『ポンコツ社員と呼ばれた私、実はエースでした!?』

しおしお

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第二部 第3章 筆頭株主の顔

セクション4:真実のざまぁ

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セクション4:真実のざまぁ

出発の日の朝、
田所重行は小さなスーツケースを片手に駅前に立っていた。

灰色の空。
遠くで工事の音が響く。
行き交う人々の中で、彼だけが取り残されたように静かだった。

地方支社――。
それは左遷という名の“現実逃避先”だ。
もはや部下も、肩書きも、彼のもとにはない。

(あの日、俺は全部間違えた)

野呂真子の静かな微笑。
それを思い出すたび、胸の奥が痛む。

“足手まとい”と呼んで嘲笑した女が、
実は会社の柱だった。
彼女がいなければ、自分たちは何一つ成り立っていなかった。

――その事実を、やっと昨日知った。


---

出発まであと一時間。
田所は駅のベンチに腰を下ろし、
スマートフォンを取り出した。

画面には、社内の匿名掲示板。
社員たちの書き込みが並ぶ。

> 「第二営業部の田所部長、地方支社行きだって?」
「ざまぁww」
「まあ、あれだけ部下にパワハラしてたらね」



田所は苦笑した。
(……仕方ねぇ。自業自得だ)

だが、スクロールを止めた指がふと止まる。
投稿欄を開き、しばらく無言で画面を見つめた。

数十秒の沈黙の後、
彼は小さく息を吐いて、
ゆっくりと指を動かし始めた。


---

> 【投稿者:匿名】

“一つだけ、伝えたいことがある。
第二営業部の誰も知らなかった事実だ。
野呂真子という社員が、この会社を何度も救っていた。
彼女がいなければ、今の第一営業部も存在しない。
彼女は派手な言葉を使わず、数字で会社を支えてきた。
あの人こそ、この会社の“良心”だ。
彼女を笑った俺たちは、恥を知るべきだ。”



投稿ボタンを押した指が、かすかに震えた。

(……これでいい)

たった数行。
けれど、田所にとってそれは“懺悔”であり“敬意”だった。


---

新幹線の発車時刻が近づく。
駅の構内アナウンスが流れ、
人々が足早にホームへ向かう。

田所も立ち上がり、改札へ歩き出した。

その背後で、
スマホの画面が新しい通知で光る。

> 【社内掲示板 コメント数:1 → 54 → 127】



彼はそれを見ないまま、
改札をくぐった。


---

一方その頃――。

第一営業部の執務室では、
野呂真子がいつものように資料を整理していた。

隣の席で神宮寺がスマホを覗き込み、
眉をひそめる。

「……これ、見たか?」

「何かありましたか?」

神宮寺が画面を差し出す。
そこには、田所の投稿が。

一瞬、真子の手が止まる。

「……田所部長が?」

「らしいな。
 本人の名は出ていないが、文体があまりに特徴的だ」

真子はしばらく画面を見つめた。
瞳の奥に、一瞬だけ柔らかな光が宿る。

「……そう、ですか」

「君、何も言わないのか?」

「ええ。
 数字で判断するのが、私の仕事ですから」

神宮寺は苦笑する。
「……そういうところ、変わらないな」

「変えたくありません」

彼女の声は静かだった。
だが、その静けさには揺るぎない誇りがあった。


---

その日の午後。
社内の空気が一変した。

休憩スペースでも、会議室でも、誰もが同じ話題をしていた。

「野呂さん、そんなことしてたの?」
「筆頭株主って本当?」
「すげぇな……あの人、ずっと地味に働いてたのに」

嘲笑は、いつしか尊敬に変わっていた。

コピー機の前で、若い社員が呟く。

「“数字で支える”って、かっこいい言葉だよな……」


---

その夜。
真子は一人、オフィスの窓辺に立っていた。
街の灯がガラスに反射し、遠くのビルを照らしている。

手元には、田所から届いた封筒が一つ。
送り主の欄には、ただ「田所」とだけ書かれていた。

中には、手書きの一枚の紙。

> “あんたを見くびってた。
すまなかった。
だが、俺はもう一度、ゼロからやる。
数字の重みを、あんたが教えてくれた。”



真子はゆっくりと封を閉じた。

「……あの人らしいですね」

そして、そっと呟く。

「数字は嘘をつかない。
でも、人は変われる」

その言葉に、自分でも微笑んでいた。


---

翌日。

社長室に呼ばれた真子は、
上條社長から一枚の資料を手渡された。

「掲示板の投稿、見たか?」
「はい」
「君を褒める声が溢れていた。
 だが……本当にすごいのは、君がそれを喜ばなかったことだ」

「私は、仕事をしているだけです」

「その“だけ”が、会社を動かしている」

社長は微笑み、窓の外を見つめた。

「田所は地方支社で、再起を図るそうだ。
 ――彼の目も、ようやく数字を見るようになった」

真子も静かに頷いた。
「良かったです」


---

オフィスに戻ると、
デスクの上に一枚の付箋が貼られていた。

> “野呂さんへ。
あなたのようになりたいです。
新人・川島”



真子はそれを見て、微かに笑った。

(沈黙のざまぁ……。
 派手な言葉は要らない。
 数字と信念が、何よりの証だから)

パソコンを起動し、今日も新しいデータを開く。
静かな指先がキーボードを叩くたび、
新しい未来が少しずつ形になる。


---

> ――ざまぁとは、他人を蹴落とすことではない。
真実を示すことだ。
そして、それを見た誰かの心が変わること。



喫茶店で見た夕陽と同じ光が、
オフィスの窓を淡く染めていた。

野呂真子の“静かなざまぁ”は、
今日もまた、会社の心を動かしている。

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