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第4章 沈む船と浮かぶ女
セクション1:第二営業部の焦り
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セクション1:第二営業部の焦り
---
その日、第二営業部の会議室には重苦しい空気が流れていた。
ホワイトボードに貼られた今期の売上グラフは、
右肩下がりどころか、まるで崖から落ちるような急降下を描いている。
「……どうしてだ。第一営業はあんなに数字を伸ばしているのに……」
「田所部長、うちの案件、今月も納期遅れが十件を超えました」
「取引先からのクレーム対応で一日が終わります……」
報告する社員たちの声は、疲労と諦めに満ちていた。
一方、田所は机を拳で叩き、荒々しく立ち上がる。
「野呂を戻せ! あいつを戻せば全部解決する!」
「え? でも……もう第一営業部の正式メンバーですし……」
「そんなことは関係ない! 俺が育てた部下だ! 責任を取って戻してやる!」
(育てた……?)
部下たちは顔を見合わせ、誰も何も言わなかった。
---
数時間後、田所は社長室へ乗り込んでいた。
勢いよく扉を開けると、社長は書類から顔を上げる。
「どうした、田所君。」
「社長! 野呂真子を第二営業部に戻してください!
あいつはまだ若いし、第一営業には荷が重い!」
社長は眼鏡の奥で目を細めた。
「……荷が重い? 彼女の分析資料のおかげで、第一営業部は売上を倍増させている。
“荷が重い”とは、どういう意味かな?」
「い、いや……それは……」
「田所君。」
社長の声が一段低くなる。
「君が“ノロマ子”と呼んでいたその社員を、
君自身が見抜けなかった。それが現状の結果だ。」
田所は口を開いたまま、何も言い返せなかった。
---
ちょうどその時、ドアがノックされる。
入ってきたのは神宮寺だった。
「失礼します。社長、田所部長の件で少しお時間を。」
社長は頷き、椅子を回転させて神宮寺を見る。
神宮寺は静かな表情で言った。
「野呂真子は、第一営業部に必要な人材です。
彼女の存在がチームの動力となっている。
今さら戻すという話は、現場としても受け入れられません。」
田所は声を荒げる。
「神宮寺部長! あいつは俺の部下だったんだ! 人の部下を横取りしておいて――!」
「横取り?」
神宮寺は表情を変えず、冷静に言い放つ。
「優秀な人材を腐らせないようにしただけです。
それを“横取り”と言うのなら、貴方の部は、人を評価する力すらない。」
「なっ……!」
---
社長が軽くため息をついた。
「田所君。
ここまで落ち込んだ数字を見ても、まだ人材のせいにするのかね?」
田所は唇を噛みしめ、何も答えられなかった。
神宮寺が静かに頭を下げ、部屋を出る。
ドアが閉まる音だけが、重苦しく響く。
社長は机に肘をつきながら、低く告げた。
「君が見るべきだったのは“部下の失敗”ではなく、“部下の可能性”だった。」
その言葉が、田所の胸に重く突き刺さる。
---
社長室を出たあと、
田所は廊下の窓から第一営業部のフロアを見下ろした。
ガラス越しに見えるのは、
楽しそうに同僚と話す野呂真子の姿。
その笑顔は、以前とは違って穏やかで、自信に満ちていた。
(……なんだ、あの顔は……)
握りしめた拳が震える。
怒りなのか、悔しさなのか、自分でもわからない。
だがその瞬間、彼の中にあった“優越感”という名の船は――
静かに沈みはじめていた。
---
その日、第二営業部の会議室には重苦しい空気が流れていた。
ホワイトボードに貼られた今期の売上グラフは、
右肩下がりどころか、まるで崖から落ちるような急降下を描いている。
「……どうしてだ。第一営業はあんなに数字を伸ばしているのに……」
「田所部長、うちの案件、今月も納期遅れが十件を超えました」
「取引先からのクレーム対応で一日が終わります……」
報告する社員たちの声は、疲労と諦めに満ちていた。
一方、田所は机を拳で叩き、荒々しく立ち上がる。
「野呂を戻せ! あいつを戻せば全部解決する!」
「え? でも……もう第一営業部の正式メンバーですし……」
「そんなことは関係ない! 俺が育てた部下だ! 責任を取って戻してやる!」
(育てた……?)
部下たちは顔を見合わせ、誰も何も言わなかった。
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数時間後、田所は社長室へ乗り込んでいた。
勢いよく扉を開けると、社長は書類から顔を上げる。
「どうした、田所君。」
「社長! 野呂真子を第二営業部に戻してください!
あいつはまだ若いし、第一営業には荷が重い!」
社長は眼鏡の奥で目を細めた。
「……荷が重い? 彼女の分析資料のおかげで、第一営業部は売上を倍増させている。
“荷が重い”とは、どういう意味かな?」
「い、いや……それは……」
「田所君。」
社長の声が一段低くなる。
「君が“ノロマ子”と呼んでいたその社員を、
君自身が見抜けなかった。それが現状の結果だ。」
田所は口を開いたまま、何も言い返せなかった。
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ちょうどその時、ドアがノックされる。
入ってきたのは神宮寺だった。
「失礼します。社長、田所部長の件で少しお時間を。」
社長は頷き、椅子を回転させて神宮寺を見る。
神宮寺は静かな表情で言った。
「野呂真子は、第一営業部に必要な人材です。
彼女の存在がチームの動力となっている。
今さら戻すという話は、現場としても受け入れられません。」
田所は声を荒げる。
「神宮寺部長! あいつは俺の部下だったんだ! 人の部下を横取りしておいて――!」
「横取り?」
神宮寺は表情を変えず、冷静に言い放つ。
「優秀な人材を腐らせないようにしただけです。
それを“横取り”と言うのなら、貴方の部は、人を評価する力すらない。」
「なっ……!」
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社長が軽くため息をついた。
「田所君。
ここまで落ち込んだ数字を見ても、まだ人材のせいにするのかね?」
田所は唇を噛みしめ、何も答えられなかった。
神宮寺が静かに頭を下げ、部屋を出る。
ドアが閉まる音だけが、重苦しく響く。
社長は机に肘をつきながら、低く告げた。
「君が見るべきだったのは“部下の失敗”ではなく、“部下の可能性”だった。」
その言葉が、田所の胸に重く突き刺さる。
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社長室を出たあと、
田所は廊下の窓から第一営業部のフロアを見下ろした。
ガラス越しに見えるのは、
楽しそうに同僚と話す野呂真子の姿。
その笑顔は、以前とは違って穏やかで、自信に満ちていた。
(……なんだ、あの顔は……)
握りしめた拳が震える。
怒りなのか、悔しさなのか、自分でもわからない。
だがその瞬間、彼の中にあった“優越感”という名の船は――
静かに沈みはじめていた。
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