『白い結婚から始まったはずなのに、冷徹公爵の溺愛が止まりません!』

しおしお

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第22話 襲撃の気配と、公爵の刃

第22話 襲撃の気配と、公爵の刃

公爵邸への帰路。
馬車は王都から少し離れた街道へ差しかかっていた。

夕暮れの光が長く伸び、周囲には騎士ハロルドを含め三名の護衛が並走する。
その穏やかな光景とは裏腹に、フィオナの胸は落ち着かない。

(さっきの視線……やっぱり気のせいじゃなかった)

馬車の揺れに合わせて、そっと指が震える。
落ち着きたいのに、胸の奥に渦巻く不安が消えない。

その時――

「……止まれ!」

護衛の一人が叫んだ。

馬車が急停止し、フィオナは揺れに耐えながら外を見つめる。

「な、何が……?」

馬車の前方に、黒い布で顔を隠した男たちが三人。
手には短剣と棍棒。

「ちょっと脅すだけでいいんだよな?
傷つけたら依頼主に怒られるって話だしよ」

「へぇ……あの令嬢ひとりで金になるんだもんな」

その声を聞いた瞬間、背筋が凍った。

(わ、私……狙われてる……!?)

護衛騎士たちが剣を抜く音が響く。

「フィオナ様、外へは出ないでください!」

ハロルドの低い声が馬車越しに届く。

騎士たちが男たちへ向かって行く――
だが、その瞬間。

「くそっ、背後にも居たぞ!」

馬車の後方からも黒装束の男たちが現れた。

前後を挟まれ、護衛は焦りの色を濃くする。
フィオナは馬車の簾を握り、息を呑むしかない。

(どうすれば……どうすればいいの……?)

恐怖が喉をつまらせたその瞬間――

「……何をしている」

風を切る音と共に、低く鋭い声が響いた。

「レイヴン……様……!」

馬車の横に、漆黒の馬を駆る男。
そのマントが夕陽を裂きながら翻る。

レイヴン公爵だった。

視線は氷の刃のように冷え切り、
その眼差しは“敵”を即座に値踏みする。

「人払いをしたはずだが。
……まさか、うちの者に手を出すつもりか?」

男たちの顔色が変わった。

「げ、公爵本人かよ……聞いてないぞ!」

「ひ、引け! 死ぬぞ!」

逃げ出そうとした瞬間――

レイヴンの剣が閃いた。

馬を降りるより早く、
彼は一瞬で男たちの前へ移動し、
その剣先は寸分違わず相手の喉元を捉える。

「動くな。
……お前たち程度では、私の妻には触れられない」

冷たい声が、空気を切り裂く。

男たちは恐怖に震え、その場に膝をついた。
護衛騎士たちは状況を即座に理解し、残りの敵を拘束へ向かう。

フィオナは馬車から身を乗り出し、震える声で言った。

「レイヴン様……どうして、ここに……?」

彼は馬車に近づき、フィオナを見つめる。
その眼差しは、戦闘の時とは違っていた。

静かで、しかし深く心配している色。

「……嫌な予感がした。
護衛を増やしても心配で、途中まで迎えにきた」

フィオナの胸が熱くなる。

(そんな……私のために……?)

レイヴンはそっと手を差し伸べる。

「怖かっただろう。
もう大丈夫だ、フィオナ。
私がいる」

その手は、彼の言葉とは裏腹に微かに震えていた。
強すぎる剣の腕を持つ男が、
“ただ守りたい”という一心で震わせる手だった。

フィオナはその手を握り返し、小さく頷いた。

「……はい」

夕暮れの光の中、
二人の距離は、確かに近づいていた。
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