一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお

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第10話 手作りスイーツは恋の罠?

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ナターシャが魔導研究室で書類と格闘していた午後。

 コンコン、と控えめなノックがした。

「ナターシャ、ちょっといい?」

 その声を聞いた瞬間、ナターシャの背筋が跳ねた。

(来た……! なぜ……なぜあの女は毎回、私の一番疲れてるタイミングを狙って現れるの!?
 嗅覚でもついてるの!?)

 ドアが開き、シャーリーが小さな籠を抱えて入ってくる。

「がんばってるみたいだから、差し入れにお菓子を作ってきたの」

 にっこりと微笑んで、机に置かれたのは――
 金色に輝く焼き菓子。

「……な、なにこれ」

「《微弱火炎魔法(スロー・フレイム)》でじっくり焼き上げた特製フィナンシェよ。
 魔力の循環が良くなるように工夫したの」

 その瞬間、ナターシャの脳内でサイレンが鳴り響く。

(魔力調整……!? そんな高度な調理魔術、聞いたことがないわ!!
 ま、まさか……これはただの差し入れじゃなく……)

 ナターシャはごくりと唾を飲む。

(毒!? 買収!?
 あるいは……“私と仲良くして王宮の中枢に入り込む作戦”!?
 駄目よ、冷静になって、これは……これは絶対に何かの罠――)

「ナターシャ、食べないの? 冷めちゃうと美味しさが半分になっちゃうよ?」

「ひぃっ!!?」

 シャーリーが微笑む度に、ナターシャの警戒心は急上昇していった。


---

■部下の介入

 そのとき、書類を取りにきた部下のリカルドが状況を見て固まった。

「……ナターシャ様。また逃げようとしてませんか?」

「に、逃げてないわよ!? ただ、この差し入れの真意を探っていただけで!!」

「真意……?
 シャーリー殿は、ただ毎回“ナターシャ様が疲れているから”と心配して持ってきているだけかと」

「違うわ!! この完璧な焼き色!!
 この絶妙な魔力循環の設計!!
 こんな高度な菓子……“誰かを落とす時”しか作らない奴よ!!」

「どこ情報ですかそれ!!」

 リカルドが悲鳴を上げた。

 一方シャーリーは、ぽかんと瞬きをしている。

「えっと……落とすって、なにを?」

「私よ!! 私を落とす気でしょう!!?」

「ええっ!? 落とさないよ!? そんなつもり無いよ!!?」

「嘘よ!! 絶対に何か狙ってる!
 じゃなきゃ、この破壊的な破壊力の焼き菓子を、わざわざ私のところに持ってくるわけないじゃない!!」

「褒められてるのか怒られてるのかわからないよ……」


---

■誤解の迷路

 ナターシャはフィナンシェを凝視したままブツブツと呟く。

(くっ……こんな甘い香り……魔力が揺らぐ……
 こ、これを食べたら……私はあの女に精神的に支配されてしまう……!?)

「ナターシャ、食べてくれないの?」

「た、食べるわけないでしょ!!
 こんな……こんな“私の好きな味”を完璧に再現した菓子なんて……!!」

「えっ。ナターシャ、甘いの好きって言ってたから……」

「情報収集まで……!?
 やっぱり、あなた……恐ろしい女……!!」

「なんでぇ!?!?」


---

■そして、恐怖の一口

 リカルドがため息をつき、フィナンシェをつまんで口に入れた。

「……普通に美味しいです。神レベルですけど」

「えっ、リカルド大丈夫? 魔力が暴走したり、操られたりしてない?」

「どんな前提なんですか!?
 ただのスイーツです!!」

「ただのスイーツ……?」

 シャーリーが微笑む。

「うん。ナターシャが倒れたら困るから、元気になれるもの作りたいだけだよ?」

 ナターシャの胸に、謎の衝撃が走った。

「…………は?」

「だからね、ナターシャが今日も頑張れるようにって――」

「ちょ、ちょっと待って!?
 今、なんて言ったの!?
 “頑張れるように”? “私のために”?
 なんで!? どうして!? なんのために!?
 私そんなに弱そうに見えるの!?
 そんな哀れまれるほど惨めなの私!?!?」

「違うよ!?!?」

 今日もナターシャの誤解は盛大に暴走していた。

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