『ポンコツ社員と呼ばれた私、実はエースでした!?』

しおしお

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第二部  第4章 静かな勝利

セクション4:野呂真子の独白

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セクション4:野呂真子の独白

夜更けのオフィス。
誰もいない第一営業部のフロアには、
蛍光灯の残光がゆっくりと薄れていく。

壁の時計の針が、午後十一時を指していた。
静まり返った室内で、ひとりだけ、パソコンの前に座る人影がある。

――野呂真子。

彼女は今日の業務報告をまとめ終えると、
ゆっくりとパソコンの電源を落とした。
画面が暗くなり、ガラス越しに夜景が映る。

ビル群の光が、まるで星のように瞬いていた。


---

デスクの上に置かれた一部の新聞が、
冷たい空調の風にめくられる。
その見出しには、こうあった。

> 『第一営業部、売上前年比250%達成』
『新体制の功労者――野呂部長補佐』



真子はその記事を一瞥し、
すぐに静かにたたんだ。

「……やっと、数字になったのね」

誰に言うでもなく、小さく呟く。

その声には、達成感よりも――
安堵と、ほんの少しの寂しさが混じっていた。


---

「数字は嘘をつかない」

彼女の口癖だった。
でも今、その言葉を口にしても、
少しだけ違う響きがあった。

(けれど、人の努力は――数字になるのに、時間がかかるのね)

そう思いながら、
ふとデスクの隅に置かれた小さな観葉植物に目をやる。

以前、神宮寺が言っていた。
「数字ばかり見てる君に、少しは“緑”を見せてやりたくて」

その葉は、新しい芽を出していた。
真子は小さく笑った。

「……この子も、努力してるのね」


---

窓の外。
夜風がカーテンを揺らす。
真子は立ち上がり、窓辺に寄った。

ガラスに映る自分の姿――
“ノロマ子”と呼ばれていた頃と、何も変わらない。
ただ、背筋だけが少し伸びている。

> 「私は、ただ自分の仕事をしただけ。
それを“ざまぁ”と呼ぶなら、そう呼べばいい。
でも本当は――ただ、認められたかっただけ」



かすかな声が、夜に溶ける。


---

思い返す。
あの頃、押し付けられた仕事の山。
冷たい視線。
無言の中で続けた作業。

(あの時間も、無駄じゃなかったんだわ)

そう思うと、
不思議と胸の奥があたたかくなった。

ふと、机の引き出しから一通の封筒を取り出す。
そこには、神宮寺から贈られた小さなメッセージカードが入っていた。

> 『速さじゃなく、確かさ。
それが君の強さだ。』



真子はカードをそっと撫で、微笑む。

「……部長、あなたの言葉、ちゃんと届いてます」


---

彼女は席に戻り、
もう一度、パソコンの電源を入れる。

画面に映るのは、社内共有フォルダ。
タイトルにはこうあった。

> 「次期業務改革提案書(案)」



マウスを動かす指が止まらない。
次の改善計画、予測モデル、部門間データ統合案――
その全てを、自分の手で組み立てていく。

もう誰に頼まれたわけでもない。
“必要だからやる”――ただ、それだけ。

「沈黙のざまぁ、ね……」

小さく笑う。

「静かに勝って、静かに働く。
 それでいいわ。派手な喝采より、確かな数字の方が心地いいもの」


---

画面を閉じ、再び新聞を手に取る。
記事の下の方に、小さな一文があった。

> 『同社の筆頭株主である野呂真子氏は、
コメントを控えたが、終始穏やかな笑みを浮かべていたという。』



「……コメントなんて、いらないわ」

窓の外を見ながら、
真子は静かに言った。

> 「数字は嘘をつかない。
でも、人の努力は――必ず数字に変わる」



その言葉は、ゆっくりと夜に溶けていく。

蛍光灯が完全に消える直前、
デスクの上の植物が、かすかに葉を揺らした。

まるで――彼女の努力に応えるように。


---

真子はコートを羽織り、
エレベーターに向かう。
ボタンを押す前に、もう一度だけオフィスを振り返った。

> 「ありがとう。
ここは、私の“ざまぁ”が咲いた場所――」



エレベーターの扉が閉まる。

静まり返ったフロアに、
彼女の残したファイル名だけが光っていた。

> 「Project_NOROMA_01」



そのデータは、やがて次の改革の礎となる。
沈黙のまま、確実に会社を動かす――
それが、野呂真子という女の“勝利のかたち”だった。


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