婚約破棄?結構ですわ。でも慰謝料は請求

しおしお

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第三章:公爵令嬢の再出発と新たなる波紋

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1.静かなる日常の訪れ

 第三王子アレン・トリスフィアが行方不明になってから、はや数週間が過ぎようとしていた。
 公爵令嬢アナスタシア・オルステッドは、その間も変わらず公爵家の業務を淡々とこなしながら、領地の監査や商会との打ち合わせ、さらには次々に舞い込む縁談話への応対など、多忙な日々を送っている。
 アレンが王都から姿を消したと知ったとき、アナスタシアは特に大きな反応を見せなかった。ただ、「そうですか」と短く言っただけである。それを聞いた公爵家の使用人たちは、皆一様に複雑な表情を浮かべたものの、当のアナスタシアは表情一つ変えず、きっぱりとその話題を打ち切るように去っていった。
 かつて「婚約者」であった男性が、今やどこで何をしているのかさえ分からない。もし彼に対して情が残っていたのなら悲しむところだが、もはやアナスタシアの心に未練はない。むしろ、嵐のような騒動が通り過ぎ、再び静かさを取り戻したことに安堵していた。
 公爵家が居を構える屋敷の庭には、秋の気配が忍び寄っている。白いバラを中心に手入れの行き届いた花壇には、少しずつ深みのある色合いの花々が増え、風もどこか涼やかになってきた。
 ある朝、アナスタシアはいつものように紅茶を片手に、庭先のテラスでくつろぎながら書簡を読んでいた。そこで目に留まったのは、王宮で催される秋の大舞踏会の案内状である。
「……秋の大舞踏会、ですか」
 例年、初秋の時期に王宮で盛大に行われる舞踏会は、社交界の一大イベントだ。王太子や王女をはじめとした主要王族が主賓となり、各国の大使や名だたる貴族が顔を揃える。アナスタシアも公爵令嬢として、毎年この舞踏会に出席しているが……今年はどうなるのか。
 何しろ、第三王子の婚約破棄騒動がまだ記憶に新しく、王宮側も微妙な空気を払拭できないままだ。アナスタシア自身も、気まずさを感じないわけではない。しかし、公爵家を代表する以上、欠席するという選択肢は考えにくい。
「ふむ……いつも通り、粛々と出席すればいいだけのことですわ」
 小さく呟いてカップを置いたアナスタシアは、すぐさま執事を呼び、王宮からの舞踏会案内状に対する返事を出すよう指示する。
 こうして今年も、アナスタシアのもとに「秋の大舞踏会へようこそ」という王宮からの正式な招待状が届くこととなった。今のところ“第三王子の行方不明”は伏せられたままで、王国の外面を取り繕うためにも、王宮行事は滞りなく進められようとしている。


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2.さざ波のように広がる噂

 一方、街では依然として「アレン王子失踪」の話題が根強く残っていた。
「今さらだけど、あの第三王子はいずこへ?」
「カリーナ様とも破局したらしいねぇ」
「公爵令嬢を裏切った報いが来たんだろうさ。そもそも悪いのはあの王子だ」
 そんな声を耳にしても、アナスタシアはまるで気にも留めない。むしろ彼女にとっては、今さら騒ぎ立てるまでもない過去の出来事だ。ただ、王都の社交界には、いまだにアナスタシアを巡る過剰な関心が渦巻いていた。
 ――“元”第三王子の婚約者と呼ばれた彼女は、その後も変わらず品位と威厳を保っている。一方、アレンがあれほど取り乱して消えていったのだから、アナスタシアが「王子を追い詰めた悪女」であるという悪意ある噂も、少なからず存在する。
 しかし、多くの貴族たちは「アナスタシア様には何の落ち度もない」「あれだけ冷静な方が悪女だなんて冗談でしょう」と口を揃え、むしろ彼女を支援していた。
 アナスタシア自身は、そうした評価や噂をことさらに意識することはなく、通常の社交や公務を粛々と続ける。彼女が公爵家の跡取りとして堂々と振る舞い続ける限り、悪意ある噂もやがて消えていくだろう――そう確信していた。
 事実、夏の終わりには公爵家主催の慈善パーティーが開催され、多くの貴婦人が参加した。その場でのアナスタシアの落ち着いた態度や、丁寧に来客をもてなす姿が評判を呼び、「やはりアナスタシア様は素晴らしい方」「あのような女性を手放した第三王子は何を考えていたのか」といった声が一層強まる。
 こうして、公爵家の影響力とアナスタシア個人への評価は、婚約破棄騒動以前にも増して高まっていったのである。


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3.新たな縁談の気配

 そんな折、公爵家には“縁談”に関する話が次々と舞い込んでくる。
 とりわけ、アナスタシアのもとへ持ち込まれる縁談は少なくない。中には「第一王子の腹心を務める侯爵家の嫡男」といった、政治的に大きな後ろ盾を持つ相手もいれば、「王国軍の若き将軍」として名声を得ている貴族など、さまざまな候補が並ぶ。
 元々公爵令嬢として相応の条件を持っていたアナスタシアだが、アレンとの破局後はむしろ「より自由な立場」になったとも見なされ、彼女に好意を寄せる者、あるいは公爵家との結びつきを強めたいと考える者が一斉にアプローチをかけてきているのだ。
 アナスタシアの父である公爵は、一連の騒動後だからこそ慎重に話を進めようと考え、すべての縁談を一旦アナスタシアに報告し、本人の意思を尊重する姿勢を見せている。
「アナスタシア。お前の幸せが何より大事だ。私としては、どれほど家格の高い相手でも、お前が望まないなら無理強いするつもりはない」
 父の言葉を聞き、アナスタシアはそっと微笑む。
「ありがとうございます。――正直に言うと、今はまだあまりそういったことを考える気にはなれません。公爵家の仕事も忙しいですし、そもそも私は、愛のない婚約はもう御免ですわ」
 かつては政治的思惑で結ばれた婚約に、彼女なりに努力して順応しようとしてきた。しかし、結果として婚約者が不誠実な男だった以上、今後は「形だけ」の結婚に自ら飛び込むことはしないだろう――そういう決意があるのだ。
 父である公爵も、その気持ちを尊重する。幸い公爵家は領地も広大で、財政基盤も盤石。アナスタシアが当主の座につくにしても、当面は何ら不安のない体制が築かれている。
 だからこそ父は、アナスタシアにこう続けた。
「もし、お前が自分で相手を選びたいというなら、時間をかけてじっくり見極めればいい。もっとも、あまり長く独身でいると、周りがやかましいのは事実だが……」
「……ええ。それでも、私はまだ自分の意思を第一にしたいと思います」
 そこに微かな苦笑が混じる。父もまた娘に早く安定した結婚相手を見つけてほしい気持ちはあるが、それ以上に、「次の相手こそは、娘が本当に幸せになれるような男であってほしい」という思いが強いのだろう。


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4.秋の大舞踏会の開幕

 そんな風にアナスタシアが新たな道を模索する中、ついに王宮での秋の大舞踏会が幕を開ける。
 天井の高い大広間には、王家が所有する最高級のシャンデリアがいくつも飾られ、無数のキャンドルが灯されている。壁一面に描かれた壁画や、豪奢なカーテン、織物の数々が荘厳な雰囲気を醸し出し、この国が誇る芸術と権威の結晶と言っても過言ではない美しさだ。
 会場の中央では、貴族たちが優雅にステップを踏み、華やかなドレスが円を描きながらくるくると回っている。音楽隊の奏でる旋律は流麗そのもので、各国の大使や外交官も賓客として招かれ、にこやかに杯を交わしていた。
 そこへ、深い青色のドレスをまとったアナスタシアが登場すると、周囲の視線が一斉に集まる。公爵家を代表する令嬢が、本年度の秋の舞踏会にどのような姿で現れるのか――それは多くの出席者の興味の的だったのだ。
「なんてお美しい……」
「まるで、夜空に浮かぶ月の女神のようね」
 思わずため息を漏らす声があちこちで上がる。アナスタシアは青みがかった銀色の髪を緩やかにまとめ、首元を飾る真珠のネックレスをそっと揺らしながら、しとやかに微笑んでいる。
 彼女は周囲の礼に返しつつも、やはりどこか近寄りがたい気品を湛えていて、一部の若い男爵家の子息などは、緊張のあまり声をかけられずに後ずさるほどだった。
 そんな中、次々に貴族や外交官たちがアナスタシアへ挨拶にやってくる。
「オルステッド公爵令嬢、今年もお見事なお姿だ。お父上にもよろしくお伝えください」
「ええ、わざわざありがとうございます」
 以前の婚約破棄の顛末を知ってか知らずか、多くの者が言葉を選びながらも、アナスタシアに対して敬意ある挨拶を送ってくる。その応対を一通り終えると、アナスタシアはほっと小さく息をつき、壁際に用意された椅子に腰掛けた。
 広間の中央では、盛装した貴族たちが踊りの輪を拡げている。そこには第一王子や第二王子の姿もあり、彼らもまた王族としての義務を果たすべく、来賓の姫や貴婦人たちの相手をしていた。
 ――第三王子の姿は、当然どこにもない。
(王家も、第三王子の存在を完全に隠すことはできないでしょうけれど……。こうして何もなかったかのように振る舞うのが、王族というものなのね)
 アナスタシアは静かに目を伏せる。たとえ心の奥に複雑なものを抱えていようとも、今は何事もないように振る舞うのが、この国の社交界の“ルール”なのだろう。


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5.思わぬ出会いと怪しい影

 そんなとき、突然アナスタシアの前に、一人の青年が姿を現した。
 黒髪を後ろで束ね、端正な顔立ちをした長身の青年。見るからに高貴な雰囲気をまとっているが、どこか軍人らしい鋭さも感じさせる。彼はどこかで見覚えがあるような気もするが……アナスタシアは、はっきり思い出せない。
 青年は礼儀正しくアナスタシアの前で一礼し、柔らかな声で話しかけた。
「オルステッド公爵令嬢、初めまして。私はガブリエル・リンデンバウア侯爵家の嫡男にして、王国軍第三師団を率いる立場を預かっております。ガブリエルとお呼びいただければ幸いです」
「リンデンバウア侯爵家……失礼ですが、私、どこかの席でお会いしたことがあったかしら?」
 リンデンバウア侯爵家は、王国軍でも特に精鋭と評される師団をいくつか輩出してきた、軍事貴族の名門だ。若くして師団長を任される者は珍しく、しかも侯爵家嫡男ならば将来は将軍のポストも狙えるだろう。
 ガブリエルと名乗った青年は、にこやかに微笑みつつ答える。
「以前、ほんの一度だけ、公爵家の慈善パーティーにお邪魔したことがありました。そのときにあなたを遠目に拝見したのですが……こうして直接ご挨拶をするのは今日が初めてになります」
「なるほど……。それはご丁寧にありがとうございます。私のほうこそ失礼をいたしましたわ」
 アナスタシアがそう返すと、ガブリエルはくすりと微笑む。彼の表情には、どこか柔和な余裕が感じられるが、その目には油断ならない鋭さが宿っているようにも見える。
 すると、ガブリエルは続けて言葉を紡ぐ。
「今回の舞踏会、私は王太子殿下からの要請で、警備と警戒の指揮を任されております。といっても、こうした華やかな場では目立った問題も起こりにくいものですが……念のため、来賓の安全を第一に考えたいと思いましてね」
「警備、ですか。確かに、大勢の賓客が集まる場ですものね」
「ええ。特に今年は、隣国の大公や公女もお見えになっている。外交的にも失敗が許されない夜というわけです」
 そう言って、ガブリエルの視線はさりげなく会場をぐるりと見回す。まるで不審者がいないかどうかを確かめるように。
 アナスタシアは、まじめに職務を果たそうとする彼の姿に好感を持ちつつ、少しだけ興味をそそられた。軍部の貴族というと、どこか荒々しいイメージを抱くこともあるが、彼は礼儀作法も心得ているらしい。
 すると、ガブリエルはしばし考えたのち、意を決したように言葉を続ける。
「失礼を承知でお願いがあるのですが……もしよろしければ、一曲、私と踊っていただけませんか。警戒に当たっている立場ではありますが、あまりにも堅苦しくしていると逆に怪しまれるので」
 軍務の一環として、舞踏会に溶け込むために踊りへ誘う――という建前だが、たしかに踊りに誘うには絶好の口実でもある。アナスタシアは少しためらいながらも、穏やかに微笑んだ。
「かまいませんわ。私に踊りの相手が務まるかは分かりませんが、よろしくお願いいたします」
 ガブリエルが丁寧に手を差し出し、アナスタシアはその手を取る。二人は曲の合間を見計らい、舞踏の輪へと入っていった。
 このとき、会場の隅で彼らの様子をじっと見つめる影があったことに、アナスタシアは気づかない。そこには、黒い外套をまとった誰かが、じっと視線を送っていた……。


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6.無言の舞踏と会場を包むざわめき

 穏やかな弦楽器の調べが広間を満たし、貴族たちのステップが優雅に床を鳴らす。
 アナスタシアは、ガブリエルに手を引かれながら、ゆっくりとステップを踏む。長いドレスの裾がふわりと広がり、銀色の髪が微かに揺れる。その姿は多くの人々の目を引きつけ、周囲の人垣からささやきが起こった。
「オルステッド公爵令嬢、あの若い軍人と踊っているわ。素敵な組み合わせね」
「確かリンデンバウア侯爵家の嫡男とか……有名なエリートだって聞くわ」
 アレンとの破局以来、アナスタシアが男性と舞踏を交わす姿はあまり見かけなかったこともあり、周囲は少なからず興味津々だった。
 ガブリエルはさすが軍人だけあって、身体の動きに無駄がなく、リードも的確だ。アナスタシアも長年の社交経験から身につけたステップを自然に合わせ、まるで水面を漂う白鳥のように滑らかに踊る。
 しばらく踊ったのち、ガブリエルが声を落として囁く。
「さすがは公爵令嬢。踊りも完璧ですね。おかげで私も安心してリードできます」
「ふふ、過分なお褒めの言葉ですわ。私もあなたのリードがとても心地よいと感じています」
 互いに微笑を交わし、さらに一回転。会場の華やかな光景が目に流れ込み、豪奢な装飾の数々が視界を彩る。
 ――そんな優雅なひととき。だがその裏で、何か得体の知れない視線が刺さるように感じられたのは、アナスタシアの勘違いではなかった。
 曲が終わり、華麗なステップを締めくくると、ガブリエルは小さく息をついた。
「ありがとうございます。おかげで、会場を見回るという任務を忘れてしまうほど、踊りに集中できましたよ」
「こちらこそ、貴重なお時間をいただき恐縮ですわ。もしまだ警備に戻られるのでしたら、邪魔にならないよう引き下がりますね」
 アナスタシアが礼を述べると、ガブリエルは少し名残惜しそうに微笑む。
「ええ、少し会場を巡回して、不審者がいないか確認をしてきます。また後ほど、お話を聞かせてください」
「……はい。楽しみにしております」
 そう言って別れたあと、アナスタシアは会場の端に戻ってシャンパンを一口飲み、しばし休息をとる。ガブリエルと踊ったことで気分もいくらか解れ、この舞踏会を楽しむ余裕が出てきた。
 ところが、その矢先――視界の隅に、明らかに怪しげな黒い外套の人物が動いたのが見えた。


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7.闇の潜入者と奇妙なメッセージ

 その人物は、他の貴族たちとは明らかに違う雰囲気を醸し出している。顔を隠すように深いフードを被り、華麗なドレスやタキシードを身につけた参加者の中にあって、ただ一人だけ場違いな装いだ。
 普通であれば、王宮の衛兵が真っ先に目をつけ、退場を求めるはず。だが、なぜか誰もその人物に声をかけない。まるで姿を認識していないかのように。
 アナスタシアは一瞬戸惑ったが、嫌な予感がして周囲を注意深く見る。すると、先ほどまで警戒に当たっていた衛兵たちが、この辺りでは見当たらない。いつの間にか人混みに紛れたのだろうか――あるいは何らかの策略でここを避けているのか。
 やがて、その黒い外套の人物は、すっとアナスタシアのほうを向いた。暗いフードの奥から、僅かに覗く瞳が一瞬光ったように見える。
(……何者?)
 警戒を強めるアナスタシア。しかし、ここは王宮の大広間。無闇に騒ぎを起こせば、周囲の賓客に迷惑がかかる。アナスタシアは落ち着いた仕草を装いながら、なるべく人目に付かない場所へと移動して様子を探る。
 すると案の定、その黒い外套の人物も、アナスタシアを追うように足を動かした。明らかにこちらを狙っている。
 広間の脇にある柱の陰に、アナスタシアがさりげなく身を寄せると、その人物も同じ柱の裏へと回り込む。すると、低い声で囁くように言葉を発してきた。
「……公爵令嬢、アナスタシア・オルステッド。あなたにこれを――」
 差し出されたのは、小さな封筒。無地の封筒で、封蝋すら押されていない。アナスタシアは躊躇したが、相手がすぐに立ち去る気配を見せたため、とっさにその封筒を受け取ってしまう。
 そして、その黒い外套の人物は、周囲に気づかれぬよう一瞬にして人混みに消える。まるで最初から幻のように、そこに存在しなかったかのように。
「……一体、何が書いてあるのかしら」
 アナスタシアは、舞踏会の喧噪を遠目にしながら、柱の陰で封筒を開いた。そこには、粗末な紙切れに乱雑な筆跡で、こう記されていた。

> “アナスタシア様、あなたに会いたい。あなたこそが私の救いだ。
だが、今はまだ直接姿を見せられない。
私がいる場所は、王都の――”



 そこまで読んだところで、アナスタシアは文字が消えていくのを感じた。まるでインクが煙のように揮発して、紙から跡形もなく失せてしまう。
「こ、これは……魔術?」
 驚く間もなく、文字は完全に消滅し、白紙になってしまった。魔術を施した手紙、しかも何者かの手により王宮内で渡された――この事実だけでも不気味である。
 とはいえ、一瞬だけ目にしたメッセージには「会いたい」「あなたこそが私の救いだ」といった言葉が書かれていた。
(まさか、アレン……? いいえ、行方不明の彼がこんなところに?)
 一瞬、アレンの名が脳裏をよぎる。だが、根拠はない。むしろアレンがこんな回りくどい手段を使うイメージは薄いし、何よりも彼は魔術に詳しくないと聞いていた。
(誰にせよ、私を“救い”と呼ぶからには、何かしら私に頼みたいことがあるのでしょう。でも、それならば堂々と接触してくればいいものを……)
 考え込むアナスタシア。そのとき、遠くからガブリエルがこちらを探すように視線を巡らせているのが見えた。
 ひとまず、何事もなかったかのように装っておくべきだろう――そう判断したアナスタシアは、封筒と紙切れをドレスの懐に仕舞い込み、ガブリエルに微笑みかけながら再び会場の中央へと戻った。


---

8.ガブリエルとの会話と新たな不安

 再び顔を合わせたガブリエルは、どこか心配そうな表情だった。
「アナスタシア様、先ほど一瞬姿が見えなくなったので、何かあったのではと……」
「ええ、少し人混みに酔ってしまい、柱のあたりで涼んでいただけです。ご心配をおかけしました」
 アナスタシアは余裕の笑みを浮かべて返答する。もちろん、先ほどの謎の人物のことなど話すつもりはない。下手に動揺すれば、周囲にも感づかれてしまうかもしれない。
 ガブリエルはそれ以上問い詰めることはせず、そっと手を貸して席へと案内した。
「ここは人通りが少なく、空気も通りやすい場所ですから、少し落ち着かれるとよろしいでしょう」
 舞踏会の盛り上がる様子を遠巻きに眺められる、奥まった一角。そこに簡易的な椅子が並んでおり、休憩スペースとして設けられている。
 アナスタシアは一息つきながら、わざと軽い口調で切り出した。
「ガブリエル様。先ほど、警備の任に就いておられるとお聞きしましたが、何か怪しい人物などいませんでしたか? 例えば……フードで顔を隠したような」
「フードで顔を隠した者、ですか? そういえば、そんな人物は今のところ確認していませんね。衛兵にもそういった報告はないと思いますが……なにか気になることでも?」
 ガブリエルの目が疑問を含んで光る。アナスタシアは咄嗟に言葉を濁した。
「いいえ、私の見間違いかもしれませんわ。ただ、あまりに派手な装いの人ばかりなので、そういう地味な方がいらしたら逆に目立つかと思ったのですが」
「なるほど。目立ちそうですな。……わかりました。いちおう、部下にも確認しておきましょう。私自身も少し気をつけて見回ってみます」
 にこりと微笑むガブリエル。アナスタシアは心の中で安堵すると同時に、少し不安にもなる。――本当にフードの男を誰も見ていないというならば、あれは一体何者なのか。魔術を扱うほどの人物が、どうして自分に接触してきたのか。
 舞踏会の最中にそんな謎に直面してしまい、アナスタシアの心は落ち着かないままだ。だが、今ここで騒ぎにするわけにもいかず、とりあえずは冷静さを保つしかない。
 ガブリエルが去った後、アナスタシアは一人で考え込む。
(もしや、これまでの婚約破棄騒動に関連する何かかしら? でも、アレン殿下の仕業とは考えにくい。ほかに私を利用しようとする者がいるのか――)


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9.公爵家への帰還と重なる影

 舞踏会が終わった頃、アナスタシアは王家への挨拶をそこそこに切り上げて、公爵家の馬車に乗り込んだ。通常であれば、王族たちと少し言葉を交わしたり、他の貴族との交流を深めたりするものだが、今日は謎の人物から手紙を受け取ったことが気がかりで、早めに退席することにしたのだ。
 馬車の車輪が石畳を踏むリズムに耳を傾けながら、アナスタシアはドレスの懐からあの白紙の紙切れを取り出す。今やそこには何も書かれていないが、魔術で文字を消した以上、何か細工が施してあるかもしれない。
(公爵家に帰ったら、家に伝わる魔道具や識別の術式を使って調べてみましょう)
 そう考えていた矢先、ふと馬車の進みが鈍くなった。御者が何か言葉を発しているのが遠くに聞こえる。
「どうしたのかしら?」
 アナスタシアが窓から外を覗くと、そこには一台の小さな荷車が道を塞ぐように止まっていた。貧しい格好をした老人が、荷車の車輪が外れたらしく、困り果てている。公爵家の御者と従者が降りて手伝おうとしているが、なかなかうまくいかないようだ。
 夜の帳が下りはじめた王都の街路。街灯はあるが、あまり明るくはなく、周囲には人気も少ない。アナスタシアは一応従者たちに任せて、自分は馬車の中で様子を見ることにした。
 しかし、一向に作業が進まず、時間ばかりが過ぎていく。もし荷車が動かせないならば、引き返して別の道を通るか――そう思っていたとき、突然、荷車の向こう側から黒い影がひらりと飛び出してきた。
 ――見る間に、それはアナスタシアの馬車の方へ素早く走り寄ってくる。
 従者たちが気づいて叫ぶが、間に合わない。馬車の扉を開け放ち、その影は一気に車内へ飛び込んできたのだ。
「なっ――!?」
 驚いて後ずさるアナスタシア。すぐに反撃姿勢を取ろうとするが、相手は素早い動きで彼女の腕を掴み、口をふさごうとしてくる。
「くっ……!」
 だが、アナスタシアは咄嗟に相手の喉元を肘で突き、さらに低い声で命令を叫んだ。
「あなたたち、早く!」
 従者たちが馬車に駆け寄り、黒い影を取り押さえようとする。ところが、相手は異常なまでに身軽で、するりと馬車から飛び降り、闇夜の路地へと逃げ込んでいった。
「怪我はありませんか、お嬢様!」
「ええ……なんとか。怪しい人が飛び込んできただけで、私は無事よ。あの人はいったい……」
 従者に支えられながら馬車を降りると、荷車を引いていたという老人の姿も見当たらない。荷車自体も跡形もなく消えている。どうやらこれが陽動か罠だったらしい。
 馬車を守る護衛兵もいたはずなのに、一瞬の隙を突かれ、相手を取り逃してしまった。闇の中に消えたその影は、先ほどの“フードの人物”と関係があるのか、それとも別の刺客なのか。全く分からない。
 アナスタシアは自分の呼吸を整えながら、改めて周囲を見渡す。幸い大事には至らなかったが、もしあれが刃物を手にしていたらと思うと背筋が冷える。
(……ただの盗賊にしては手際が良すぎる。何か意図があって狙われている? まさか、アレン殿下との一件で怨みを買った?)
 考えがぐるぐると巡るが、答えは出ない。ともあれ、従者たちと協力して荷車が残したわずかな痕跡を探るも、すべて巧妙に消されているようだった。
 このままでは危険だということで、アナスタシアは急ぎ別の道を通り、公爵家へと戻る。後日改めて、街の巡回兵やガブリエルら王国軍の一部と連携して捜査を進めるしかないだろう。


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10.暗雲漂う中での決意

 夜遅くに公爵家へ帰り着いたアナスタシアは、すぐに一番信頼できる侍女長と執事、それから父である公爵を呼び出し、今回の出来事を報告した。
「舞踏会の最中に、怪しい人物から謎の手紙を受け取りました。さらに帰路では、何者かが私の馬車に飛び込んできました。……私への悪意を感じます」
 報告を受けた公爵は、その威厳ある眉間に深い皺を刻み、低く唸る。
「なんと……。娘を狙うなど、許し難いことだ。アレン王子との騒動が原因か、あるいは別の陰謀か……。すぐに私のほうでも警備を増やそう。王宮にも報告し、王国軍や近衛騎士団と連携を図る必要があるな」
 侍女長と執事も、早速手配に動く。公爵家の警備体制を強化し、馬車での移動にも護衛を増やすことが決定された。
 アナスタシア自身は、先ほど受け取った手紙(いまは白紙)を慎重に調べてもらうことにする。公爵家には古くから伝わる魔道具や、一通りの魔術解析ができる部下もいるはずだ。
「……ですが、お父様。これが単なる悪戯や盗賊の一件であればともかく、もし何か政治的な陰謀であった場合、王国の安定を揺るがす危険もあります。あまり大げさに騒ぎ立てるのも考えものかと」
 アナスタシアがそう申し出ると、公爵は少し考えてから頷いた。
「確かにな。王都でこんな事件が立て続けに起きれば、国の評判にもかかわる。……わかった。私は表向きには大騒ぎせず、内々に捜査を進めるように手配しよう。お前はしばらく外出を控え、身を守ることを最優先にするんだ」
「承知いたしました」
 静かに首を垂れるアナスタシア。彼女は確かに公爵令嬢としての責務があるが、それ以上に、一人の女性として自分の身を守らねばならない立場でもある。
 婚約破棄騒動を乗り越え、ようやく平穏を手に入れたかに思えた彼女の生活は、思わぬ形で再び波乱の幕を開けようとしていた。
(謎の手紙と奇妙な襲撃……。なぜ今、私が狙われるの? アレン殿下の一件だけが原因ではない気がする。もしや、公爵家の政治的影響力を削ぎたい者の仕業か。あるいは、この国そのものを混乱に陥れたい勢力か……)
 深く考えれば考えるほど、不安は募る。しかし、アナスタシアの瞳には恐れよりもむしろ決意の色が浮かんでいた。
(私には、公爵家の令嬢として責任がある。二度と、自分が受け身の立場に甘んじて流されることはしたくない。もし何者かが私を道具として利用しようとしているのなら、その思惑を打ち砕いてみせるわ)
 アナスタシアは心の中で強く宣言する。
 ――こうして、婚約破棄を経て平穏を取り戻したはずの公爵令嬢の周囲に、再び暗雲が立ち込め始める。かつての第三王子が既に王都から消え去った今、新たに姿を現した闇の勢力は、アナスタシアをどこへと導こうとしているのか。
 ガブリエルとの出会いも、そんな波乱の未来を示す前触れの一つなのかもしれない。アナスタシアは、かつてよりも強く、冷静な思考を失わずに、次なる試練へと立ち向かう覚悟を固めるのだった。


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<エピローグ的予兆>

 翌朝、公爵家の魔術師たちが徹夜で調べた結果、謎の手紙(現在は白紙)に残されていた痕跡は微量の“暗号魔術”の波動であることが判明した。通常のインクではなく、特殊な薬剤を用いて文字を浮かび上がらせ、読んだ瞬間にそれを消す仕掛けらしい。
 しかも、その魔術の系統は“異国”のものと推測された。つまり、国内ではあまり広まっていないはずの技法だ。これが事実ならば、外部からの関与が疑われる。
 一方、馬車を襲撃した者たちについては依然として手がかりが少なく、ただひとつ分かっているのは、あの場に倒れ込んでいた老人も仲間であり、アナスタシアを引きずり出すための囮だったということだけだ。
 公爵はこの結果を受け、王宮やガブリエルら軍の一部と連携して調査を本格化させる方針を固めるが、その一方で、表立った公表は控えることを選ぶ。国内外に波紋を広げる危険があるためだ。
 こうして、アナスタシアのもとに再び危機が忍び寄りつつある――。
 だが、彼女の瞳には怯えではなく、強い意志の炎が灯っている。もう二度と、自分の人生を人任せにはしない。たとえ試練が訪れようとも、アナスタシアは自らの手で運命を切り開く覚悟があった。


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