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第29話 魔術×料理研究部、爆誕。ナターシャ、逃げ場なし
しおりを挟む翌朝。
王宮の一角にある会議室では、なぜか異様な熱気が満ちていた。
「それでは――新規部署、
**『魔術×料理研究部』**の設立について議論を始める!」
王宮大臣の力強い宣言が響く。
「…………は?」
椅子からずり落ちそうになった者がひとり。
もちろんナターシャ・キンスキーである。
(ちょ、ちょっと待ちなさい……!
なにその地獄みたいな部署名……!?
“魔術を料理に転用する”って……それ全部私の魔法が巻き込まれる未来じゃない!!)
隣を見ると、シャーリーは目をキラキラと輝かせていた。
「素敵な部署ね~!
料理と魔術は仲良しだもの♪」
「仲良くない!! 断じて!!」
---
◆国王の鶴の一声で決定
「シャーリーの料理は国家戦略である。
その研究を進めるのは当然だろう?」
国王が当然のように言う。
「あと、ナターシャの魔術は相性がいいらしいな」
「どこ情報ですか国王陛下ァ!!?」
「黄金スープ事件だ」
「やめて思い出させないでぇ!!」
ナターシャは頭を抱えた。
あの誤爆がここまで事態を悪化させるとは。
しかし国王は真剣だった。
「魔術と料理を組み合わせれば、
国民の栄養、兵士の強化、病人の治療……
すべてが前進する。是非進めたい」
(……国益のためとか言われたら……断れないじゃない……!)
絶望しているナターシャとは対照的に、シャーリーは手を挙げた。
「はい! 私、この研究部に全力で協力します♪」
「シャーリー!!?
あなたが嬉しそうなのが一番の問題なのよ!!」
---
◆地獄の部室へご案内
会議終了後。
「じゃあナターシャ、見に行きましょう♪」
「行きたくないとは言えない空気よね……?」
シャーリーに手を引かれ、到着したのは――
王宮の中でも特に広い実験室だった。
魔術器具と調理器具がずらりと並んでいる。
「……。
……なにこの、悪夢のような空間は」
「見て見てナターシャ!
火属性魔術専用の“炎力調整レンジ”よ!」
「名前からして嫌な予感しかしないわ!!」
「ここには魔力波動を安定させる“調理用魔方陣”もあるのよ~」
「料理に魔方陣使う意味は!!?」
しかしシャーリーは楽しそうだった。
(……どうしてこの人、
魔術を“便利な調理器具”の一種としか思ってないの……?)
---
◆ナターシャの不安は、的確に当たる
「ナターシャ、今度“魔力と旨味の関係”について実験しましょうね」
「しないわよ!!」
「“魔力と香りの拡散理論”も調べたいの~」
「絶対しない!!」
「あと“魔術適性による味の個体差分析”とか」
「こ、個体差……?
つまり……私が味見役……!?」
「もちろん♪ ナターシャの舌は信頼できるわ」
「その信頼はいらない!!
破壊力が強すぎる!!」
絶叫するナターシャをよそに、シャーリーはスケジュール表を書き始めた。
「ええと……週3で実験して、週1で発表会……」
「やめなさい本気でぇぇぇ!!」
---
◆それでも、逃げなかった理由
研究室の隅で、ナターシャは深くため息をついた。
(ああもう……
なんで私は、シャーリーの流れに乗せられると……
断りきれないのよ……)
ふと、隣で楽しそうに器具を並べるシャーリーの横顔が目に入る。
(……この人、ほんとうに嬉しそうなのよね。
誰かと一緒に何かするのが、心から楽しいって顔……)
胸の奥が、ほんの少し柔らかくなった。
「……仕方ないわね。
やるなら、専門家としてきちんと監修するわよ」
その瞬間。
「ナターシャ!! 大好き!!」
「だから急に抱きつかないでぇぇぇぇぇ!!」
王宮中に悲鳴が響きわたり、
新設部署はこうして始動した。
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