一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお

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第5話 国王の胃袋をつかんだ特級厨師

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 王宮厨房の奥。
 夕刻の晩餐準備で慌ただしい空気のなか、シャーリーは落ち着いた表情で大鍋に向かっていた。

「陛下、お疲れ気味なんだって聞いたから……
 今日は身体が温まる優しいスープにしよう」

 彼女は鍋に両手をかざす。

「《微弱火炎魔法(弱火)》、
 それから――《遠赤外線“炭火の火炎”》。
 これで素材の甘味がじっくり引き出されるのよね~」

「……また魔法だと……」

 料理長は半ば呆れた目で見守っていたが、もはや止めない。
 シャーリーの料理が異常に美味しいことは、昨日の大会で証明されている。

「魔法調理は禁止されておらん……。
 結果が出ておるなら……まあ良い……」

 (半分あきらめの境地である)


---

◆国王の晩餐

「では、失礼します。こちらが本日のスープです」

 シャーリーが銀の蓋を外すと、食堂に柔らかな香りが広がった。

 国王は興味深そうにスプーンを口に運ぶ。

「……むっ……!?」

 次の瞬間、国王の表情が一変した。

「身体が……温まる……!
 胃の痛みが和らいでいく……
 これは……ただの食事ではないぞ……!」

 侍医が慌てて脈と魔力を確認する。

「じ、陛下の魔力量が安定しています……!
 体力も回復しておられる……!」

 さらに料理長までも震える。

「やはり……特級厨師……!
 ただの料理ではない……“癒し”の領域……!」

(※シャーリー本人は普通に料理しただけである)

 国王は席を立ち、感動の面持ちでシャーリーを見つめた。

「シャーリー・ドットよ!
 これから毎日、そなたの料理を出してほしい!」

「はい、陛下!がんばります!」

 シャーリーは満面の笑みで答えた。


---

◆その頃:王宮魔術師団

 廊下のあちこちから噂が流れ込んできていた。

「陛下が絶賛されたらしいぞ」
「新任厨師の料理で体調が改善したとか」
「毎日作らせるらしい」

 それを全部聞いてしまったナターシャは、震える声で呟いた。

「ま、毎日……!?
 それってもう……王の健康を“管理”してるってことじゃない……?」

 部下が慎重に声をかける。

「ナターシャ様……落ち着いて……」

「落ち着けるわけないでしょ!!
 これ、もう国王の生命線よ!?
 そんな重大な役目を……料理で奪うなんて……!!
 この女……本気で国を動かすつもりなのね!!?」

「違いますよ!?料理してるだけです!」

「料理で世界を動かせるわよ!!
 胃袋を掴むってそういうことでしょ!!?」

 ナターシャの妄想スピードは止まらない。

「私は魔法で国を守るのに必死なのに……
 シャーリーは料理で国の中心を握っていく……
 これ……新時代の権力形態よ……!」

「(そんな大げさな……)」

 部下は心の中で叫んだ。


---

◆そして、ナターシャの結論

「つまり……
 この女……恐ろしいほどの天然戦略家……!!
 無意識のうちに国王を掌握するなんて……
 私とは次元が違いすぎるわ……!」

 部下は思った。

(シャーリー殿はただ料理が好きなだけです)


---

◆その頃のシャーリー

「陛下、スープ喜んでくれてよかった~。
 明日はもっと美味しいの作ろっと!」

 今日もシャーリーは平和であった。


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