5 / 33
第4話 差し入れパニックと、暴走するナターシャの危機感
しおりを挟む
その日の午後。
王宮魔術師団の執務室では、 ナターシャが机に突っ伏していた。
「……今日は……精神力を削られたわ……」
部下がそっと声をかける。
「ナターシャ様、さきほどのすれ違いですか?」
「当たり前でしょ……!
あの女、あの笑顔……!
こっちは勝手に競ってるのに、向こうは“ほのぼのあいさつ”って何事よ……!」
「(いや、競ってると思ってるのはナターシャ様だけでは)」
部下はそう思ったが、口には出さなかった。
---
◆コンコン、と扉が鳴る
「ナターシャ、いる~?」
聞き慣れた柔らかい声。
ナターシャの背筋がひゅんっと跳ね上がった。
「…………!!??」
反射的に立ち上がり、部下の背中に隠れる。
「ど、どうして……!!
なぜここに……!?
この部屋は魔術師団の聖域よ!?
料理人が来ていい場所じゃないでしょ!!」
「(そんな決まりどこにもない)」
部下は再び心の中だけで突っ込む。
◆扉が開いた
「ナターシャ、さっきは忙しそうだったから……はい、これ」
シャーリーが差し出したのは――
ホカホカの焼き菓子。
「焼きたてよ。休憩にどうぞ」
「ひっ……!!?」
ナターシャはとっさに床を転がって机の下に逃げ込んだ。
「!? ちょっ……ナターシャ様!?」
「来たっ……!!ついに来たわ……!!
この“天才の手作り差し入れ”イベント……!
これは間違いなくフラグよ……!!」
「フラグではありません」
「いい!?
こういう“差し入れ”って、普通は友情の証なのよ!
それを!シャーリーが“天才の力”でやってくるってことは……!」
「ことは……?」
「私を油断させて、次は……次は……!
“料理界でも魔法界でも一位になりました~”って笑う気なのよ!!」
「そんな発想になるのナターシャ様だけです!」
◆シャーリー、少し困惑
「えっ……ナターシャ。
あの……差し入れ、嫌いだった……?」
机の下からひょこっと顔を出したナターシャの心が一瞬止まる。
(やめてぇぇぇ!!!
その罪のない目!!!
そんな目で見られたら……悪役みたいじゃないのよ私が!!!)
慌てて飛び出し、シャーリーの手から焼き菓子を受け取る。
「い、いえ!?嫌いじゃないわよ!?
むしろありがとう!!美味しそうじゃない!!」
「よかったぁ~。
この焼き菓子、“微弱火炎魔法(弱火)”で丁寧に焼いたの。
焦げないし、内部の水分をキープして――」
「魔法で焼いてるのぉぉぉ!?
それもう魔法料理として完成度が高いっていうか……
魔術師の専門領域に踏み込んでない!?
なんで毎回自然に越境してくるのよあなたは!!?」
「えっ?だめだった?」
「だめではないけど怖いの!!
領域を侵食されてる気がするの!!」
シャーリーはよく分からずに微笑んだ。
「じゃあ、今度は普通の火で焼くね?」
「そ、そういう問題じゃないの……!!」
◆そして、決定的な一言が刺さる
「ナターシャって頑張り屋さんだから、甘いもの食べて元気出してね!」
「っっっっ!!!!???」
(やめてぇぇぇぇ!!!
そんな優しい言葉……!!
私が勝手にライバル視してるのに……
そんな天使みたいな声で励ますなんて反則よぉぉぉ!!)
ナターシャは真っ赤な顔を覆い、部下に抱えられるようにして座ってしまった。
◆シャーリーは軽やかに退室
「じゃあ、またねナターシャ~。
晩餐の準備があるから戻るわ!」
ぱたん、と扉が閉まる。
---
◆静寂の中で
ナターシャは机に突っ伏し、震える声で呟いた。
「……なんなの……
あの女、なんなの……
なんで“善意”で私の精神を破壊していくのよ……」
部下はそっと焼き菓子を一つ食べ、感嘆する。
「……うま……。
これは敵いませんね、ナターシャ様」
「敵うとかそういう問題じゃないのよぉぉ……!!
料理界でも魔法界でも……
私、勝ち筋が見えないじゃない……!!」
焼き菓子の甘い香りが、ナターシャの敗北感をさらに深めた。
王宮魔術師団の執務室では、 ナターシャが机に突っ伏していた。
「……今日は……精神力を削られたわ……」
部下がそっと声をかける。
「ナターシャ様、さきほどのすれ違いですか?」
「当たり前でしょ……!
あの女、あの笑顔……!
こっちは勝手に競ってるのに、向こうは“ほのぼのあいさつ”って何事よ……!」
「(いや、競ってると思ってるのはナターシャ様だけでは)」
部下はそう思ったが、口には出さなかった。
---
◆コンコン、と扉が鳴る
「ナターシャ、いる~?」
聞き慣れた柔らかい声。
ナターシャの背筋がひゅんっと跳ね上がった。
「…………!!??」
反射的に立ち上がり、部下の背中に隠れる。
「ど、どうして……!!
なぜここに……!?
この部屋は魔術師団の聖域よ!?
料理人が来ていい場所じゃないでしょ!!」
「(そんな決まりどこにもない)」
部下は再び心の中だけで突っ込む。
◆扉が開いた
「ナターシャ、さっきは忙しそうだったから……はい、これ」
シャーリーが差し出したのは――
ホカホカの焼き菓子。
「焼きたてよ。休憩にどうぞ」
「ひっ……!!?」
ナターシャはとっさに床を転がって机の下に逃げ込んだ。
「!? ちょっ……ナターシャ様!?」
「来たっ……!!ついに来たわ……!!
この“天才の手作り差し入れ”イベント……!
これは間違いなくフラグよ……!!」
「フラグではありません」
「いい!?
こういう“差し入れ”って、普通は友情の証なのよ!
それを!シャーリーが“天才の力”でやってくるってことは……!」
「ことは……?」
「私を油断させて、次は……次は……!
“料理界でも魔法界でも一位になりました~”って笑う気なのよ!!」
「そんな発想になるのナターシャ様だけです!」
◆シャーリー、少し困惑
「えっ……ナターシャ。
あの……差し入れ、嫌いだった……?」
机の下からひょこっと顔を出したナターシャの心が一瞬止まる。
(やめてぇぇぇ!!!
その罪のない目!!!
そんな目で見られたら……悪役みたいじゃないのよ私が!!!)
慌てて飛び出し、シャーリーの手から焼き菓子を受け取る。
「い、いえ!?嫌いじゃないわよ!?
むしろありがとう!!美味しそうじゃない!!」
「よかったぁ~。
この焼き菓子、“微弱火炎魔法(弱火)”で丁寧に焼いたの。
焦げないし、内部の水分をキープして――」
「魔法で焼いてるのぉぉぉ!?
それもう魔法料理として完成度が高いっていうか……
魔術師の専門領域に踏み込んでない!?
なんで毎回自然に越境してくるのよあなたは!!?」
「えっ?だめだった?」
「だめではないけど怖いの!!
領域を侵食されてる気がするの!!」
シャーリーはよく分からずに微笑んだ。
「じゃあ、今度は普通の火で焼くね?」
「そ、そういう問題じゃないの……!!」
◆そして、決定的な一言が刺さる
「ナターシャって頑張り屋さんだから、甘いもの食べて元気出してね!」
「っっっっ!!!!???」
(やめてぇぇぇぇ!!!
そんな優しい言葉……!!
私が勝手にライバル視してるのに……
そんな天使みたいな声で励ますなんて反則よぉぉぉ!!)
ナターシャは真っ赤な顔を覆い、部下に抱えられるようにして座ってしまった。
◆シャーリーは軽やかに退室
「じゃあ、またねナターシャ~。
晩餐の準備があるから戻るわ!」
ぱたん、と扉が閉まる。
---
◆静寂の中で
ナターシャは机に突っ伏し、震える声で呟いた。
「……なんなの……
あの女、なんなの……
なんで“善意”で私の精神を破壊していくのよ……」
部下はそっと焼き菓子を一つ食べ、感嘆する。
「……うま……。
これは敵いませんね、ナターシャ様」
「敵うとかそういう問題じゃないのよぉぉ……!!
料理界でも魔法界でも……
私、勝ち筋が見えないじゃない……!!」
焼き菓子の甘い香りが、ナターシャの敗北感をさらに深めた。
3
あなたにおすすめの小説
白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。
あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。
無言で睨む夫だが、心の中は──。
【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】
4万文字ぐらいの中編になります。
※小説なろう、エブリスタに記載してます
居場所を失った令嬢と結婚することになった男の葛藤
しゃーりん
恋愛
侯爵令嬢ロレーヌは悪女扱いされて婚約破棄された。
父親は怒り、修道院に入れようとする。
そんな彼女を助けてほしいと妻を亡くした28歳の子爵ドリューに声がかかった。
学園も退学させられた、まだ16歳の令嬢との結婚。
ロレーヌとの初夜を少し先に見送ったせいで彼女に触れたくなるドリューのお話です。
つかぬことを伺いますが ~伯爵令嬢には当て馬されてる時間はない~
有沢楓花
恋愛
「フランシス、俺はお前との婚約を解消したい!」
魔法学院の大学・魔法医学部に通う伯爵家の令嬢フランシスは、幼馴染で侯爵家の婚約者・ヘクターの度重なるストーキング行為に悩まされていた。
「真実の愛」を実らせるためとかで、高等部時代から度々「恋のスパイス」として当て馬にされてきたのだ。
静かに学生生活を送りたいのに、待ち伏せに尾行、濡れ衣、目の前でのいちゃいちゃ。
忍耐の限界を迎えたフランシスは、ついに反撃に出る。
「本気で婚約解消してくださらないなら、次は法廷でお会いしましょう!」
そして法学部のモブ系男子・レイモンドに、つきまといの証拠を集めて婚約解消をしたいと相談したのだが。
「高貴な血筋なし、特殊設定なし、成績優秀、理想的ですね。……ということで、結婚していただけませんか?」
「……ちょっと意味が分からないんだけど」
しかし、フランシスが医学の道を選んだのは濡れ衣を晴らしたり証拠を集めるためでもあったように、法学部を選び検事を目指していたレイモンドにもまた、特殊設定でなくとも、人には言えない事情があって……。
※次作『つかぬことを伺いますが ~絵画の乙女は炎上しました~』(8/3公開予定)はミステリー+恋愛となっております。
悪役令嬢まさかの『家出』
にとこん。
恋愛
王国の侯爵令嬢ルゥナ=フェリシェは、些細なすれ違いから突発的に家出をする。本人にとっては軽いお散歩のつもりだったが、方向音痴の彼女はそのまま隣国の帝国に迷い込み、なぜか牢獄に収監される羽目に。しかし無自覚な怪力と天然ぶりで脱獄してしまい、道に迷うたびに騒動を巻き起こす。
一方、婚約破棄を告げようとした王子レオニスは、当日にルゥナが失踪したことで騒然。王宮も侯爵家も大混乱となり、レオニス自身が捜索に出るが、恐らく最後まで彼女とは一度も出会えない。
ルゥナは道に迷っただけなのに、なぜか人助けを繰り返し、帝国の各地で英雄視されていく。そして気づけば彼女を慕う男たちが集まり始め、逆ハーレムの中心に。だが本人は一切自覚がなく、むしろ全員の好意に対して煙たがっている。
帰るつもりもなく、目的もなく、ただ好奇心のままに彷徨う“無害で最強な天然令嬢”による、帝国大騒動ギャグ恋愛コメディ、ここに開幕!
子育てが落ち着いた20年目の結婚記念日……「離縁よ!離縁!」私は屋敷を飛び出しました。
さくしゃ
恋愛
アーリントン王国の片隅にあるバーンズ男爵領では、6人の子育てが落ち着いた領主夫人のエミリアと領主のヴァーンズは20回目の結婚記念日を迎えていた。
忙しい子育てと政務にすれ違いの生活を送っていた二人は、久しぶりに二人だけで食事をすることに。
「はぁ……盛り上がりすぎて7人目なんて言われたらどうしよう……いいえ!いっそのことあと5人くらい!」
気合いを入れるエミリアは侍女の案内でヴァーンズが待つ食堂へ。しかし、
「信じられない!離縁よ!離縁!」
深夜2時、エミリアは怒りを露わに屋敷を飛び出していった。自室に「実家へ帰らせていただきます!」という書き置きを残して。
結婚20年目にして離婚の危機……果たしてその結末は!?
婚約破棄寸前だった令嬢が殺されかけて眠り姫となり意識を取り戻したら世界が変わっていた話
ひよこ麺
恋愛
シルビア・ベアトリス侯爵令嬢は何もかも完璧なご令嬢だった。婚約者であるリベリオンとの関係を除いては。
リベリオンは公爵家の嫡男で完璧だけれどとても冷たい人だった。それでも彼の幼馴染みで病弱な男爵令嬢のリリアにはとても優しくしていた。
婚約者のシルビアには笑顔ひとつ向けてくれないのに。
どんなに尽くしても努力しても完璧な立ち振る舞いをしても振り返らないリベリオンに疲れてしまったシルビア。その日も舞踏会でエスコートだけしてリリアと居なくなってしまったリベリオンを見ているのが悲しくなりテラスでひとり夜風に当たっていたところ、いきなり何者かに後ろから押されて転落してしまう。
死は免れたが、テラスから転落した際に頭を強く打ったシルビアはそのまま意識を失い、昏睡状態となってしまう。それから3年の月日が流れ、目覚めたシルビアを取り巻く世界は変っていて……
※正常な人があまりいない話です。
白い結婚の行方
宵森みなと
恋愛
「この結婚は、形式だけ。三年経ったら、離縁して養子縁組みをして欲しい。」
そう告げられたのは、まだ十二歳だった。
名門マイラス侯爵家の跡取りと、書面上だけの「夫婦」になるという取り決め。
愛もなく、未来も誓わず、ただ家と家の都合で交わされた契約だが、彼女にも目的はあった。
この白い結婚の意味を誰より彼女は、知っていた。自らの運命をどう選択するのか、彼女自身に委ねられていた。
冷静で、理知的で、どこか人を寄せつけない彼女。
誰もが「大人びている」と評した少女の胸の奥には、小さな祈りが宿っていた。
結婚に興味などなかったはずの青年も、少女との出会いと別れ、後悔を経て、再び運命を掴もうと足掻く。
これは、名ばかりの「夫婦」から始まった二人の物語。
偽りの契りが、やがて確かな絆へと変わるまで。
交差する記憶、巻き戻る時間、二度目の選択――。
真実の愛とは何かを、問いかける静かなる運命の物語。
──三年後、彼女の選択は、彼らは本当に“夫婦”になれるのだろうか?
【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。
猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で――
私の願いは一瞬にして踏みにじられました。
母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、
婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。
「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」
まさか――あの優しい彼が?
そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。
子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。
でも、私には、味方など誰もいませんでした。
ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。
白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。
「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」
やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。
それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、
冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。
没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。
これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。
※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ
※わんこが繋ぐ恋物語です
※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる