一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお

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プロローグ ――試験会場すれ違い事件――

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 一級魔法使いの資格試験が行われるのは、十年に一度だけだ。
 魔術師なら誰もが震えるほどの大舞台。国の未来を担うエリートが集う、いわば“魔術師界の聖戦”である。

 その会場前、主席卒業のナターシャ・キンスキーは、完璧に整えた髪を風に揺らしながら深呼吸をした。

「今日こそ、私が──私こそが、一級魔法使いになる……!」

 自分に言い聞かせるように小さく拳を握る。

 だが次の瞬間。

「……あれ? シャーリーの姿が……ない?」

 胸元に走る違和感。
 いつもなら、次席のあの女──シャーリー・ドットが、のほほんとした顔で隣にいるはずだった。

 しかし今日は、どこにもいない。

「ま、まさか……隣の会場ってことは……ないわよね?」

 ない、と即座に否定しながらも、ナターシャの声は震えていた。

「あの女、私の前では天然だけど……本気になれば私より強いんだから……。
もし受験し忘れて落ちたら……いや、まさか……本気でそんな……」

 不安で心臓がざわつく中、試験開始の鐘が鳴る。

「シャーリー……どこ行ったのよ……!」

 ナターシャの呟きは、会場のざわめきに飲み込まれていった。

 * * *

 その頃、隣の建物。

「見知った顔がいないわね……みんな緊張してるのかしら?」

 シャーリー・ドットは、のんきに周囲を見回していた。
 魔術師学院の制服姿は、この“料理人試験会場”では明らかに異物だ。

 だが、本人は気づいていない。

 試験官が書類を確認しながら言った。

「えー……本日の課題は“創作料理”です」

「まぁ、料理がテーマだなんて珍しいわね。魔法理論の応用試験かしら?」

 試験官は一瞬、動きを止めた。

「……魔法の使用は禁止ではありませんので、お好きにどうぞ」

「ありがとうございます♪」

 シャーリーはにっこり微笑み、鍋に魔力を注ぐ。
 瞬間、炎がふわりと揺らぎ、柔らかい香りが広がる。

「なに、これ……」「魔法で味付けしてる……?」「火加減が完璧すぎる……!」

 審査員席がざわつく中、シャーリーは軽やかに手を動かした。

「えへへ。魔法を料理に使っちゃいけないなんて書いてなかったから……いいわよね?」

 その笑顔は、国の料理界を大激震させる天才のものだった。

 * * *

 一級魔法使い合格発表の日。

「よし……受かった!やった……!!」

 ナターシャは掲示板を前に喜びを噛みしめた。
 しかし、すぐに表情が凍りつく。

「……シャーリーの名前が……ない?」

 背筋に冷たい汗が伝う。

「どうして……? あの女が落ちるなんて……ありえない……!
まさか……私を油断させるための策略……?
いやでも本当に受けてなかったの……?
え、どういうことなの!?!?」

 動揺するナターシャをよそに、別の場所では——。

「やったわ、合格だわ……!
……えっと、特級……厨師……?
……つて何?」

 シャーリーはきょとんと掲示板を見つめていた。
 記者が群がり、フラッシュが焚かれる。

「史上最年少です!特級厨師の誕生です!」
「王宮から絶対に声がかかりますよ!」
「料理界の革命児だ!」

「え……あ、ありがとう……?」

 シャーリーは軽く微笑む。
 そしてふと呟いた。

「そういえば……一級魔法使い試験って、十年に一度って言ってたっけ……?
十年……?」

 数秒思考したあと、彼女は軽く肩をすくめた。

「十年? 待ってられないし……まあ、料理人で生きていこうっと。」

 その決断が、王国の未来を大きく変えることになるとも知らずに。


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