一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお

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第31話 私は私。シャーリーはシャーリー。

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 黄昏色に染まった王宮の中庭。
 魔術院と厨房棟のあいだにある静かな石畳の道を、ナターシャはゆっくり歩いていた。

(今日も……散々振り回されたわね……
 料理に属性を付与するとか、聞いたことないし……
 でも兵士たちが喜んでる以上、否定もできないし……)

 胸の奥がザワザワして落ち着かない。

 だが、昔のような刺すような焦りではなかった。
 もっと柔らかく、ただ自分の輪郭を確かめるような、不思議な感覚。

(いつからかしら……
 シャーリーを見ても、怖いとだけ思わなくなったのって)

 そんなことを考えていたとき――
 背後から聞き慣れた明るい声が響いた。

「ナターシャ~!」

 反射的に振り向くと、シャーリーが走ってくる。

「ちょうどよかったわ! 試作品のスープ、味見してほしくて」

「……いきなり来て味見を要求する女って、世界にあなただけよ……」

 呆れ半分、慣れ半分の声が出る。
 シャーリーはまったく気にしていない。

「今日はね、《癒しの大地スープ》よ。
 飲むと疲労が取れて、魔力循環も整うの」

「……ねぇ、それ、国宝レベルでは?」

「食べ物はね、食べてこそ価値があるのよ~♪」

 シャーリーは柔らかく笑った。
 その無邪気さを見ていると、胸のなかのザワつきが少しずつ溶けていくのがわかった。


---

◆“比較”から逃れられなかった過去

 ナターシャはふと、口を開いた。

「……ねぇシャーリー。
 あなたってどうしてそんなに……自然体でいられるの?」

「自然体?」

「誰かと比べたり、焦ったり……恐れたりしないの?」

 シャーリーは、少し考えるように空を見上げた。

「うーん……。
 私ね、自分のことを“一番”にしようと思ったことがないのよ」

「…………」

「ただ、おいしいものを作りたいとか、誰かを笑顔にしたいとか。
 それができてたら十分だと思ってるの」

 その言葉は、ナターシャの胸にすとんと落ちた。

(この人は、ずっとそうだった……
 だから競争にも、順位にも、まったく興味がなかった……
 私が勝手に張り合ってただけ……)

 ようやく、理解できた気がした。


---

◆友達になって初めてわかる“距離の近さ”

「ねぇナターシャ」

「なに?」

「あなたが一級魔法使いだって、私は本気ですごいと思ってる。
 あなたの魔術がなかったら、私は今みたいな料理は作れないもの」

「……っ!」

 その言葉に胸が熱くなる。

(シャーリーは……ずっと私を認めてたんだ……
 私が勝手に、自分を小さくしてただけ……)

 ゆっくりと息を吸い、自分の心に言い聞かせるように、

ナターシャは――初めて素直に言えた。

「……私は私。
 そして……シャーリーはシャーリーよね」

 シャーリーがぱぁっと笑う。

「そうよ! その通り!」

「比べる必要なんて……最初からなかったのよね。
 私には魔術があって、あなたには料理がある。
 どっちが上とかじゃなく……役割が違うだけなんだから」

「うん。ナターシャがそう言ってくれて嬉しいわ」

 気がつけば、胸の苦しさは消えていた。


---

◆静かな黄昏、そして未来へ

 風がそよぎ、二人の髪を揺らす。

「……ありがとう、シャーリー」

「こちらこそ。
 ねぇナターシャ、今日の夕食、味見してね♪」

 その言葉に、ナターシャは少し照れながらうなずいた。

「ええ。……友達として、ね」

 その瞬間、シャーリーの笑顔が夕日の光にきらめき、
 ナターシャは胸の奥が温かく満たされるのを感じた。

 ――私は私でいい。
 ようやくそう言える自分になれた気がした。

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