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第二十八話 新しい線引き
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第二十八話 新しい線引き
契約の見直しを提案された翌朝、屋敷の空気はどこか張りつめていました。
崩壊の緊張ではない。
決断の前の静けさ。
私はいつも通りに身支度を整え、朝の書簡に目を通す。
けれど、意識の奥では昨日の言葉が残っていた。
――共に決める形にしたい。
干渉しない契約。
それは守られ、意味を持った。
では、次は。
午前中、アレクシスが正式に私を執務室へ招いた。
「時間を取ってほしい」
「承知しました」
机の上には、新しい書類が置かれている。
「白い結婚と干渉しない契約の見直し案だ」
私は目を落とす。
内容は簡潔だった。
・家の財務および外部契約について、共同確認を行う。
・最終決定権は当主にあるが、助言を拒まない。
・公の場では従来通り体裁を守る。
私は静かに問いかける。
「なぜ、今」
「私は、支えられることを拒否していた」
彼はまっすぐに言った。
「干渉を嫌い、助言を遠ざけた」
「ええ」
「だが、それは強さではなかった」
沈黙が落ちる。
彼の声は落ち着いている。
言い訳も、焦りもない。
「家は立ち直った。だが、偶然ではない」
「選択の結果です」
「その選択を、今度は共有したい」
私はしばらく考えた。
干渉しない契約は、私を守った。
彼を変えた。
家を立て直した。
それを手放すことは、軽くない。
「条件があります」
彼の目がわずかに細まる。
「何だ」
「助言を聞くことと、従うことは別です」
「承知している」
「聞いた上で決断する。責任は当主が負う」
「当然だ」
「そして、約束を破らないこと」
「破らない」
その答えは迷いがなかった。
午後、私は庭園を歩きながら考えた。
線引きは必要だ。
曖昧にすれば、また崩れる。
けれど、線は引き直すこともできる。
夕刻、義母と義弟にも契約見直しの話が伝えられた。
「奥様も関わるのね」
「助言のみです」
私は穏やかに答える。
義弟は少しだけ苦笑した。
「義姉上がいれば、無茶はできないな」
「無茶をしなければよろしい」
以前なら反発した言葉。
今は、受け止められている。
夜。
書斎で、私は改訂された契約書に目を通した。
干渉しない、ではない。
干渉を拒まない。
わずかな違い。
けれど、大きな変化。
ペンを取り、署名する。
アレクシスも続けて署名した。
静かな音。
それは、崩壊の音ではない。
積み上げる音でもない。
線を引き直す音。
「ありがとう」
彼が低く言う。
「約束です」
「新しい、な」
私はわずかに微笑んだ。
干渉しない契約は終わった。
守られたからこそ、終われた。
これからは、共に確認し、共に選び、最終決定は彼が下す。
責任は分散しない。
けれど、孤立もしない。
屋敷の灯りが穏やかに揺れている。
侯爵家は以前とは違う形になった。
そして私は、隣に立つだけではない。
新しい線引きの中で、静かに支える立場へと変わったのです。
契約の見直しを提案された翌朝、屋敷の空気はどこか張りつめていました。
崩壊の緊張ではない。
決断の前の静けさ。
私はいつも通りに身支度を整え、朝の書簡に目を通す。
けれど、意識の奥では昨日の言葉が残っていた。
――共に決める形にしたい。
干渉しない契約。
それは守られ、意味を持った。
では、次は。
午前中、アレクシスが正式に私を執務室へ招いた。
「時間を取ってほしい」
「承知しました」
机の上には、新しい書類が置かれている。
「白い結婚と干渉しない契約の見直し案だ」
私は目を落とす。
内容は簡潔だった。
・家の財務および外部契約について、共同確認を行う。
・最終決定権は当主にあるが、助言を拒まない。
・公の場では従来通り体裁を守る。
私は静かに問いかける。
「なぜ、今」
「私は、支えられることを拒否していた」
彼はまっすぐに言った。
「干渉を嫌い、助言を遠ざけた」
「ええ」
「だが、それは強さではなかった」
沈黙が落ちる。
彼の声は落ち着いている。
言い訳も、焦りもない。
「家は立ち直った。だが、偶然ではない」
「選択の結果です」
「その選択を、今度は共有したい」
私はしばらく考えた。
干渉しない契約は、私を守った。
彼を変えた。
家を立て直した。
それを手放すことは、軽くない。
「条件があります」
彼の目がわずかに細まる。
「何だ」
「助言を聞くことと、従うことは別です」
「承知している」
「聞いた上で決断する。責任は当主が負う」
「当然だ」
「そして、約束を破らないこと」
「破らない」
その答えは迷いがなかった。
午後、私は庭園を歩きながら考えた。
線引きは必要だ。
曖昧にすれば、また崩れる。
けれど、線は引き直すこともできる。
夕刻、義母と義弟にも契約見直しの話が伝えられた。
「奥様も関わるのね」
「助言のみです」
私は穏やかに答える。
義弟は少しだけ苦笑した。
「義姉上がいれば、無茶はできないな」
「無茶をしなければよろしい」
以前なら反発した言葉。
今は、受け止められている。
夜。
書斎で、私は改訂された契約書に目を通した。
干渉しない、ではない。
干渉を拒まない。
わずかな違い。
けれど、大きな変化。
ペンを取り、署名する。
アレクシスも続けて署名した。
静かな音。
それは、崩壊の音ではない。
積み上げる音でもない。
線を引き直す音。
「ありがとう」
彼が低く言う。
「約束です」
「新しい、な」
私はわずかに微笑んだ。
干渉しない契約は終わった。
守られたからこそ、終われた。
これからは、共に確認し、共に選び、最終決定は彼が下す。
責任は分散しない。
けれど、孤立もしない。
屋敷の灯りが穏やかに揺れている。
侯爵家は以前とは違う形になった。
そして私は、隣に立つだけではない。
新しい線引きの中で、静かに支える立場へと変わったのです。
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