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4-3 紅の指輪が告げる真実
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第4章 4-3 紅の指輪が告げる真実
――夜が、静かに降りていた。
レティシアは侯爵邸のバルコニーに立ち尽くしていた。
風は冷たく、満月が雲の隙間から覗く。
手には、紅く光を放つ指輪。
それは、セドリックとの愛の証であり――同時に、彼を王の陰謀から救う唯一の鍵でもあった。
(あの言葉……「選びなさい、愛する夫を救うか、国の真実を暴くか」)
セレーネの声が頭から離れない。
彼女が消えた後、修道院の祭壇の前に残っていたのは、焦げ跡と血のように赤い花弁。
あれは、幻ではなかった。
王が“聖女の儀”を再び行おうとしている。
その中心に、夫セドリックが選ばれようとしている。
――すべては、彼の知らぬところで。
レティシアは指輪を見つめ、胸の奥で静かに呟いた。
「お願い……教えて。どうすれば、彼を守れるの?」
紅玉は微かに輝き、淡い光を放った。
まるで答えるように、脈を打つ。
---
その夜遅く、執務室の扉が開いた。
セドリックが現れたのは、月が天頂に昇った頃だった。
彼の制服は軍務帰りのまま、肩には白い塵が積もっている。
「まだ起きていたのか」
「ええ……眠れなくて」
レティシアの声は少し掠れていた。
セドリックは彼女の前に立ち、柔らかく笑んだ。
「君のことを考えていた。……式のあとから、少し様子が違う」
彼は紅茶を二つ淹れ、カップを差し出した。
その香りは懐かしく、心を落ち着かせる。
けれど、レティシアの手は震えていた。
「……セドリック。わたくし、あなたに伝えなければならないことがあります」
その声に、彼の瞳が鋭く光る。
「何かあったのか」
彼女は深呼吸をして、言葉を紡いだ。
「三日前、わたくしのもとに一通の手紙が届きました。
差出人は……滅んだはずのドラギア帝国の皇女、セレーネ様です」
セドリックはカップを置き、無言のまま彼女を見つめた。
その視線は冷たくはなかった。むしろ、これから聞く真実を受け止めようとする覚悟のようだった。
「続けてくれ」
「……セレーネ様は、王国が“聖女の力”を偽って利用していると言いました。
王が造り上げた“新聖女リリア”は、本物ではなく、人工的な存在だと」
セドリックの眉がわずかに動く。
だが、驚きではなく、確信を得たような表情だった。
「やはり……そうか」
「……知っていたのですか?」
「噂はあった。だが、確証は得られなかった。……君がそれを聞いたのか」
レティシアは頷き、さらに口を開いた。
「そして……王は“新たな聖女の儀”を行うつもりです。
次の聖女を守護する騎士――つまり、儀式の“供物”として選ばれるのが、あなただと」
その瞬間、セドリックの表情が変わった。
氷のような静けさの中に、激しい怒りが宿る。
「供物……? 王は、私を利用する気か」
拳を握る音が、部屋に響く。
紅茶のカップがかすかに揺れ、皿の上で音を立てた。
レティシアは立ち上がり、彼の手を取った。
「わたくし、止めたいの。あなたが犠牲になるなんて、絶対に許せない!」
「落ち着け、レティシア。……その話、誰かに聞かれたか?」
「いいえ。セレーネ様とわたくしだけです」
「ならば、まだ間に合う」
セドリックは机の上の地図を広げ、北部の軍区を指でなぞる。
「王が儀式を行うなら、北の神殿――聖遺晶の保管地が怪しい。
そこには“封印の間”がある。おそらく、聖女の血を用いた実験が続いているはずだ」
レティシアは息を呑む。
「では、あなたは……調べに行くつもり?」
「いや、私が動けば王に察知される。――君に行ってほしい」
「わたくしが……?」
「“聖女の血”を持つ君なら、聖遺晶に近づける。
そして何より、君の存在そのものが“偽りの聖女”を暴く鍵になる」
彼の瞳が、真剣に光る。
レティシアは震える唇で問う。
「でも、それは危険すぎますわ。わたくしが捕まったら……!」
「その時は、命を賭けてでも君を助ける」
言い切るその声に、迷いはなかった。
だが、その言葉が余計に胸を締め付けた。
(この人は、わたくしを守るために、命を投げ出してしまう……)
沈黙。
そして、二人の間に流れる緊張を破るように、扉がノックされた。
「失礼します! 王都より急報です!」
執事が駆け込む。
手にした王室の封書を差し出した。
金の封蝋――王命を意味する印。
セドリックは封を切り、書状を読む。
その表情が、次第に硬くなっていく。
「……まさか」
レティシアが不安そうに覗き込む。
セドリックは息を詰め、読み上げた。
> 『アークハート侯爵、並びにその夫人レティシアを、王宮へ召喚する。
“聖女の儀”における神託の確認のため、両名の立会いを命ず。
期日は明朝。王命に背けば、反逆と見なす。』
「……召喚令?」
レティシアの声が震える。
まるで“罠”のような文面だった。
セドリックは書状を握りしめ、炎のような瞳で呟いた。
「王はもう、我々の動きを察知している……!」
「どうすればいいの……?」
「行くしかない。逃げれば本当に反逆になる」
彼は立ち上がり、軍服の上着を羽織った。
その動作一つ一つが、決意に満ちている。
「だが、王の思い通りにはさせない。
“聖女の儀”の真実を暴き、奴らの偽りを終わらせる」
レティシアは唇を噛み、彼の背に手を伸ばした。
「わたくしも、一緒に行きます」
「危険だ」
「それでも行きます。あなたと共に立ちたい」
その瞬間、紅の指輪が強く光を放った。
赤い光が二人の手を包み込み、まるで二つの命を結ぶ糸のように絡み合う。
「……見て」
レティシアが囁く。
「まるで、わたしたちの決意を見届けているみたい」
セドリックはその光を見つめ、穏やかに微笑んだ。
「なら、これは“神”が与えた導きだ」
彼はレティシアの頬に手を当て、低く囁く。
「恐れるな。君が信じる真実こそ、我々の武器だ」
その言葉に、レティシアの瞳に涙が浮かぶ。
「……わたくし、あなたを信じます」
夜風が吹き抜け、紅い光が一層強く輝いた。
――それは、二人が運命に立ち向かう誓いの灯。
愛と真実を天秤にかける戦いの幕が、静かに上がった。
---
> 🌹次節・第4章 4-4「聖女の儀と真紅の裁き」では、
王都の大聖堂にて行われる“聖女の儀”の真実が明かされる。
愛を試される二人、そして明かされる“偽りの神託”――
白と紅、光と影が交錯する最終決戦へ。
――夜が、静かに降りていた。
レティシアは侯爵邸のバルコニーに立ち尽くしていた。
風は冷たく、満月が雲の隙間から覗く。
手には、紅く光を放つ指輪。
それは、セドリックとの愛の証であり――同時に、彼を王の陰謀から救う唯一の鍵でもあった。
(あの言葉……「選びなさい、愛する夫を救うか、国の真実を暴くか」)
セレーネの声が頭から離れない。
彼女が消えた後、修道院の祭壇の前に残っていたのは、焦げ跡と血のように赤い花弁。
あれは、幻ではなかった。
王が“聖女の儀”を再び行おうとしている。
その中心に、夫セドリックが選ばれようとしている。
――すべては、彼の知らぬところで。
レティシアは指輪を見つめ、胸の奥で静かに呟いた。
「お願い……教えて。どうすれば、彼を守れるの?」
紅玉は微かに輝き、淡い光を放った。
まるで答えるように、脈を打つ。
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その夜遅く、執務室の扉が開いた。
セドリックが現れたのは、月が天頂に昇った頃だった。
彼の制服は軍務帰りのまま、肩には白い塵が積もっている。
「まだ起きていたのか」
「ええ……眠れなくて」
レティシアの声は少し掠れていた。
セドリックは彼女の前に立ち、柔らかく笑んだ。
「君のことを考えていた。……式のあとから、少し様子が違う」
彼は紅茶を二つ淹れ、カップを差し出した。
その香りは懐かしく、心を落ち着かせる。
けれど、レティシアの手は震えていた。
「……セドリック。わたくし、あなたに伝えなければならないことがあります」
その声に、彼の瞳が鋭く光る。
「何かあったのか」
彼女は深呼吸をして、言葉を紡いだ。
「三日前、わたくしのもとに一通の手紙が届きました。
差出人は……滅んだはずのドラギア帝国の皇女、セレーネ様です」
セドリックはカップを置き、無言のまま彼女を見つめた。
その視線は冷たくはなかった。むしろ、これから聞く真実を受け止めようとする覚悟のようだった。
「続けてくれ」
「……セレーネ様は、王国が“聖女の力”を偽って利用していると言いました。
王が造り上げた“新聖女リリア”は、本物ではなく、人工的な存在だと」
セドリックの眉がわずかに動く。
だが、驚きではなく、確信を得たような表情だった。
「やはり……そうか」
「……知っていたのですか?」
「噂はあった。だが、確証は得られなかった。……君がそれを聞いたのか」
レティシアは頷き、さらに口を開いた。
「そして……王は“新たな聖女の儀”を行うつもりです。
次の聖女を守護する騎士――つまり、儀式の“供物”として選ばれるのが、あなただと」
その瞬間、セドリックの表情が変わった。
氷のような静けさの中に、激しい怒りが宿る。
「供物……? 王は、私を利用する気か」
拳を握る音が、部屋に響く。
紅茶のカップがかすかに揺れ、皿の上で音を立てた。
レティシアは立ち上がり、彼の手を取った。
「わたくし、止めたいの。あなたが犠牲になるなんて、絶対に許せない!」
「落ち着け、レティシア。……その話、誰かに聞かれたか?」
「いいえ。セレーネ様とわたくしだけです」
「ならば、まだ間に合う」
セドリックは机の上の地図を広げ、北部の軍区を指でなぞる。
「王が儀式を行うなら、北の神殿――聖遺晶の保管地が怪しい。
そこには“封印の間”がある。おそらく、聖女の血を用いた実験が続いているはずだ」
レティシアは息を呑む。
「では、あなたは……調べに行くつもり?」
「いや、私が動けば王に察知される。――君に行ってほしい」
「わたくしが……?」
「“聖女の血”を持つ君なら、聖遺晶に近づける。
そして何より、君の存在そのものが“偽りの聖女”を暴く鍵になる」
彼の瞳が、真剣に光る。
レティシアは震える唇で問う。
「でも、それは危険すぎますわ。わたくしが捕まったら……!」
「その時は、命を賭けてでも君を助ける」
言い切るその声に、迷いはなかった。
だが、その言葉が余計に胸を締め付けた。
(この人は、わたくしを守るために、命を投げ出してしまう……)
沈黙。
そして、二人の間に流れる緊張を破るように、扉がノックされた。
「失礼します! 王都より急報です!」
執事が駆け込む。
手にした王室の封書を差し出した。
金の封蝋――王命を意味する印。
セドリックは封を切り、書状を読む。
その表情が、次第に硬くなっていく。
「……まさか」
レティシアが不安そうに覗き込む。
セドリックは息を詰め、読み上げた。
> 『アークハート侯爵、並びにその夫人レティシアを、王宮へ召喚する。
“聖女の儀”における神託の確認のため、両名の立会いを命ず。
期日は明朝。王命に背けば、反逆と見なす。』
「……召喚令?」
レティシアの声が震える。
まるで“罠”のような文面だった。
セドリックは書状を握りしめ、炎のような瞳で呟いた。
「王はもう、我々の動きを察知している……!」
「どうすればいいの……?」
「行くしかない。逃げれば本当に反逆になる」
彼は立ち上がり、軍服の上着を羽織った。
その動作一つ一つが、決意に満ちている。
「だが、王の思い通りにはさせない。
“聖女の儀”の真実を暴き、奴らの偽りを終わらせる」
レティシアは唇を噛み、彼の背に手を伸ばした。
「わたくしも、一緒に行きます」
「危険だ」
「それでも行きます。あなたと共に立ちたい」
その瞬間、紅の指輪が強く光を放った。
赤い光が二人の手を包み込み、まるで二つの命を結ぶ糸のように絡み合う。
「……見て」
レティシアが囁く。
「まるで、わたしたちの決意を見届けているみたい」
セドリックはその光を見つめ、穏やかに微笑んだ。
「なら、これは“神”が与えた導きだ」
彼はレティシアの頬に手を当て、低く囁く。
「恐れるな。君が信じる真実こそ、我々の武器だ」
その言葉に、レティシアの瞳に涙が浮かぶ。
「……わたくし、あなたを信じます」
夜風が吹き抜け、紅い光が一層強く輝いた。
――それは、二人が運命に立ち向かう誓いの灯。
愛と真実を天秤にかける戦いの幕が、静かに上がった。
---
> 🌹次節・第4章 4-4「聖女の儀と真紅の裁き」では、
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