一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお

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第4話 差し入れパニックと、暴走するナターシャの危機感

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 その日の午後。
 王宮魔術師団の執務室では、 ナターシャが机に突っ伏していた。

「……今日は……精神力を削られたわ……」

 部下がそっと声をかける。

「ナターシャ様、さきほどのすれ違いですか?」

「当たり前でしょ……!
 あの女、あの笑顔……!
 こっちは勝手に競ってるのに、向こうは“ほのぼのあいさつ”って何事よ……!」

「(いや、競ってると思ってるのはナターシャ様だけでは)」

 部下はそう思ったが、口には出さなかった。


---

◆コンコン、と扉が鳴る

「ナターシャ、いる~?」

 聞き慣れた柔らかい声。
 ナターシャの背筋がひゅんっと跳ね上がった。

「…………!!??」

 反射的に立ち上がり、部下の背中に隠れる。

「ど、どうして……!!
 なぜここに……!?
 この部屋は魔術師団の聖域よ!?
 料理人が来ていい場所じゃないでしょ!!」

「(そんな決まりどこにもない)」

 部下は再び心の中だけで突っ込む。

 

◆扉が開いた

「ナターシャ、さっきは忙しそうだったから……はい、これ」

 シャーリーが差し出したのは――
 ホカホカの焼き菓子。

「焼きたてよ。休憩にどうぞ」

「ひっ……!!?」

 ナターシャはとっさに床を転がって机の下に逃げ込んだ。

「!?  ちょっ……ナターシャ様!?」

「来たっ……!!ついに来たわ……!!
 この“天才の手作り差し入れ”イベント……!
 これは間違いなくフラグよ……!!」

「フラグではありません」

「いい!?
 こういう“差し入れ”って、普通は友情の証なのよ!
 それを!シャーリーが“天才の力”でやってくるってことは……!」

「ことは……?」

「私を油断させて、次は……次は……!
 “料理界でも魔法界でも一位になりました~”って笑う気なのよ!!」

「そんな発想になるのナターシャ様だけです!」

 

◆シャーリー、少し困惑

「えっ……ナターシャ。
 あの……差し入れ、嫌いだった……?」

 机の下からひょこっと顔を出したナターシャの心が一瞬止まる。

(やめてぇぇぇ!!!
 その罪のない目!!!
 そんな目で見られたら……悪役みたいじゃないのよ私が!!!)

 慌てて飛び出し、シャーリーの手から焼き菓子を受け取る。

「い、いえ!?嫌いじゃないわよ!?
 むしろありがとう!!美味しそうじゃない!!」

「よかったぁ~。
 この焼き菓子、“微弱火炎魔法(弱火)”で丁寧に焼いたの。
 焦げないし、内部の水分をキープして――」

「魔法で焼いてるのぉぉぉ!?
 それもう魔法料理として完成度が高いっていうか……
 魔術師の専門領域に踏み込んでない!?
 なんで毎回自然に越境してくるのよあなたは!!?」

「えっ?だめだった?」

「だめではないけど怖いの!!
 領域を侵食されてる気がするの!!」

 シャーリーはよく分からずに微笑んだ。

「じゃあ、今度は普通の火で焼くね?」

「そ、そういう問題じゃないの……!!」

 

◆そして、決定的な一言が刺さる

「ナターシャって頑張り屋さんだから、甘いもの食べて元気出してね!」

「っっっっ!!!!???」

(やめてぇぇぇぇ!!!
 そんな優しい言葉……!!
 私が勝手にライバル視してるのに……
 そんな天使みたいな声で励ますなんて反則よぉぉぉ!!)

 ナターシャは真っ赤な顔を覆い、部下に抱えられるようにして座ってしまった。

 

◆シャーリーは軽やかに退室

「じゃあ、またねナターシャ~。
 晩餐の準備があるから戻るわ!」

 ぱたん、と扉が閉まる。


---

◆静寂の中で

 ナターシャは机に突っ伏し、震える声で呟いた。

「……なんなの……
 あの女、なんなの……
 なんで“善意”で私の精神を破壊していくのよ……」

 部下はそっと焼き菓子を一つ食べ、感嘆する。

「……うま……。
 これは敵いませんね、ナターシャ様」

「敵うとかそういう問題じゃないのよぉぉ……!!
 料理界でも魔法界でも……
 私、勝ち筋が見えないじゃない……!!」

 焼き菓子の甘い香りが、ナターシャの敗北感をさらに深めた。


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