ディスティニーブレイカー~最強の白魔法使いを兄に持つ黒魔法使いの俺。使える魔法は四つのみだが実はその内の二つがチート級!?〜

夏蜜柑

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魔法学院〜入学編〜

最終試合、優勝決定戦④

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 視界に映るのは無限とも思える真っ暗闇。
 全方位どこを見渡しても黒一色。
 聞こえる音も何も無い。

 闇魔法、“闇の世界ダークネス”が生み出すのはそんな世界だ。

 この魔法の怖いところは徐々に人の精神を蝕んでいく事である。
 闇に閉ざされた世界は黒以外の色がない。そして何も聞こえない無音の世界だ。
 それは徐々に人の感覚を狂わし、心に恐怖を植え付ける。
 最後は闇に呑まれ、その意識を手放すのだ。

 ダークネスの闇に、普通の人間が耐える事はまず出来ない。そもそもが魔法、そして闇の力が働いているからだ。力有る者でも対処無しではそう長く自我を保つ事は出来ないだろう。

 そんな魔法が襲いかかってきたのは、まさに俺がカグラに向けて大地を蹴り抜いた時だった――



「神器創造――“天照アマテラス”!」

 光の中から発現したのは眩く光る美しい刀。
 それをカグラは手に取るやいなや、地面に突き刺し結界の核とした。
 俺が最後に見たのはそんな光景だ。

 どこを見渡しても一面に広がるのは闇、闇、闇。
 音すらない世界で試しに声を出してみるが、それすら聞こえる事はない。

 ――どうしたもんか……

 俺は一先ずカグラがいたであろう方向へ歩いてみる事にした。そんなに距離はなかったはずだが、出会う気配は全くない。
 次に魔法を使ってみる。“事象改変オルタレーション”で簡単な魔法の生成を試みるが、四大元素のどの魔法も作り出す事は出来なかった。

 ――完全に外と隔絶されてるって事だな。この空間の中も一人一人隔離されてるようだ

 俺は知り得た情報を一つ一つ整理し、現状の把握と打開策を模索する。
 魔法の使用者は闇魔法を扱える相手リーダーのアデルで間違いないだろう。となれば、発端の者を倒して解除させるという事は不可能だ。見つけられなければ捕らえる事も出来ないし、まずもってアデルはこの空間にはいないだろう。

 セシルは彼女にずっと目の敵にされていると言っていた。ならばアデルはセシルと一対一で戦うために俺達をまとめて隔離したと考えるのが筋だろう。そうであればセシルがアデルを倒すまで、ここでじっと待っている以外に仕様がない。

 ――だが勝負がなかなか着かなければ? 部隊は一人になったら負けなのだから、俺達の耐久勝負って事になってくるよな……

 闇が押し寄せてくる時、一瞬見えたのはすでに真っ黒に染まった敵の陣営だった。ならば敵味方関係なく、大将二人を除いた全員がこの空間に囚われているはずである。
 アデルとセシルの決着が着くまで何人の生徒が残っているか……少なくともアデルには自分の部隊に耐えれる奴がいると知っているに違いない。そうでなければあまりにもリスクの高い賭けになってしまう。
 俺達の方にも耐えれる奴はいるはずで、それを見越してアデルは思う存分セシルと戦うつもりなのだ。

 状況や思惑をだいたい理解した俺は腕を組んで思案に耽る。
 その時ふと、気が付いた。

 ――……そういや、俺も耐えれてるな。何の抵抗もしてないのに

 そう、俺はこの闇の世界にただ何もせず立っているだけ。守るための結界も張って無ければ、対抗するための魔法も使っていない。それなのに全くもって何ともないのである。

 ――理由があるなら……

 そこで俺は自分の腕に目を向けた。
 何も見えない暗闇の中で、確かにある、漆黒の腕。

 ――“暗黒物質ダークマター”を使ってるからか! それが理由ならもしかしたら……

 考えついた理屈に、一度ゴクリと唾を呑み込む。
 それは一か八かの賭けにも近い。

 ――原理原則からしたら出来るはずだ。……大丈夫、自分を信じろ

 俺は自分にそう言い聞かせ、考えを立証するために、漆黒の腕を黒い地面に突き刺した。

「……侵蝕しろ、“暗黒物質ダークマター”‼」

 漆黒の触手が闇を呑み込み、黒をさらに濃い漆黒へと染め上げる。そして次の瞬間――
 闇の世界ダークネスはガラスのように砕け散った。




 ******




「なっ⁉ 私の闇魔法を、打ち破った⁈」
「――ックロス!」

 声の方に振り向けば、上空で驚愕に目を見開くアデルと、城の頂で笑顔を見せるセシルの姿があった。

「やっぱり、君はすごいね!」

 そう言って笑顔で手を振るセシルに、俺は片手を上げて返事を返す。

 立ち上がって周りを見れば、大半の生徒が地面に倒れ、辛うじて意識を保っていた。
 声を掛けようとした瞬間、助かったと安心した生徒達は安堵から意識を手放し始める。

「お、おい、大丈夫か⁉」
「気絶しただけだろう。寝てるのと一緒だ」

 焦った俺にそんな言葉を掛けて来たのは引き抜いた刀を肩に担いだカグラだった。

「お前があの闇魔法を砕いたのか。なかなかやるな」
「お前は安全な結界内でただ待ってただけみたいだな」
「ああ、いずれ解けるだろうと思ってたからな。もう少ししてこのままだったらどうするか考えるつもりだった」
「ほんとかよ……」

 ――究極の面倒くさがり屋なんじゃないか? こいつ……

 そんな事を思っていると、横からレミーラが話し掛けてきた。

「何をなさったのかは分かりませんが、やっと皆さんの役に立ったではありませんか。褒めて差し上げますわ」
「お前はほんとに……ありがとよっ!」

 これだけ憎まれ口を叩けるならレミーラも大して影響を受けなかったのだろう。心配はいらなそうだ。

「信じられませんね……アデル様の力を、破ったと? 庶民の貴方が、どうやって行ったと言うのですか!」

「教えて下さい」と怒気を孕んだ声でヒューベルトが尋ねてきた。初めて俺へと向いた目にも、同じように怒りの色が浮かんでいる。
 もはや隠す気も無いので俺は事の詳細を簡潔に説明した。

闇の世界ダークネスの中で俺、全然まったく、何ともなかったんだよ。それで理由を考えた時、自分に“暗黒物質ダークマター”を使ってたのが原因じゃないかと思ったんだ。そうだとしたら、ダークネスよりダークマターの方が闇の力が強い事になるだろう? だったら侵蝕出来るはずと思ってやってみたんだ」
「や、やってみた? 貴方、まさかと安易な考えでそれをした訳ではないですわよね⁉ 理屈が間違っていたら、囚われていた者達全員どうなっていたか分かりませんわよ⁉」
「い、いや、出来る可能性の方が高かったんだ!」
「可能性⁉」
「いやその……最悪、学院側の安全を守る仕組みがあるから大丈夫だと思って……」

 レミーラは呆れた様子で白い目を俺に向けた。自信はあったが、理屈が合っていればセーフ、間違っていればアウトであった事は事実なため、俺は気まずさから肩をすくめる。
 そこにヒューベルトが割って入ってきた。

「貴方の理屈は何となく理解しました。ですが……それでは、貴方がアデル様より強い闇の力を持っている事になってしまう……そんな事、断じてありはしません!」
「…………それは俺も認めたくない……」

 ――俺は別に闇の力なんて求めてないんだ……

「見苦しいぞ、ヒューベルト」
「カグラさん……貴方が口出しするなんて珍しいですね」
「何でも強い方が勝つ、それが道理だ。アデルよりもこいつの力の方が強かった。それだけの話。どんなに強力な魔法でもそれより強力な魔法を当てられれば効力を無くす」
「ですが、契約の力を使った闇魔法ですよ⁉」
「だから、そういう事だろう。――おい、お前……クロスと言ったな。戦いはまだ終わっていない。、本気を出してやる。続きをやるぞ」
「今名前を覚えたのか? ほんと失礼な奴だな、お前。――カグラだったな、俺もとっておきの一撃、出してやるよ」

 そして俺とカグラは呆然と佇むヒューベルトを余所に、互いに背を向けて歩き出す。
 同じ歩数を歩いた所で立ち止まり、相手へと向き直った。

「互いに繰り出すのは一撃のみ。それでいいな」
「ああ、それでお前の的は割れるだろうよ」
「フッ、言ってくれる……始めよう」



 そんな二人の近くで佇んだままのヒューベルトへ、レミーラは傲岸不遜に声を掛ける。

「主の事でショックを受けてるところ申し訳ありませんが、わたくし達の戦いもまだ終わっていませんわ。やる気が無ければどうぞ、抵抗せず的を破壊されて下さいませ」

 その言い草に、ヒューベルトは眉間に皺を寄せてレミーラへと向き直る。

「失礼しました。ちゃんとお相手致しますよ」
「あら、でしたらわたくし達も彼らに倣って一撃勝負と参りませんか? ヒューベルトさんのメンタルも心配ですし」
「……フフ、お気遣い、痛み入ります。全く必要無い事ですが、そのお気持ちを受け取りましょう」
「それでは、よろしくお願いしますわ」
「こちらこそ」

 そしてレミーラとヒューベルトもクロス達と同じように互いに背を向け同じ歩数を歩いて行く。
 一定の距離が開いた所で、相手へと向き直り、構えを取った。



 その光景を、離れた所でルルとナナが見ていた。
 張っていた結界を解き、ルルは苦笑いを浮かべながら呆れたように口を開く。

「ほんと、彼はいったい何なのかしら。いい加減教えて欲しいわね」
「……気になる」
「終わったら問い詰めてみようかしら」
「……うん、それがいい」

 楽しそうに話す二人の横で、片膝を着いたレイヴンが苦々し気に口を挟む。

「ちょいちょい、お二人さん! オレの事、無視せんといてぇな」
「あら、いたの。しぶといわね」
「冷たいのぉ。咄嗟に妹ちゃんとこ駆け寄って結界で守りよってからに。オレの事も入れたってくれや!」
「……何で?」
「そない真顔で問われたら悲しなるやん……」

 レイヴンはがっくりと肩を落とし、そしてゆっくりと立ち上がった。

「にしてもうちの大将はやってくれんのぉ。危うく寝こけるとこやったわ。カグラ君とそっくりな子ぉに助けられたで」
「狼は夜行性でしょう?」
「あないおっそろしい空間、そないな事関係ないわ!」
「……寝てくれたらよかった」
「そら期待に応えれんでえらいすんまへんなぁ! ったく、妹ちゃんの方は突っ込むのがいちいち大変やで……――ほな、続きでもやろか? 決着つけんと終わらへんし」
「そうね、賛成よ。ナナ」
「……うん、分か――……」

 その時、ナナの腕輪からナビィが現れ、同時に身に付けていた的が消えた。

『……ナナ、部隊が壊滅した。速やかにフィールドから出て』
「……壊滅?」
『……ナナ以外、みんな戦闘不能になった。気を失って、運び出されてる。だから一人になったナナは、失格』
「…………ルル、そういう事らしい」
「ハァ。こればっかりは仕方がないわね。大丈夫よ、私一人でもやってみせるから」
「……無理はしないで」

 そしてナナはその場を去り、ルルは一人、レイヴンと対峙した。

「何や、お姉ちゃん一人になってもうたんか」
「私一人じゃ不満? 侮らないで欲しいわね」
「いやいや、そんな事してへんよ? ただな、もうあの眼も限界やろ。使こうてへん今でも真っ赤に充血しちゃってんで」
「あら、心配してくれてるの? でもまだ平気よ。貴方を倒すぐらいの時間なら使えるわ。それに眼が無くたって、私には魔法があるもの」
「ほな、遠慮なく行くで。何かあっても自己責任や」
「ええ、貴方もね」

 余裕の笑みで返すルルだが、内心は全く穏やかではなかった。

(参ったわね……私はナナみたいにヴァンプ化できないし、正直この眼を使ったところで彼の攻撃を避けれる自信は無いわ……私相手に魔法はもう使ってこないだろうし……)

 ルルの魔眼は魔力を制御する事は出来ても対象の動きを止める事は出来ない。なのでレイヴンが魔法を使おうとしない限り、その眼は意味を成さないのである。

(飛び込んでくる瞬間に合わせて全方位を凍らせるしかないわね。それでダメなら、あの爪の餌食になる覚悟をしましょう)

 ルルは魔眼を発動させ、両手に魔力を込めた。周囲の空気が凍てつき始め、辺りに氷の粒子がキラキラと舞う。

 レイヴンは犬歯を見せて楽し気に笑い、獣の足で大地をしっかり鷲掴むと、膝を直角になるまで曲げてそのバネを限界まで引き絞った。

(来るっ――!)

 まるでバネに弾かれたピンポン玉の如く、初速からトップスピードでレイヴンがルル目掛け飛び掛かる。
 眼に走る痛みに顔を顰め、ルルはタイミングを外すまいと全神経を事に注ぐ。
 レイヴンが狼の爪を振り翳し、ルルが魔法を発動させようとしたその時――二人の間に凄まじい熱風が吹き荒れた。

「ルルちゃん、お待たせ! 君の騎士ナイトが駆け付けたぜ☆」

 ルルの目の前に登場した男は、キザっぽくウィンクをしてニカッと笑った。

「あら、随分と遅かったじゃない。すっかり存在を忘れてたわ」
「ひ、ひでーー! 気絶した女の子達を運び出してたんだよ! 決して遊んでたわけじゃないぜ⁉」
「それは貴方の姿を見れば分かるわ」
「おっ、俺のこの姿どう? 格好良い?」
「そうね……黙ってれば、それなりかもね」
「マジかっ!」

 ゼルが踊り出す勢いで喜びに顔を輝かせた。それを見て、ルルはバレないように小さく笑う。

(全く変わらないのね……このお馬鹿は……)

 完全に蚊帳の外にされたレイヴンは、ジト目を向けて二人の会話に割って入る。

「ちょいちょい、お二人さん! イチャイチャせんと、オレの事も気に掛けてーや!」

 その言葉に、ゼルは瞳を輝かせ、ルルは半目でレイヴンを睨んだ。

「お前……なんて素晴らしい表現を使うんだ! 感動で泣きそうだぜ!」
「さ、さよか……そない涙ぐむぐらい喜んでくれて、う、嬉しいわ……」
「私は貴方に殺意が湧いたわ」
「はい⁉ 目っ! 目が本気マジで怖いわっ」
「――……さて、お喋りはここまでよ」
「だな。おい、今度こそ、俺の相手をしてもらうぜ!」

 ゼルは身に纏う炎を燃え上がらせ、レイヴンと正面から視線を合わせた。

「ハッ、大した炎やね。せやけど、それでオレの動きを止められるんか?」
「余裕だぜ。――ルルちゃん、悪いけど一瞬、自分の身を保護しといてくれる? 綺麗な肌が大変だ」
「……ええ、分かったわ。私はわね」
「おぅ! 頼んだぜ☆」

 そしてゼルは炎を盛大に噴出させた。




 ******




 アデルは地上の様子を呆然と眺めていた。
 大半の生徒は気絶してフィールドの外へと運び出され、残った者達は各々自分の相手と再び対峙している。
 そんな光景が広がっている理由を、アデルは理解できずにいた。

(助け出したの? 全員を、私の魔法から? そうよね……私の魔法が砕けた時、皆さん意識はあったみたいだもの……)

「いったい、何者なの……」

 そんなアデルの呟きに、セシルは可笑しそうに笑って言葉を返した。

「ふふっ、訳分からないですよね。僕も彼の事は気になって仕方ないんです」
「……セシルさんが?」
「ええ。今みたいな事を彼はいきなりやるんですよ。その力も不思議な事だらけで、聞いてもはぐらかされちゃいますし」
「そうなの……確かに、聞きたい事だらけだわ」
「ふふっ、そうでしょう?」
「……でも、セシルさんにそんな興味を持たれるなんて、妬けちゃうわね」
「そんな気落ちしないで下さい。ちゃんと貴方の期待には応えますから」
「……え?」

 驚くアデルに微笑み掛け、セシルは胸の前で手を組んだ。
 
「僕の全力を持って、貴方の力を受け止めます。アデルさんもどうぞ、全力でぶつかりに来て下さい」
「それは……私に渾身の一撃を放てっておっしゃってるの?」
「残るは僕の部隊とアデルさんの部隊のみです。大将であり隊長でもある僕達で、最後は幕を下ろそうじゃありませんか」
「……攻撃を防いだらセシルさんの勝ち、防げなければ私の勝ち、って事ね」
「不服ですか?」
「いいえ――……やっとセシルさんと向き合えるんですもの、こんなに嬉しい事はないわ」
「成立ですね。では――」
「ええ――……」

 そして両者は共に最強の力をその身に宿す。




ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
あとがき

次話でようやく魔法対抗試合が終わります。やっと書きたい話が書ける……
さぁ大詰め、頑張ります!
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