一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお

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第9話 会議室での隣席は心臓に悪い

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 王宮の作戦会議室。
 魔王軍残党の調査、魔導庁の予算、王宮食堂の改革――多岐にわたる議題がぎっしり詰まっている。

「では、席順はこちらで」

 書記官の指示で、続々と席に着く参会者たち。  そんな中、ナターシャは資料を抱えつつ、心の準備をしていた。

(今日こそ“冷静沈着な一級魔法使い”としての威厳を見せる……)

 ところが。

「ナターシャ、ここだよ、ここ♡」

 シャーリーが、隣の席をぽんぽん叩いて笑っていた。

 ナターシャの背中に戦慄が走る。

(なぜ。なぜ毎回隣に来るの……!?
 私は静かに会議をしたいだけなのに……!!)

 シャーリーは椅子に座ったナターシャへ、ひょいと身を寄せて小声で話しかけてきた。

「ねえナターシャ、この王宮の会議って難しい話ばっかりね~。
 でもあなた、すごくキリッとしてるから頼りになるわ」

「――ッ!?」

 ナターシャは一瞬、心臓が止まる音を聞いた気がした。

 ……が、次の瞬間。

(まさか……今のって……“嫌味”!?
 私が堅苦しいって暗に言ってるの!?
 はぁ!? そういう心理攻撃!?)

 なぜか被弾した。

 しかし、シャーリーはただ純粋に褒めているだけである。

「ナターシャの説明ってわかりやすいよね~。私、あなたが隣だと安心するの」

「ッ……!?」

 ナターシャは震えた。

(こ、これは……新手の挑発!?
 “隣にいるくらいで安心だなんて調子に乗らないで”って意味!?
 なんなのよ、この女……!!)

 心の中で大騒ぎしていると、会議が始まった。


---

■会議中のすれ違い炸裂

「では、王宮食堂改革案について――」

 議題が進むなか、議長がシャーリーへ意見を求めた。

「特級厨師シャーリー殿。改善案は?」

「はいっ。王宮の厨房の火力が弱いので、できれば魔力導管を太いものに取り替えるべきです」

 シャーリーがすらすら答えると、周囲の視線が感嘆に染まる。

「ほぉ……無資格なのに、厨房の魔力事情に詳しいとは」

「さすが『魔法料理』の人材……!」

 さらに、議長がナターシャに振った。

「キンスキー殿はどう思う?」

「え、ええ……妥当だと思います……」

 本心では激しく同意しているのに、なぜか声が弱々しい。

 シャーリーが「やっぱりナターシャは頼りになるわね~」と笑いかけた瞬間――

 バァン!とナターシャの心の扉が吹き飛んだ。

(だ、だから何なのよその褒め方は!!
 嫌味なの!? 挑発なの!?
 どっちにしても私を殺す気なの!?)

 周囲は「仲良しだな」と微笑ましく見ていたが。

 当人たちの関係は、片側だけめちゃくちゃこじれていた。


---

■会議後

 会議が終わり、部屋を出ようとしたナターシャをシャーリーが追いかけた。

「ねえナターシャ、今日も隣ありがと~。あなたが隣だと落ち着くの」

「どういう意味!?」

「えっ?」

「“私がいなければ落ち着かない”って嫌味!?
 それとも“あなたは堅苦しいから距離が必要”ってこと!?
 いったいどっちなのよ!!」

「な、なんでそうなるの……?」

 シャーリーはぽかんと首を傾げる。

 ナターシャは、真っ赤になって叫んだ。

「あなたの褒め言葉は全部私への攻撃なのよ!!」

「褒めてるだけなんだけど!?」

「やめて!! 本気で心臓に悪いの!!」

 廊下にこだまする悲鳴。

 こうして、また一つナターシャの誤解が深まっていくのだった。


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