『ポンコツ社員と呼ばれた私、実はエースでした!?』

しおしお

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第1章 ノロマ子の朝は早い

セクション2:第二営業部の日常

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セクション2:第二営業部の日常
朝のラッシュを抜けて、真子が会社に到着したのは始業の5分前。
いつものように静かに挨拶をして席に着くと、すでに自分のデスクは――見慣れた“山”になっていた。

請求書、見積書、顧客データ、報告書。
そのすべてが雑然と積み上げられ、紙の城塞のようにそびえ立っている。

「ノロマ子、これもお願い」
「はい……」

通りすがりの同僚が、また一枚、書類を上に乗せていった。
「あとで見といて」「これ急ぎで」「ついでにこれも!」
次々と声が飛ぶ。
新人の後輩まで当然のように頼んでくる。

「すみません、私、ちょっと手が——」
「真子さんの方が早いんで!」
「……はい。」

その言葉に反論する者はいない。
なぜなら、彼女が“遅い”と思われているのは、仕事を抱え込みすぎているから――という真実を、誰も知らないからだ。


---

昼休み。
ほとんどの社員が外へランチに出ていく中、真子は机でコンビニおにぎりを食べながら、黙々と数字を入力していた。

「……佐藤さんの案件、単価がずれてる。これじゃ赤字になるわ。」

気づいた不備を直しても、誰も感謝しない。
直したことさえ気づかれない。
それでも彼女は、今日もキーボードを叩き続ける。

> カチャ、カチャ、カチャ……。



「お前、まだ昼飯食ってんのか?」
背後から低い声。
部長・田所重行だ。
中年太りの体型にネクタイを緩めた姿。
眉間のシワと声のトーンが、朝から社内の空気を重くしている。

「ノロマ子、昨日の資料は?」
「はい、もう提出済みです。」
「は? 提出しただと? 納期は今日だぞ!」
「確認だけなら、5分でできると思います。」
「5分でできるか! 口答えするな!」

机をバンと叩く音。
紙の山がわずかに揺れる。
周囲の社員たちは視線を合わせず、まるで嵐が過ぎ去るのを待つように黙り込んだ。

「……申し訳ありません。」

小さく頭を下げた真子の指先は、わずかに震えていた。
だがその手は、すぐに次の資料へと伸びる。
止めてしまえば、誰もこの案件を終わらせられない。


---

田所はデスクに戻り、部内の空気が少しだけ軽くなる。
同僚たちは安堵のため息をつき、さっそくおしゃべりを再開した。

「ノロマ子、また怒られてたね~」
「まあ、しょうがないよ。遅いもん。」
「ね、でも便利だよね。押しつけても全部やってくれるし。」

――“便利”。
それが、彼らが彼女に向ける唯一の評価だった。


---

時計の針が午後五時を回るころ。
次々と同僚たちが帰り支度を始める。
「お先でーす!」
「残業?すごいねぇ~。体壊すなよ~。」

誰も、彼女が他人の仕事を抱えて残っていることに気づかない。
そして真子は、静かにディスプレイに向かって呟く。

> 「どうせ……私がやるしかないのよね。」



疲れた声が、誰もいないオフィスの空気に溶けた。


---

ビルの外はもう夜。
窓ガラスに映る自分の顔を見て、真子は微笑んだ。
「5分で確認できるくらいに作り込んだはず……なのに……。」

その呟きは、弱音ではなく――
小さな決意のようにも聞こえた。

そして彼女は、再びキーボードに手を置いた。
“ノロマ子”の名の下で、誰よりも早く、正確に仕事を片づけていく。

静かな戦いは、まだ続いていた。

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