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第32話 これからも、廊下ですれ違って
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王宮の朝。
陽光が石畳の廊下に差し込む、何気ない始まり。
シャーリーは、厨房へと向かって歩いていた。
その手には新作スープの試作メモ。
廊下を曲がったところで――見覚えのある姿と鉢合わせる。
「あら、ナターシャ」
ナターシャは一瞬だけ、肩をピクッと揺らした。
けれど――逃げなかった。
彼女はその場に立ち止まり、ちゃんと顔を上げて、まっすぐシャーリーを見た。
「……おはよう。シャーリー」
シャーリーが微笑む。
「今日の夕食、味見してね?」
ナターシャは、わずかに視線を逸らして――
「……ええ。
……友達なんだから、当然でしょ」
その言葉に、シャーリーはにっこりと笑った。
「うんっ」
ほんの数秒の会話。
けれど、シャーリーにとっては“信頼”で、
ナターシャにとっては“進歩”だった。
---
◆数年前のあの日から
魔術学院の廊下では、いつもシャーリーは一歩後ろを歩いていた。
ナターシャが誰よりも先に行く、首席の背中を見つめながら。
そして王宮では、ナターシャがシャーリーを避けるように背を向けていた。
今。
二人は――同じ歩幅で、同じ空間に立っている。
ライバルでもなく、敵でもなく、比較対象でもない。
“友達”として。
---
◆そして王宮は、今日も
「――ナターシャ様! 研究部から緊急報告です!」
「え、また何か爆発したの!?」
「シャーリー様の《無限調味スパイス》が暴走を――!」
「だからあの人に創作自由を与えるなって言ってるのよぉぉぉ!!」
悲鳴をあげながらも、ナターシャはしっかり走っていった。
背中越しに聞こえるシャーリーの声。
「ナターシャ~♪ お弁当持っていこうか?」
「持ってくるんじゃない!!」
王宮は、いつもの日常に包まれていた。
---
◆“最強の魔術師”と“最強の料理人”の物語は
終わらない。
廊下ですれ違い、時にぶつかり、
たまに爆発して、しっかり支えあって、笑って。
この国を――静かに、たしかに守りながら。
---
陽光が石畳の廊下に差し込む、何気ない始まり。
シャーリーは、厨房へと向かって歩いていた。
その手には新作スープの試作メモ。
廊下を曲がったところで――見覚えのある姿と鉢合わせる。
「あら、ナターシャ」
ナターシャは一瞬だけ、肩をピクッと揺らした。
けれど――逃げなかった。
彼女はその場に立ち止まり、ちゃんと顔を上げて、まっすぐシャーリーを見た。
「……おはよう。シャーリー」
シャーリーが微笑む。
「今日の夕食、味見してね?」
ナターシャは、わずかに視線を逸らして――
「……ええ。
……友達なんだから、当然でしょ」
その言葉に、シャーリーはにっこりと笑った。
「うんっ」
ほんの数秒の会話。
けれど、シャーリーにとっては“信頼”で、
ナターシャにとっては“進歩”だった。
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◆数年前のあの日から
魔術学院の廊下では、いつもシャーリーは一歩後ろを歩いていた。
ナターシャが誰よりも先に行く、首席の背中を見つめながら。
そして王宮では、ナターシャがシャーリーを避けるように背を向けていた。
今。
二人は――同じ歩幅で、同じ空間に立っている。
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“友達”として。
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◆そして王宮は、今日も
「――ナターシャ様! 研究部から緊急報告です!」
「え、また何か爆発したの!?」
「シャーリー様の《無限調味スパイス》が暴走を――!」
「だからあの人に創作自由を与えるなって言ってるのよぉぉぉ!!」
悲鳴をあげながらも、ナターシャはしっかり走っていった。
背中越しに聞こえるシャーリーの声。
「ナターシャ~♪ お弁当持っていこうか?」
「持ってくるんじゃない!!」
王宮は、いつもの日常に包まれていた。
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◆“最強の魔術師”と“最強の料理人”の物語は
終わらない。
廊下ですれ違い、時にぶつかり、
たまに爆発して、しっかり支えあって、笑って。
この国を――静かに、たしかに守りながら。
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