。

「よ、よろしければ……今日もお茶、いかがですか?」

「頼む」

答えが早い。

しかも自然。

そしてまた翌日も──

「フィオナ、ここにいたのか」

また来た。

(え……毎日来てくださるの?)

まるで“庭に来るのが日課になってしまった人”のように、
レイヴンは仕事が一区切りつくと必ず庭へやって来る。

もちろん本人は言わない。
言えない。
「フィオナに会いたいから来ている」なんて言える性格ではない。

でも──
来てしまう。

何度でも来てしまう。

リリィが屋敷の奥からこっそり覗いて、
手を震わせながらメモを取っている。

「公爵様、毎日……定時で喫茶タイム……完全にデレ……」

フィオナはそんなこと知らず、
ただ嬉しくて微笑む。

(公爵様が来てくれる時間……なんだか楽しみになってきましたわ)

それは、ゆっくりと始まる“幸せな日常”だった。

そして同時に──
“溶け始めた公爵”を止められる者は、もはや誰もいなかった。


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