一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお

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第28話 街デートは心の準備をください

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 休日の朝。
 王都の中央区はいつもより人通りが多く、露店が並び、賑やかな声が響いていた。

 そんな中――

「ナターシャ、こっちよ~!」

 全力の笑顔と全力の手振りで呼ぶシャーリーの姿があった。

「……なんで私はここにいるのかしら」

 ナターシャは遠い目をしていた。
 今日の予定は、静かに研究と読書のはずだった。

 ――はずだったのに。

「だって昨日言ってくれたじゃない。
 “友達でいいわよ”って♪」

「そんな一言でデートに連れ出さないで!!
 段階というものを踏みなさい段階を!!」

 叫ぶナターシャに、シャーリーは小首を傾げた。

「じゃあ今日は“友達の初段階”ね♪」

「そんな段階システム聞いたことない!!」

 完全にペースを握られたまま、街歩きが始まった。


---

◆パン屋で、シャーリーの暴走が始まる

「ナターシャ、このパン美味しそう!」

「買えばいいでしょうに」

「半分こしましょ♪」

「なっ……!」

 シャーリーがちぎって差し出してくる焼きたてパン。
 ほんのり湯気を立て、香りが鼻をくすぐる。

(……美味しそう。けど……その……
 こういう“距離の近さ”、慣れてないのよ……)

「ほら、あーん」

「ちょ、待っ……! 外よここ!!
 人の目があるでしょうが!!」

 最終的には自分で受け取って食べたが、
 シャーリーは「嬉しいわ♪」と満面の笑み。

(くっ……なんで嬉しそうなのよ……!
 私ばかり翻弄されてる……)


---

◆服屋で事件発生

「ナターシャ、この服どう?」

 シャーリーが持ってきたのは――
 ふわふわレースのパステルドレス。

「着るわけないでしょう!!」

「可愛いと思うのに……」

「私は実用性重視よ!!」

 しかしシャーリーは諦めなかった。

「じゃあこれ! ナターシャに似合うと思う!」

「だから勝手に私の好みを……どれどれ……」

 見た瞬間、ナターシャは固まった。

 それは黒基調の軽装ローブ。
 魔術師向けだが、細かい銀刺繍が施され、
 動きやすく、かつ美しい。

(な、なによ……これ……
 めちゃくちゃ私好みじゃない……!!)

「ナターシャ、試着してみて!」

「しない!! 絶対しない!!
 したらあなたが喜ぶでしょ!!」

「喜ぶわよ?」

「ほら言った!!」


---

◆昼食はもちろん――

「今日のランチは私が作ったお弁当よ♪」

「……外でまで仕事するつもり?」

「いいじゃない。友達とご飯♪」

 シャーリーは芝生広場に座り、
 あっという間に豪華な手作り弁当を広げた。

 彩り豊かな副菜。香ばしい肉料理。
 そして魔法で温度管理されたスープ。

「……なんで外で温かいままなの?」

「便利魔法よ~♪」

(“便利”の域超えてるわよ……!
 これ、王宮の正式設備レベルじゃない……)

「はい、ナターシャ。お箸」

「……いただくわ」

 一口食べた瞬間、衝撃が走る。

「……美味し……」

「あら、嬉しい♪」

「べ、別に! 味を褒めただけよ!
 あなたのことを褒めてるわけじゃ――」

「ナターシャって褒めるの上手よね~」

「褒めてない!!!」


---

◆帰り道で気づく“変化”

 夕暮れ。
 二人は王宮へ戻る道を並んで歩いていた。

「ねぇナターシャ。今日は楽しかった?」

「…………」

 否定しようとした。

 いつもなら、反射的にツッコミが出るはずだった。

 けれど――

「……まあ……その……悪くはなかったわ……」

 シャーリーはぱあっと笑った。

「良かった! また行きましょうね!」

「ちょ、次もある前提で話を進めないで!?」

「友達なんだもの、当然よ?」

 その言葉に、ナターシャはまた心臓が跳ねた。

(……どうしてかしら。
 今日一日、やたら疲れたのに……
 不思議と……嫌じゃない……)

 胸の奥が、ほんの少しだけ温かくなった気がした。


---
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