『ポンコツ社員と呼ばれた私、実はエースでした!?』

しおしお

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第二部  第4章 静かな勝利

セクション3:社長のモノローグ

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セクション3:社長のモノローグ

夜、社長室。

会議の喧騒も消え、窓の外には高層ビル群の灯が点々と浮かぶ。
デスクの上には整理されきった書類の山。
その中に一枚だけ、古い報告書が置かれていた。

表紙には手書きでこう書かれている。

> 「業務効率改善案 提出者:第二営業部 野呂真子」



上條社長はその紙をゆっくりと指でなぞった。

「……あの頃から、すでに見えていたんだな」

淡く笑みを浮かべる。
その声には、驚きよりも、どこか安堵の響きがあった。


---

デスクの端には、社員データをまとめたモニターが点いている。
“第二営業部・業績推移グラフ”――
その線は、野呂が在籍していた頃だけ緩やかに右肩上がりを描いていた。
だが、彼女が異動した直後、急激に下降している。

「数字は正直だな。
 誰が支えていたか、一目でわかる」

上條はコーヒーを一口飲み、
窓の外に視線を移した。

「“ノロマ子”か……。
 人は見たいものしか見ない。
 だが、彼女は見えない場所で結果を積み上げていた」


---

ふと、机の端に置かれた“株主名簿”が目に入る。
そこに記された一つの名前――

> 『野呂真子 持株比率:12.3%(筆頭株主)』



上條は思わず息を飲んだ。
その事実を最初に知った時の衝撃が、今でも鮮明に蘇る。

(給料の大半を株に……自分の未来ではなく、会社の未来に投資するとはな)

かつて、経営会議で誰かがこう言っていた。
「社員は消耗品だ。数字でしか判断できない」

だが、今の上條にはその言葉が滑稽に思えた。

「数字は彼女の言葉だった。
 数字でしか語らなかったが――
 その数字の裏には、誰よりも“人”を信じる想いがあったんだ」


---

上條は椅子にもたれ、天井を見上げた。

「才能とは、派手なスピーチや結果を出すことじゃない。
 見えないところで会社を動かす力だ」

真子のような人材は、組織の血液だ。
心臓ではない。だが、血が止まれば会社は死ぬ。

「彼女がいる限り、この会社は揺るがない」

その言葉を、ゆっくりと噛み締めた。


---

机の引き出しを開けると、
中から一通の封筒が出てくる。
以前、真子が提出した書類に添えられていたメモだ。

> 『見えない努力ほど、誇り高いものはありません。
評価は不要です。
ただ、数字で結果を出すことが、私の責任です。』



上條はそのメモを手に取り、
深く息をついた。

「……評価は不要、か。
 まったく、難しい社員だ」

だが、その口元には微笑が浮かんでいた。

「評価を求めない者ほど、評価に値する」


---

窓の外に目をやると、
第一営業部のフロアにまだ灯りが一つ残っている。
野呂真子のデスクだ。

彼女は今日も、誰もいないオフィスで数字を整えているのだろう。
その姿が、まるで都市の片隅に灯る“信頼の光”のように見えた。

「……あの光がある限り、この会社は大丈夫だ」

上條は小さく呟き、
デスクのランプを消した。

最後に、彼は真子の名前が記された報告書をそっとファイルに戻す。

「野呂真子――君の“沈黙”が、会社を救った。
 それを誇りに思う」


---

夜風がカーテンを揺らし、
部屋の中に穏やかな空気が流れた。

社長室の時計が、静かに一時を告げる。
上條はジャケットを手に取り、
ドアを閉める直前にもう一度だけ振り返った。

> 「才能とは、静かに会社を動かす力だ。
そして、それを誰かが見ているということ。
……君の努力は、もう数字以上の価値を持っている」



その言葉を残し、
上條は暗い廊下へと消えていった。

窓の外では、
夜の街が息づくように瞬いていた。
その光の中に、確かに――
“沈黙のざまぁ”の勝利が、輝いていた。


--
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