一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお

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第2話 王宮料理大会と、理解不能な敗北感

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 王宮料理大会・表彰式。

 観客席は歓声に包まれ、中央ではシャーリーがトロフィーを渡されていた。

「優勝は――特級厨師、シャーリー・ドット殿!」

「わぁっ……ありがとうございます!」

 にこやかに受け取るシャーリーの姿は、ただただ素直に嬉しそうで、観客たちは不思議な感動を覚えていた。

「すごい……魔法学院の次席卒業生だって聞いたけど……料理も天才なの?」

「今日の料理、めちゃくちゃ美味しかったわ……なんなの、あの“高周波切断”って」

「厨房が光ってたぞ?」

 口々に囁かれる中、シャーリー本人は“魔法を使ったとは思っていない”。

(切れ味を上げる魔法をかけただけなんだけど……包丁の代わりにもなるのね、便利~)

 そんなのは本人だけの感想である。


---

◆王宮魔術師控室にて

 一方その頃、王宮魔術師として任命式を終えたナターシャは、部下から手渡された報告書を見て固まっていた。

「……大会……優勝……?」

「はい、キンスキー様。シャーリー・ドット殿が圧勝です」

「シャーリーが……?
 ちょっと待って。勝ったのよね?負けたわけじゃないのよね?」

「はい、勝ちました。歴代最高得点らしいです」

「歴代……最高……?」

 ナターシャは壁に手をつき、膝を震わせた。

(嘘よ……料理で歴代最高って何……?
 あの女……魔法では“ならなかった”のに、料理だと“一番”になっちゃうの……?)

 部下は遠慮がちに質問した。

「シャーリー殿は……どんな方なんですか?」

「天才よ。天災でもあるけど。
 私が学院で主席を取れたのは、たまたまよ。
 たまたまシャーリーが“本気を出さなかったから”よ!」

「はあ……」

「しかも今回の試験、シャーリー本人は『会場を間違えた』って言ってたのよ……!」

「……え?」

「一級魔法使いの試験じゃなくて!
 特級厨師の試験を受けたのよ!?
 間違えて!!」

 ナターシャの声は震えていた。

(間違えて……一番……?
 間違えて受けた試験で……私より上の資格を……?
 そんな……そんなことって……)

 考えれば考えるほど、心が折れそうになる。


---

◆会場外・シャーリー

 表彰式を終えたシャーリーは、王宮料理長から声をかけられていた。

「シャーリー殿。ぜひ王宮厨師として働いていただきたい!」

「えっ、私が……?」

「特級厨師が王宮に来るなど、国にとっても大変な名誉です!」

 シャーリーは少し考えたあと、ぱっと笑った。

「料理をたくさんできるなら、ぜひ!」

 こうして、シャーリーはあっさりと王宮厨師になった。


---

◆同じ頃のナターシャ

 偶然、その場面を遠くから見たナターシャは――

「は……?
 王宮厨師……?
 え、ちょっと待って……私より……国王に近いじゃない……?」

 思考が止まった。

「魔術師は通常、王の護衛か、謁見時のみ接触。
 でも料理人は……毎日……王のすぐ近くに……?」

 結論。

「なんで……?
 なんで料理で私のポジション超えてくるのよ!?
 あの女、世界を……裏から支配する気……!?」

「ナターシャ様、落ち着いてください。シャーリー殿は料理が好きなだけかと……」

「料理が好きで!?国王の胃袋掴むの!?怖すぎる!」

 今日だけで三回も部下に止められた。


---

◆その頃のシャーリー

「今日の晩餐、私が担当なんて嬉しいな~。たくさん作ろう!」

 ただのウキウキである。


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