一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお

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第8話 講習室騒然、無資格の天才現る

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 初級魔法使い研修――と書かれた講習室は、朝から新任者でにぎわっていた。

「ひゃ、今日はナターシャ・キンスキー様が直々に講義してくださるらしいぞ!」 「首席合格の天才だろ……? 緊張する……!」

 そんなざわめきが飛び交う中、ナターシャは淡々と資料を整えていた。

 ――今日こそ、正式に一級魔法使いとなった私の力量を見せる。

 それはシャーリーに対する宣言でもあった。

「それでは講義を始めるわ。まずは基本属性魔法の――」

 そこで。

 ドンッ!!!

 勢いよく扉が開いた。

「おはよー! シャーリーちゃん来ました~♡」

「な……っ!?」

 講習室全員がぎょっと固まった。

 無資格のくせに、堂々と最高機関に乗り込んできた少女――シャーリー・ドット。

「講義、見学しに来たの。ナターシャの授業、ずっと見たかったんだ~」

「だ、だから来なくていいと言ったでしょう!!」

 声が裏返るナターシャ。
 新任者たちは「なにこの人、そんなにすごいの?」という視線を送る。

 シャーリーはにっこり笑い、手を振った。

「みんな仲良くしよ? 私は無資格だけど、ちょっとした魔法くらいはできるから」

「ちょっとどころではないわよね!?(違法の天才という意味で!)」
 ナターシャは心の中で叫ぶ。

 そして――事件は起きた。


---

■とても控えめな“高周波”

 ナターシャが説明を始める。

「火・水・風・土、四属性の基礎魔法は――」

 シャーリーの手がスッと上がった。

「ねえナターシャ。基礎属性って、どこまで応用していいの?」

「……基礎の話をしているの。応用は後で」

「たとえばね~……」

 シャーリーが指をひと振り。

 ――キィィィィィィィン!!

 空気を裂く鋭音。

 次の瞬間、講習室の前方に置かれていた訓練用の木製ダミーが――

 スパァァァァァン!!!

 輪切りになった。

「なっ……!?」

「うわああああああ!!!?」

「え、なに!? 今なにしたの!?」

 講習室はパニック寸前。

 シャーリーは満面の笑みで言う。

「はい、これが《高周波切断(ハイパー・スライス)》♡
 弱めに出したから、今回は半径三メートルしか切れてないよ?」

 ※普段はもっと切れる。

 ナターシャのこめかみに青筋が浮かぶ。

「な、なにを勝手に実演してるのよっ!!?」

「だって、基礎の応用でしょ? 波形の調整が要なんだよ?」

「基礎のレベルが狂っているのよあなたはあああ!!」


---

■新任者たちの評価が完全に変わる

「あの……無資格で……ここまで……?」

「むしろ国家基準を超えてない……?」

「キンスキー様より強いのでは……?」

 ヒソヒソと新任者の視線がシャーリーに吸い寄せられる。

 ナターシャの心がバキッと音を立てた気がした。

(待って。待って待って待って!?
 今日こそ“首席の私の実力”を見せる日だったのに……
 どうして無資格の天才が全部かっさらっていくのよ……!!)

 ナターシャは必死に気を取り直し、威厳を取り戻すべく声を上げた。

「こ、ここからは私が指導するわ! シャーリー、座っててちょうだい! お願いだから!」

「はーい。ナターシャ、がんばって♡」

 その笑顔がまた余裕に満ちていて、さらにナターシャの心を乱す。

(く……っ! どうしてそんな顔するの……!
 私があなたに負けているみたいじゃない……!!)


---

■講義終了後

 講習が終わる頃、なぜか新任者たちがシャーリーにサインを求めて群がっていた。

「すごかったです! 高周波切断ってどうやって……!」

「冷凍魔法の永久保存って本当に……!?」

「シャーリーさん、弟子入りしたいです!!」

「無資格なのに人気を集めるんじゃないわよおおお!!」

 ナターシャの悲鳴が講習室に響いた。

 そのとき、シャーリーが振り返り、柔らかく微笑んだ。

「ねえナターシャ。私、あなたの授業、ほんと好きだよ。
 あなたが一生懸命まっすぐ教える姿、すごくかっこいい」

「…………っ」

 胸が熱くなる。

 ナターシャは顔を背けた。

「……勝手に褒めないで。今日はもう帰ってちょうだい」

「はーい。じゃあまた明日も来るね♡」

「来ないでぇぇぇぇ!!」

 その叫びは虚しく王都の空に吸い込まれていくのだった。


---
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