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第二部 第4章 静かな勝利
セクション2:神宮寺との会話
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セクション2:神宮寺との会話
夜のオフィス。
昼間の喧騒が嘘のように消え、
窓の外には高層ビルの灯りが浮かんでいた。
第一営業部の会議が終わり、
社員たちは次々と帰路についたが――
デスクの一角だけ、まだ灯が残っている。
神宮寺雅也と、野呂真子。
パソコンのモニターに映るエクセルの表を前に、
二人は黙々と数字を見つめていた。
「……この契約、上方修正が必要ですね」
「だな。来季の予測にズレが出る」
短い会話。
それだけで、お互いが何を考えているのか理解できる。
言葉はいらない。
それが、二人の“チーム”のあり方だった。
---
「――終わりました」
真子がキーボードを打ち終え、静かに息を吐く。
神宮寺はコーヒーを差し出した。
「お疲れ。砂糖は?」
「なしで。苦いほうが落ち着きます」
「らしいな」
「え?」
「君は、どんな時も甘い言葉を避ける」
真子は一瞬、目を丸くし、それから小さく笑った。
「甘い言葉より、正確な数字のほうが信頼できますから」
神宮寺も笑う。
「相変わらずだな。
でも――君がそうやって貫いてきた結果が、今の会社を作ったんだ」
「私の力ではありません。
数字の力です」
「……いや、数字を信じ続けられる君の力だよ」
その言葉に、真子は目を伏せた。
---
しばらくの沈黙。
時計の針が小さく音を刻む。
やがて神宮寺がぽつりと口を開いた。
「なあ、野呂。
俺は最初から君を信じてた。
けど……君は、俺をどう見てた?」
真子は視線を上げる。
彼の顔には、穏やかな笑みと、少しの寂しさ。
「私は――数字しか信じていません」
神宮寺は苦笑した。
「それ、前にも言われたな」
「変わりませんから」
「でもな。数字で表せない信頼もある。
俺は、君のそういう部分を信じてた」
真子は、手の中のマグカップを見つめながら答えた。
「信頼は、裏切ることもあります。
でも、数字は嘘をつきません」
「じゃあ俺は、その“数字で表せる信頼”を目指すよ」
「……?」
「君にとって俺が“信頼できるデータ”になるように、努力するってことだ」
真子は驚いたように顔を上げた。
その表情を見て、神宮寺は少し照れたように笑う。
「まあ、俺の言い方じゃ伝わらないかもしれないけどな」
「いいえ。
――とても、わかりやすいです」
一拍置いて、真子は静かに微笑んだ。
---
「神宮寺部長。
あなたが最初に、私を“野呂さん”ではなく“野呂”と呼んだ日を覚えていますか?」
「もちろん。
君が第一営業部に異動してきた初日だ」
「ええ。あのとき、少し救われた気がしました」
「救われた?」
「第二営業部では、私の名前を呼ぶ人はいませんでしたから。
“ノロマ子”としか」
神宮寺の表情が曇る。
「……悪い過去を思い出させたな」
「いいえ。
今では、その“過去のデータ”も必要な材料です。
失敗の統計があるからこそ、改善策が見える。
あれも、無駄ではなかったと思っています」
「ほんと、君は強いな」
「強くなっただけです」
---
オフィスの照明が自動で半分落ちる。
残された光が二人を照らす。
神宮寺は腕時計を見て、
「もうすぐ終電だな」と呟いた。
「送ります」
「大丈夫です。
数字の整理を終えたら帰ります」
「……そうか。君らしいな」
神宮寺は軽く頷くと、
帰り際、ふと立ち止まった。
「野呂。ひとつだけ言わせてくれ」
「なんでしょう」
「“ノロマ子”なんて呼ばれた君を、
俺は一度もノロマだと思ったことはない。
むしろ、誰よりも速かった」
真子は一瞬だけ驚いたように目を見開き、
それから静かに笑った。
「……ありがとうございます。
でも、私はこれからも“ゆっくり正確に”進みます。
速さより、確かさを選びます」
神宮寺は頷き、
「それが、君らしい」とだけ言い残して去っていった。
---
窓の外、夜景がきらめく。
真子はパソコンを閉じ、深く息を吐いた。
デスクに残されたマグカップの縁に、
神宮寺の指の跡がわずかに残っている。
その跡を見つめながら、
彼女は心の中で呟いた。
> 「数字しか信じない――そう言いながら、
本当は、人の“誠意”も信じたいと思っているのかもしれない」
彼女の唇に、微笑が浮かぶ。
外では風が吹き抜け、街の灯が瞬いた。
その光はまるで、
二人の信頼関係のように――
静かに、確かに、輝いていた。
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夜のオフィス。
昼間の喧騒が嘘のように消え、
窓の外には高層ビルの灯りが浮かんでいた。
第一営業部の会議が終わり、
社員たちは次々と帰路についたが――
デスクの一角だけ、まだ灯が残っている。
神宮寺雅也と、野呂真子。
パソコンのモニターに映るエクセルの表を前に、
二人は黙々と数字を見つめていた。
「……この契約、上方修正が必要ですね」
「だな。来季の予測にズレが出る」
短い会話。
それだけで、お互いが何を考えているのか理解できる。
言葉はいらない。
それが、二人の“チーム”のあり方だった。
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「――終わりました」
真子がキーボードを打ち終え、静かに息を吐く。
神宮寺はコーヒーを差し出した。
「お疲れ。砂糖は?」
「なしで。苦いほうが落ち着きます」
「らしいな」
「え?」
「君は、どんな時も甘い言葉を避ける」
真子は一瞬、目を丸くし、それから小さく笑った。
「甘い言葉より、正確な数字のほうが信頼できますから」
神宮寺も笑う。
「相変わらずだな。
でも――君がそうやって貫いてきた結果が、今の会社を作ったんだ」
「私の力ではありません。
数字の力です」
「……いや、数字を信じ続けられる君の力だよ」
その言葉に、真子は目を伏せた。
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しばらくの沈黙。
時計の針が小さく音を刻む。
やがて神宮寺がぽつりと口を開いた。
「なあ、野呂。
俺は最初から君を信じてた。
けど……君は、俺をどう見てた?」
真子は視線を上げる。
彼の顔には、穏やかな笑みと、少しの寂しさ。
「私は――数字しか信じていません」
神宮寺は苦笑した。
「それ、前にも言われたな」
「変わりませんから」
「でもな。数字で表せない信頼もある。
俺は、君のそういう部分を信じてた」
真子は、手の中のマグカップを見つめながら答えた。
「信頼は、裏切ることもあります。
でも、数字は嘘をつきません」
「じゃあ俺は、その“数字で表せる信頼”を目指すよ」
「……?」
「君にとって俺が“信頼できるデータ”になるように、努力するってことだ」
真子は驚いたように顔を上げた。
その表情を見て、神宮寺は少し照れたように笑う。
「まあ、俺の言い方じゃ伝わらないかもしれないけどな」
「いいえ。
――とても、わかりやすいです」
一拍置いて、真子は静かに微笑んだ。
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「神宮寺部長。
あなたが最初に、私を“野呂さん”ではなく“野呂”と呼んだ日を覚えていますか?」
「もちろん。
君が第一営業部に異動してきた初日だ」
「ええ。あのとき、少し救われた気がしました」
「救われた?」
「第二営業部では、私の名前を呼ぶ人はいませんでしたから。
“ノロマ子”としか」
神宮寺の表情が曇る。
「……悪い過去を思い出させたな」
「いいえ。
今では、その“過去のデータ”も必要な材料です。
失敗の統計があるからこそ、改善策が見える。
あれも、無駄ではなかったと思っています」
「ほんと、君は強いな」
「強くなっただけです」
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オフィスの照明が自動で半分落ちる。
残された光が二人を照らす。
神宮寺は腕時計を見て、
「もうすぐ終電だな」と呟いた。
「送ります」
「大丈夫です。
数字の整理を終えたら帰ります」
「……そうか。君らしいな」
神宮寺は軽く頷くと、
帰り際、ふと立ち止まった。
「野呂。ひとつだけ言わせてくれ」
「なんでしょう」
「“ノロマ子”なんて呼ばれた君を、
俺は一度もノロマだと思ったことはない。
むしろ、誰よりも速かった」
真子は一瞬だけ驚いたように目を見開き、
それから静かに笑った。
「……ありがとうございます。
でも、私はこれからも“ゆっくり正確に”進みます。
速さより、確かさを選びます」
神宮寺は頷き、
「それが、君らしい」とだけ言い残して去っていった。
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窓の外、夜景がきらめく。
真子はパソコンを閉じ、深く息を吐いた。
デスクに残されたマグカップの縁に、
神宮寺の指の跡がわずかに残っている。
その跡を見つめながら、
彼女は心の中で呟いた。
> 「数字しか信じない――そう言いながら、
本当は、人の“誠意”も信じたいと思っているのかもしれない」
彼女の唇に、微笑が浮かぶ。
外では風が吹き抜け、街の灯が瞬いた。
その光はまるで、
二人の信頼関係のように――
静かに、確かに、輝いていた。
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*--*--*
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★全31話7時19時更新で、全話予約投稿済みです。
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