一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお

文字の大きさ
31 / 33

第30話 国家が豊かになるほど、ナターシャの胃が痛い

しおりを挟む
 魔術×料理研究部ができてから一ヶ月。

 王都は――目に見えて変わっていた。


---

◆街に広がる“魔術料理革命”

「見てください、これが《温度固定パン》です!
 一週間、焼きたて温度が保たれるんです!」

「うそ……パン屋が行列になってる……!」

「魔術と料理の融合は素晴らしいね!」

 街の至るところで、新しい食文化が生まれていた。

 シャーリー曰く、

「ちょっと魔法を料理に混ぜただけよ~」

 その“ちょっと”のレベルが国家級なのだが、
 本人はまったく自覚していない。

 一方ナターシャは――王宮の窓からその光景を眺めながら、頭を抱えていた。

「……これ全部、“魔術研究”じゃなくて“調理器具の進化”じゃないの……?」

 部下のレオンは苦笑する。

「いえ、魔術の応用なので、れっきとした研究成果です」

「そう言われるのもキツいのよ!!」


---

◆真面目な国王、真剣に改革を進める

 王の執務室。

「――というわけで、“魔術料理支援金”制度を制定する」

「またですか陛下!?」

「国が豊かになるのなら当然だろう。
 これでシャーリー・ドットの料理技術を全国に広められる」

「名前、出ちゃってますよね!? 完全に個人依存ですよね!?」

 王は堂々としていた。

「シャーリーは国家最高戦力だ」

「魔法使いの私よりも!?」

「……いや、同等だ。同等。うん、同等だ」

 目が泳いでいた。
 ナターシャは机に突っ伏した。

(料理人と張り合う一級魔法使いってなによ……
 いえ、私が張り合ってるわけじゃないけど……!)


---

◆研究部の成果、恐ろしいほど順調

 研究室では、シャーリーが嬉しそうに新レシピを組み立てていた。

「ナターシャ、見て見て。
 《属性付与ハーブソルト》完成したの」

「なにそれ」

「振りかければ、料理に属性がつくのよ。
 火属性ステーキとか、水属性スープとか♪」

「料理に属性をつけないで!!」

 だが兵士たちは大興奮だ。

「火属性ステーキを食べたら体が温まって、
 寒冷地でも戦えるようになりました!!」

「水属性スープを飲んだら、炎耐性が上がりました!」

「戦場に持っていけば戦力倍増だ!」

 ナターシャは天を仰いだ。

(料理の概念が崩壊していく……
 でも……悔しいけど……国の役に立ってる……)

 するとシャーリーが、にこりと笑った。

「ねぇナターシャ。
 あなたの魔術があるから、この研究ができるのよ?」

「……っ!」

 胸の奥が、少し熱くなる。

(やめてよ……そんな真正面から感謝されたら……
 文句言いづらくなるじゃない……!)


---

◆国は豊かに、ナターシャの心は忙しい

 研究部が生み出した技術によって――

・食糧保存が飛躍的に向上
・兵士の能力が劇的に上昇
・医療用魔術料理の発展
・商人たちの新ビジネス誕生
・各地方の名産品がパワーアップ

 どの分野も景気が良くなり、王都は活気に満ちていた。

「国が元気になるのは良いことだな」

「ええ……良いこと……よね……」

 ナターシャは遠い目をした。

(嬉しい……はずなのに……胃がキリキリするのはなぜ……?
 たぶん……全部シャーリーのせいよね……)

 隣を見ると、シャーリーは今日も平和な笑顔だった。

「ナターシャ、今夜の夕食に《炎属性ロースト》を作るわね♪」

「こわい!!! でも食べたい!!!」


---

★ナターシャの結論

国が豊かになるほど、シャーリーの料理魔法が加速する。
そして自分の精神は鍛えられていく――。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。

あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。  無言で睨む夫だが、心の中は──。 【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】 4万文字ぐらいの中編になります。 ※小説なろう、エブリスタに記載してます

居場所を失った令嬢と結婚することになった男の葛藤

しゃーりん
恋愛
侯爵令嬢ロレーヌは悪女扱いされて婚約破棄された。 父親は怒り、修道院に入れようとする。 そんな彼女を助けてほしいと妻を亡くした28歳の子爵ドリューに声がかかった。 学園も退学させられた、まだ16歳の令嬢との結婚。 ロレーヌとの初夜を少し先に見送ったせいで彼女に触れたくなるドリューのお話です。

つかぬことを伺いますが ~伯爵令嬢には当て馬されてる時間はない~

有沢楓花
恋愛
「フランシス、俺はお前との婚約を解消したい!」  魔法学院の大学・魔法医学部に通う伯爵家の令嬢フランシスは、幼馴染で侯爵家の婚約者・ヘクターの度重なるストーキング行為に悩まされていた。  「真実の愛」を実らせるためとかで、高等部時代から度々「恋のスパイス」として当て馬にされてきたのだ。  静かに学生生活を送りたいのに、待ち伏せに尾行、濡れ衣、目の前でのいちゃいちゃ。  忍耐の限界を迎えたフランシスは、ついに反撃に出る。 「本気で婚約解消してくださらないなら、次は法廷でお会いしましょう!」  そして法学部のモブ系男子・レイモンドに、つきまといの証拠を集めて婚約解消をしたいと相談したのだが。 「高貴な血筋なし、特殊設定なし、成績優秀、理想的ですね。……ということで、結婚していただけませんか?」 「……ちょっと意味が分からないんだけど」  しかし、フランシスが医学の道を選んだのは濡れ衣を晴らしたり証拠を集めるためでもあったように、法学部を選び検事を目指していたレイモンドにもまた、特殊設定でなくとも、人には言えない事情があって……。 ※次作『つかぬことを伺いますが ~絵画の乙女は炎上しました~』(8/3公開予定)はミステリー+恋愛となっております。

悪役令嬢まさかの『家出』

にとこん。
恋愛
王国の侯爵令嬢ルゥナ=フェリシェは、些細なすれ違いから突発的に家出をする。本人にとっては軽いお散歩のつもりだったが、方向音痴の彼女はそのまま隣国の帝国に迷い込み、なぜか牢獄に収監される羽目に。しかし無自覚な怪力と天然ぶりで脱獄してしまい、道に迷うたびに騒動を巻き起こす。 一方、婚約破棄を告げようとした王子レオニスは、当日にルゥナが失踪したことで騒然。王宮も侯爵家も大混乱となり、レオニス自身が捜索に出るが、恐らく最後まで彼女とは一度も出会えない。 ルゥナは道に迷っただけなのに、なぜか人助けを繰り返し、帝国の各地で英雄視されていく。そして気づけば彼女を慕う男たちが集まり始め、逆ハーレムの中心に。だが本人は一切自覚がなく、むしろ全員の好意に対して煙たがっている。 帰るつもりもなく、目的もなく、ただ好奇心のままに彷徨う“無害で最強な天然令嬢”による、帝国大騒動ギャグ恋愛コメディ、ここに開幕!

子育てが落ち着いた20年目の結婚記念日……「離縁よ!離縁!」私は屋敷を飛び出しました。

さくしゃ
恋愛
アーリントン王国の片隅にあるバーンズ男爵領では、6人の子育てが落ち着いた領主夫人のエミリアと領主のヴァーンズは20回目の結婚記念日を迎えていた。 忙しい子育てと政務にすれ違いの生活を送っていた二人は、久しぶりに二人だけで食事をすることに。 「はぁ……盛り上がりすぎて7人目なんて言われたらどうしよう……いいえ!いっそのことあと5人くらい!」 気合いを入れるエミリアは侍女の案内でヴァーンズが待つ食堂へ。しかし、 「信じられない!離縁よ!離縁!」 深夜2時、エミリアは怒りを露わに屋敷を飛び出していった。自室に「実家へ帰らせていただきます!」という書き置きを残して。 結婚20年目にして離婚の危機……果たしてその結末は!?

婚約破棄寸前だった令嬢が殺されかけて眠り姫となり意識を取り戻したら世界が変わっていた話

ひよこ麺
恋愛
シルビア・ベアトリス侯爵令嬢は何もかも完璧なご令嬢だった。婚約者であるリベリオンとの関係を除いては。 リベリオンは公爵家の嫡男で完璧だけれどとても冷たい人だった。それでも彼の幼馴染みで病弱な男爵令嬢のリリアにはとても優しくしていた。 婚約者のシルビアには笑顔ひとつ向けてくれないのに。 どんなに尽くしても努力しても完璧な立ち振る舞いをしても振り返らないリベリオンに疲れてしまったシルビア。その日も舞踏会でエスコートだけしてリリアと居なくなってしまったリベリオンを見ているのが悲しくなりテラスでひとり夜風に当たっていたところ、いきなり何者かに後ろから押されて転落してしまう。 死は免れたが、テラスから転落した際に頭を強く打ったシルビアはそのまま意識を失い、昏睡状態となってしまう。それから3年の月日が流れ、目覚めたシルビアを取り巻く世界は変っていて…… ※正常な人があまりいない話です。

白い結婚の行方

宵森みなと
恋愛
「この結婚は、形式だけ。三年経ったら、離縁して養子縁組みをして欲しい。」 そう告げられたのは、まだ十二歳だった。 名門マイラス侯爵家の跡取りと、書面上だけの「夫婦」になるという取り決め。 愛もなく、未来も誓わず、ただ家と家の都合で交わされた契約だが、彼女にも目的はあった。 この白い結婚の意味を誰より彼女は、知っていた。自らの運命をどう選択するのか、彼女自身に委ねられていた。 冷静で、理知的で、どこか人を寄せつけない彼女。 誰もが「大人びている」と評した少女の胸の奥には、小さな祈りが宿っていた。 結婚に興味などなかったはずの青年も、少女との出会いと別れ、後悔を経て、再び運命を掴もうと足掻く。 これは、名ばかりの「夫婦」から始まった二人の物語。 偽りの契りが、やがて確かな絆へと変わるまで。 交差する記憶、巻き戻る時間、二度目の選択――。 真実の愛とは何かを、問いかける静かなる運命の物語。 ──三年後、彼女の選択は、彼らは本当に“夫婦”になれるのだろうか?  

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

処理中です...