『白い結婚から始まったはずなのに、冷徹公爵の溺愛が止まりません!』

しおしお

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第27話 前婚約者、最後の悪あがき――愚かなる“復縁”願望

第27話 前婚約者、最後の悪あがき――愚かなる“復縁”願望

噂が広まり始めた王都。
その中心で、ひときわ騒がしい男がいた。

前婚約者――オスカー・バルドリン。

彼は酒場の安い椅子にふんぞり返り、
自信に満ちた笑みを浮かべていた。

「公爵様のところに嫁いだ? はっ、あれは仮初めだ。
フィオナは本当の愛に飢えている。
どうせ俺のところに戻ってくる」

周囲の男たちは苦笑しながらも聞き流す。

(飽きた……いつもの妄言だ)
(でもアイツ、本当に復縁できると思ってるのか?)

しかしオスカー本人は、微塵も疑っていなかった。

その時――
酒場の戸口から、一人の若い貴族が駆け込んでくる。

「オスカー殿! 聞きましたか!?」

「……なんだ騒々しい」

「フィオナ様が……前婚約者と密会していたという噂が、
王都中に広まっているんです!」

オスカーの目が輝く。

「ほう……! つまり、俺のことが忘れられなかったわけだ!」

(……違う。そういう意味じゃ……)

若い貴族は心の中で突っ込む。

だがオスカーはもう止まらない。

「よし。これはチャンスだ。
あいつが“俺を恋しがっている”と知ったら、
あの冷徹な公爵もすぐに手を引くだろう!」

(いや、公爵様はそんな人では……)
(むしろ殺しに来る……)

貴族たちは冷や汗をかいていた。

「行くぞ。フィオナを迎えに、公爵邸へだ!」

オスカーは意気揚々と立ち上がり、
まるで自分が英雄にでもなったかのように胸を張る。


---

その頃、公爵邸。

フィオナは庭の喫茶スペースに座り、
静かな午後の風に身を委ねていた。

陽射しは柔らかく、
薔薇の香りが心地よい。

そんな穏やかな時間――
使用人が駆け込んできた。

「フィオナ様! お客様が……その……」

「え……お客様?」

「そ、その……前婚約者のオスカー様が門前に……!」

「……っ!」

フィオナの顔が固まる。

(な、なんで今さら……!?)

動揺するフィオナに、
リリィがすっと隣に立つ。

「フィオナ様は下がってください。
まずは私たちが対応いたします」

「で、でも……」

「公爵様がすぐに来られます。
どうか、ご心配なく」

リリィの言葉に、
フィオナは胸の奥が少しだけ軽くなった。

(レイヴン様……)

その名を思い浮かべた瞬間、
もう自分は“白い結婚”の距離感ではいられなくなっていることに、
フィオナ自身気づき始めていた。


---

門前では――
オスカーが大声を張り上げていた。

「フィオナ! 出てこい!
お前は俺を愛しているんだろう!?
迎えに来てやったぞ!」

門の前の騎士たちは無表情で対応している。

「バルドリン殿、ここは公爵家です。
勝手な言動は慎んでいただく」

「関係ない! フィオナは俺の婚約者だ!」

「……は?」

騎士の目が完全に冷える。

そこへ、屋敷からレイヴンが現れた。

静かに歩み寄る姿は冷徹そのもの。
門前の空気が一瞬で凍りつく。

「……バルドリン。
お前の声は王都中に響かせば満足か?」

オスカーは勝利の笑みを浮かべる。

「レイヴン公爵、俺はフィオナを迎えに来たんだ。
あの子は俺を忘れられない。
噂でもそう言われている!」

レイヴンの表情が、一瞬だけ凍りついたように見えた。

そして――
低く、鋭く呟く。

「……噂に踊らされる愚か者が、ここにもいたか」

その声には、一切の温度がなかった。

騎士たちは背筋を伸ばし、
周囲の空気も緊迫する。

レイヴン公爵は、ゆっくりとオスカーへ歩み寄る。

そして――
“精神的破壊”の序章が静かに始まろうとしていた。
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