一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお

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第6話 王妃拒否宣言と、震えるナターシャ

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 翌日、王宮の廊下には、妙な噂が駆け巡っていた。

「聞いたか? 陛下が……」
「新任厨師のシャーリー殿を王妃に、って話――」
「まだ噂だが、陛下が『毎日料理を頼みたい』と絶賛していたとか」

 それを聞いた魔術師たちがざわついている横で、
 ナターシャ・キンスキーは――固まっていた。

「……王妃……?」

 手にしていた書類がバサッと落ちる。

「シャーリーが……王妃……?」

 震える声で繰り返す。

「ま、まさか……国王の胃袋を掴んだだけでなく……
 王位そのものまで狙ってるっていうの……?」

「いや、そんなことは絶対ないです」
と部下は即座に否定した。

だがナターシャはもう聞いていない。

「料理……恐ろしいわ……
 魔法よりも即効性のある支配……
 あの女、無自覚に国を掌握する気なのね……!」

「(だからしてませんってば)」


---

◆一方その頃:王宮厨房

 料理場で、シャーリーはのんびりと野菜を刻んでいた。

「ねぇシャーリー。聞いた?」
 同僚の厨師がにやにやしながら話しかける。

「陛下があなたを“王妃にどうか”って検討してるって噂」

「えっ? 王妃?」

 シャーリーはぱちっと目を瞬いた。

「それは……困ります!」

「えっ、困るの?」

「だって、王妃になったら厨房に立てなくなるじゃないですか!」

(※発想が庶民)

「王妃は公務が多いし、毎日料理なんて無理ですよ……!
 私、料理ができない生活なんてイヤです!」

 隣の厨師はぽかんと口を開けた。

「……理由そこ?」

「もちろんです。料理人は料理できてこそ、です!」

「(すごい……“王妃より料理”と思える人間がいた……)」

 その価値観は、王宮内の常識を粉々に粉砕するものであった。


---

◆そして噂は、魔術師団へ届く

「ナターシャ様! たいへんです!」

「今度は何よ……!」

「シャーリー殿が……王妃の話を“全力で拒否した”そうです!」

「――え?」

 ナターシャの目がゆっくりと見開く。

「理由は……『料理できなくなるからイヤ』だそうです」

「…………」

 一瞬、王宮魔術師としての理性がどこかへ飛んだ。

「りょ、料理……?
 料理……のために……
 王妃を断った……?」

 震える声で繰り返す。

「この国の“最高位の女性ポジション”より……
 “厨房”を選んだというの……?」

「その通りです」

「そんな基準……ある!?」

 ナターシャは頭を抱え、廊下にしゃがみ込んだ。

「権力より……
 王妃より……
 王家の血筋より……
 料理……?」

「彼女なりの価値観なんでしょうね……」

「怖っ……!!
 価値観が……規格外すぎる……!!
 あの女の基準が分からない!!」

 ナターシャの悲鳴が王宮に木霊した。


---

◆そこへシャーリー登場

「ナターシャ、お疲れさま~。
 陛下のためのスープ、今日も成功したから少し持ってきたよ!」

「ひっっっ!!?」

(やめてーーーー!!
 “王の胃袋を掴んだ女”が差し入れを持ってくるとか怖すぎる!!)

 ナターシャは逃げ場を探すように視線を泳がせる。

「ねぇナターシャ。
 私、王妃の話断っちゃった。
 だって料理できなくなるの嫌だもの」

「ぎゃあああああああ!!!
 その価値観!!
 理解不能なのよあなたはぁぁぁぁ!!」

 全力で頭を抱え、床にうずくまるナターシャ。

「えっ……? なにか変なこと言った……?」

「変なのは“あなたの世界基準”そのものよ!!」


---

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