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第37話 ふたりで描く未来のスケッチ
第37話 ふたりで描く未来のスケッチ
祝賀会から数日後。
公爵邸の庭は、春の風に揺れる花々が見頃を迎えていた。
そんな中、フィオナとレイヴンは並んで庭を歩いていた。
今日は珍しく、レイヴンが「散歩に行こう」と誘ったのだ。
(……こうして並んで歩くのが、普通になりつつあるなんて)
思い返せば、公爵邸に来た頃は距離を置いていたはずなのに。
今は手をつなぐことも当たり前で、心が落ち着く。
ふと、レイヴンが足を止めた。
「フィオナ。少し話したいことがある」
「はい?」
レイヴンは、いつもの冷徹な表情より柔らかく、
どこか真剣な瞳で彼女を見つめた。
「これからの未来について……君と話したくて」
胸がふわりと熱くなる。
---
「未来、ですか?」
「そうだ。たとえば……君が望む暮らしについて。
公爵夫人としての務務だけでなく、君自身の人生の話も聞きたい」
フィオナは小さく目を瞬かせた。
「わたしの……?」
「君は、我慢ばかりしてきただろう。
だから、これからは“望むもの”を選んでほしい。
好きなことをして、生きてほしいんだ」
レイヴンの言葉はいつも不器用なのに、
芯の部分は驚くほど優しい。
(……こんなふうに気遣ってくれる人が、他にいるでしょうか)
フィオナは静かに頷いた。
「ありがとうございます、レイヴン様。
……少しだけ、話してもいいですか?」
「もちろんだ」
---
二人は庭の東屋に腰掛ける。
「そうですね……わたし、いつか……
庭にもっと大きな喫茶スペースを作りたいんです」
「喫茶スペース?」
「はい。今は小さなテーブルひとつですが、
もっと花を飾って、季節のお茶を楽しめるような……
訪れた方が“ほっとする場所”を作りたくて」
レイヴンは少し驚きつつ、微笑んだ。
「いいな。実に君らしい。
……必要なものがあれば、全部言ってくれ。
私が用意する」
「そんな、全部なんて……!」
「全部だ」
ぴしゃりと断言されてしまった。
(レイヴン様……こういうところ、ずるいんだから……)
---
レイヴンも、ほんの少しだけ視線をそらしながら続けた。
「……それと、もうひとつ。
これは……私の願いなんだが」
「え……?」
レイヴンは深呼吸をした。
「……いつか、君と一緒に旅がしたい」
「旅……?」
「ああ。
王都でも、海でも、山でも……行きたい場所があれば、どこへでも連れて行きたい。
仕事など、どうとでもなる」
「どうとでも……って……そんな……」
ほんの少し笑ってしまった。
レイヴンがここまで妻想いだとは、結婚当初は思いもしなかった。
「君が……どんな景色を見て笑うのか、知りたいんだ」
その言葉は、胸の奥にしっかりと届いた。
---
そして――話題は自然と「家族」の方向へ流れていく。
レイヴンは、少しだけためらいながら口を開く。
「……もうひとつ、聞いてもいいか?」
「はい」
「……その……いつか……子どもが欲しいと思うか?」
フィオナは目を丸くした。
「こ、子ども……ですか?」
「嫌なら……」
「嫌ではありません! ただ……びっくりして……」
レイヴンの声は、どこまでも慎重でやさしい。
「急ぎたいわけではない。
ただ、君と……家族を築けたら、と思って」
(――なんて穏やかで、温かい未来を描く人なんだろう)
フィオナの胸がじんわりと満たされていく。
---
「……はい。いつか……そういう未来も、いいと思います」
フィオナの言葉に、レイヴンの表情がゆっくりとほころぶ。
「ありがとう、フィオナ」
その“ありがとう”が、たまらなく嬉しかった。
花の香りを運ぶ風が、ふたりのあいだを柔らかくすり抜ける。
(白い結婚から始まったはずなのに……
今はもう、こんなにも温かい未来を思い描けるなんて)
レイヴンはそっとフィオナの手を包み込んだ。
「君となら……どんな未来でも歩いていける」
フィオナは小さく微笑み、そっと手を握り返す。
「わたしもです……レイヴン様」
――こうして二人は、
“これから共に生きる未来”を、はじめて言葉にしたのだった。
祝賀会から数日後。
公爵邸の庭は、春の風に揺れる花々が見頃を迎えていた。
そんな中、フィオナとレイヴンは並んで庭を歩いていた。
今日は珍しく、レイヴンが「散歩に行こう」と誘ったのだ。
(……こうして並んで歩くのが、普通になりつつあるなんて)
思い返せば、公爵邸に来た頃は距離を置いていたはずなのに。
今は手をつなぐことも当たり前で、心が落ち着く。
ふと、レイヴンが足を止めた。
「フィオナ。少し話したいことがある」
「はい?」
レイヴンは、いつもの冷徹な表情より柔らかく、
どこか真剣な瞳で彼女を見つめた。
「これからの未来について……君と話したくて」
胸がふわりと熱くなる。
---
「未来、ですか?」
「そうだ。たとえば……君が望む暮らしについて。
公爵夫人としての務務だけでなく、君自身の人生の話も聞きたい」
フィオナは小さく目を瞬かせた。
「わたしの……?」
「君は、我慢ばかりしてきただろう。
だから、これからは“望むもの”を選んでほしい。
好きなことをして、生きてほしいんだ」
レイヴンの言葉はいつも不器用なのに、
芯の部分は驚くほど優しい。
(……こんなふうに気遣ってくれる人が、他にいるでしょうか)
フィオナは静かに頷いた。
「ありがとうございます、レイヴン様。
……少しだけ、話してもいいですか?」
「もちろんだ」
---
二人は庭の東屋に腰掛ける。
「そうですね……わたし、いつか……
庭にもっと大きな喫茶スペースを作りたいんです」
「喫茶スペース?」
「はい。今は小さなテーブルひとつですが、
もっと花を飾って、季節のお茶を楽しめるような……
訪れた方が“ほっとする場所”を作りたくて」
レイヴンは少し驚きつつ、微笑んだ。
「いいな。実に君らしい。
……必要なものがあれば、全部言ってくれ。
私が用意する」
「そんな、全部なんて……!」
「全部だ」
ぴしゃりと断言されてしまった。
(レイヴン様……こういうところ、ずるいんだから……)
---
レイヴンも、ほんの少しだけ視線をそらしながら続けた。
「……それと、もうひとつ。
これは……私の願いなんだが」
「え……?」
レイヴンは深呼吸をした。
「……いつか、君と一緒に旅がしたい」
「旅……?」
「ああ。
王都でも、海でも、山でも……行きたい場所があれば、どこへでも連れて行きたい。
仕事など、どうとでもなる」
「どうとでも……って……そんな……」
ほんの少し笑ってしまった。
レイヴンがここまで妻想いだとは、結婚当初は思いもしなかった。
「君が……どんな景色を見て笑うのか、知りたいんだ」
その言葉は、胸の奥にしっかりと届いた。
---
そして――話題は自然と「家族」の方向へ流れていく。
レイヴンは、少しだけためらいながら口を開く。
「……もうひとつ、聞いてもいいか?」
「はい」
「……その……いつか……子どもが欲しいと思うか?」
フィオナは目を丸くした。
「こ、子ども……ですか?」
「嫌なら……」
「嫌ではありません! ただ……びっくりして……」
レイヴンの声は、どこまでも慎重でやさしい。
「急ぎたいわけではない。
ただ、君と……家族を築けたら、と思って」
(――なんて穏やかで、温かい未来を描く人なんだろう)
フィオナの胸がじんわりと満たされていく。
---
「……はい。いつか……そういう未来も、いいと思います」
フィオナの言葉に、レイヴンの表情がゆっくりとほころぶ。
「ありがとう、フィオナ」
その“ありがとう”が、たまらなく嬉しかった。
花の香りを運ぶ風が、ふたりのあいだを柔らかくすり抜ける。
(白い結婚から始まったはずなのに……
今はもう、こんなにも温かい未来を思い描けるなんて)
レイヴンはそっとフィオナの手を包み込んだ。
「君となら……どんな未来でも歩いていける」
フィオナは小さく微笑み、そっと手を握り返す。
「わたしもです……レイヴン様」
――こうして二人は、
“これから共に生きる未来”を、はじめて言葉にしたのだった。
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