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第1話 婚約破棄と特級厨師デビュー
しおりを挟む王都アルステラ。
歴史あるラングフォード公爵家の応接間で、シャーリー・ドットは紅茶を飲みながら静かに座っていた。
「……シャーリー。君との婚約を破棄する」
唐突に響いた宣告に、シャーリーはゆるく瞬きをした。
「まあ。どうしてですか?」
対面の男――次期公爵アーネスト・ラングフォードは、深刻ぶった顔で言い放つ。
「君は……一級魔法使いになれなかった。
公爵家の婚約者として相応しくない」
「なるほど、試験会場を間違えた私が悪いですね」
「えっ、やっぱり間違えたのか!?」
「はい。隣の建物でした」
「隣の……」
アーネストは一瞬、理解が追いついていない顔をした。
だがシャーリーは、特に気にした様子もなく、にっこりと笑った。
「でも、ちょうどよかったです。料理大会の準備にもっと時間が使えますね」
「……は?」
「実は出たかったんです。婚約者がいるのに忙しくして申し訳ないと思って遠慮していましたけど……もう思う存分、鍋を振れます!」
「いや……その、だな……?」
婚約破棄を告げたのは自分。
普通なら涙を流す場面。
怒ったり、縋ったりする展開を想像していた。
しかし――
シャーリーは爽やかなほどの笑顔で立ち上がった。
「では、私はこれで。仕込みがありますので」
「し、仕込み……?」
「はい、料理の仕込みです! 大会は明日なんです。ああ、忙しくなりますね~!」
心底楽しそうに退室していくシャーリー。
アーネストは座ったまま、呆然と呟いた。
「……おかしい……?
なぜ……振った側の俺が……負けた気がする……?」
その声は虚しく応接間に吸い込まれた。
そして翌日――
王都料理大会にて。
魔法学院次席のシャーリー・ドットは、
謎の無包丁魔法・高周波切断・永続冷凍・電子波魔法(電子レンジ)
など常識をぶち破る調理法で圧勝。
結果。
「え……合格?しかも特級厨師?……何それ」
特級厨師合格の札を見つめてシャーリーは首を傾げた。
なぜか周囲の審査員は泣いていた。
「料理とは……ここまで行けるのか……!」
「魔法ではない……芸術だ……!」
(料理、褒められた……やったー♪)
一方、同じ頃。
王宮魔術師任命式の控室で、
魔法学院首席・一級魔法使いトップ合格者ナターシャ・キンスキーは、
合格者一覧を見ながら凍りついていた。
「……え?
シャーリーの名前が……ない……?」
震える声でつぶやく。
(嘘よ……シャーリーがいなかったから、私がトップ合格したっていうの……?
本当だったの!?)
そして、彼女の視線は別の掲示板へと移る。
「特級……厨師合格者……?
シャーリー・ドット……!?
な、なんで!?なんで料理でトップなのよ!?どういうことなの!?」
控室に悲鳴が響いた。
この瞬間、ナターシャの人生は想定外の方向へと狂い始める。
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