このまま君と遠くまで

下井理佐

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第二話 違和感

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 冬陽の希望通り、二人はさらに遠くにいくことを目指した。

「この電車に乗れば、二時間ぐらいで県越えれるよ。どうする?」

「んー、じゃあそうする!」

「おっけー」

 二人は特急電車に乗り込み、更に南を目指した。
 冬陽は物珍しそうに車内の様子を見たり、車窓の外を眺めたりしている。

(もしかして箱入り息子とか?)

 漫画などでありがちな、屋敷から逃げ出してきた良いところのお坊ちゃんかと思ったが、着ている服を見る限りそうではなさそうだ。
 毛玉のついたパーカーに、裾が若干擦り切れているチノパン。どこをどう見たってお坊ちゃんという服装ではない。

(まあ世の中色んなやつがいるわな)

 琉は意識を車窓の外に向けようとした時、冬陽のポケットからスマホが鳴る。
 しかし、冬陽はスマホを取り出す様子もなくずっと無視を続ける。

「いいの?」

「電車の中って出ちゃダメなんでしょ?」

「まあそうだけど、見るくらいなら良いっしょ」

「……別にいい」

「あ、そう?」

 未だ鳴る通知音が鬱陶しくなったのか、冬陽はスマホを取り出し、琉に見えないよう画面を隠しながら通話を切る。

「……マナー違反だったね」

「人少ないしいいんじゃね?」

「琉って、もしかしてモラルない?」

「平均よりはないかもな」

「あはは、自覚あるんだ?」

「まあね?」

 そんな話をしながら、二人は流れる景色を眺めた。



 駅に降りると、日は少し傾き出していた。
 琉は何となく明日の仕事のことが頭によぎったが、最悪明日も休めばいいや、と呑気に思考を切り替える。

「で、K県に着いたわけですが、冬陽くんは何がしたいのかな?」

 小学生に話しかけるような口調で声をかけると、冬陽は少しくすぐったそうな表情で琉を見上げる。

「えー、何しよ?」

 冬陽は大きい瞳を細めてニコリと笑う。

「決めてないのかよ」

「こういうのって、年上がエスコートしてくれるんじゃないの?」

「可愛い彼女だったするけどな」

「え、俺かわいいでしょ?」

 冬陽は心外そうな顔で琉をジトリと見つめる。
 
「まあ顔は整ってんじゃね?」

 琉は笑いながらスマホを取り出す。
 近場で面白そうな所を探すが、どこも車が必要な場所ばかり候補に挙がってくる。

「あー、近くにカラオケしかねぇ」

「……カラオケ?」

 冬陽が声がわずかに震える。

「あ、もしかして音痴とか?」

「……はぁ?違うし!めっちゃ俺上手いから!」

「はー言ったな?じゃあどっちが上手いか勝負な!採点で負けたらポテト奢りな!」

「いいよ!後悔しないでよね!」

 二人は火花を散らせながら近くのカラオケ店に向かう。

(あれ、カラオケって特急乗らなくても行けたくね?)

 そんな考えが頭をよぎったが、無計画な旅なのだ。
 そんなこともあるだろうと、今はこの成り行きを楽しむことにした。



「んふー」

 冬陽の前には大皿のポテトが3つ並んでいた。
 満足そうにケチャップをつけては嬉しそうに頬張っている。

「本当に上手いなんて思わねぇじゃん」

「音痴なのは琉だったね!」

「調子悪かっただけだから!いつもはもっと上手いから!」

「本当かな~?」

 本当だよ!と琉は答えながらスマホを取り出す。
 時間を見たらもう18時を過ぎていた。
 今から電車に乗れば、20時を過ぎた頃に自宅に着くだろう。

「そろそろ帰る?」

「え?」

 冬陽は目を見開いて固まる。

「え、いやもう18時だし、親とか心配しない?」

「……え、あっ俺って未成年に見える?」

「未成年にしか見えん」

 冬陽は笑って何かを取り繕うとする。

「えー、めっちゃショック!」

「へー17歳くらいだと思ってたわ、じゃあどうする?まだ遊ぶ?」

「遊ぶ!」

 冬陽はデンモクを取り、曲を探す。
 入れた曲は琉の父親がよく聞いていたものだった。

「渋っ、どこで知ったんそんな曲」

「えー?有名じゃない?」

 冬陽の綺麗な声が部屋に響く。
 琉は歌を聴きながら、冬陽のことを考える。
 大きな街に行ったことがなくて。
 ファミレスに来たことがなくて。
 電車に乗ったことがなくて。
 だけどカラオケには行ったことがあって。
 親父世代の曲を知っている。

(こいつのこと、何も分からねぇ)

 歌っている冬陽の横顔を見る。
 笑顔で、心の底から楽しんでいるように見えた。

(楽しんでくれてるならいいか)

 琉は心が温かくなるのを感じながら、冬陽のポテトを盗み食いした。



 カラオケを出たのは、22時を過ぎた頃だった。
 久々に大声で歌ったせいで声が枯れている。

「久々に歌ったー、冬陽マジで歌上手いな、ビビったわ」

 冬陽はどこか不安そうな顔をしながら、琉を見上げる。

「本当に、カラオケだけで良かったの?」

「ん?どういうこと?カラオケって他になんかするっけ?」

 冬陽はどこかほっとした表情をした後、ニコリと笑う。

「いや、何でもない!」

 琉は不思議に思いつつも、スマホを取りだし画面を見る。

「やっべ、ここって終電早過ぎだろ、終わったー」

 タイミング良く冬陽のスマホも通知が鳴る。
 また画面を隠しながらスマホを見る。
 冬陽の表情がわずかに強張り、視線が揺れる。
 フリック入力をしているのか、素早く指を動かすと何事もなかったかのようにスマホをポケットにしまった。

「もしかして親?」

 琉はニヤニヤしながら冬陽に声をかける
 一瞬冬陽が焦ったように顔を上げるが、琉の顔を見て表情を和らげる。
 
「え、いや……だから!未成年じゃないって!」

「そういうことにしといてやるよ、どうする?終電ないけど」

「しゅうでん?」

 初めて聞いた言葉なのか、冬陽は頭を傾げる。
 琉は不思議に思いながらも言葉の意味を説明する。
 
「えーっと、帰りの電車がないってこと」

「え、じゃあどうするの?」

「あー、泊まるしかなくね?タクシーで県越えたら破産するぞ」

 冬陽はどこか不安そうな顔をする。
 金に不安があるのだろうか、と考え、スマホを取り出し近場のビジネスホテルを探す。
 
「ちょい探すわ。待ってて」

 琉がスマホで検索を近場のホテルを検索すると、空きのあるホテルがすぐに見つかった。
 しかし、あるのはダブルの部屋だけでシングルの部屋はどこも満室だった。

「二人部屋なら空いてるとこあるけど、泊まる?」

「泊まる、の?」

「ん?嫌?」

 冬陽はすぐに表情と取り繕って笑顔を向ける。

「う、ううん!大丈夫!探してくれてありがと」

「おう、じゃあ行こっか」

 ホテルに向かって歩き出した瞬間、冬陽が琉の腕に絡みつく。

「うおっ?!えっ!?びっくりしたぁ」

 琉は情けない声を出して驚く。
 その様子に冬陽は一瞬呆然とするが、すぐにケラケラと笑い出す。

「あはは!そんな声出さなくてもいいじゃん!」

 冬陽はケラケラと笑いながら琉の背中をバシバシと叩く。

「いや普通ビビるだろ!あーマジびっくりしたぁ」

 二人は笑いながらビジネスホテルに向かっていった。



「先に風呂入っていいよー」

 琉はジャケットをハンガーにかけると冬陽に一番風呂を譲る。

「いいの?」

「いいよ、ゆっくり浸かりなー」

 冬陽は上機嫌に風呂に向かうのを見届けると、琉はベッドに座りテレビをつける。
 バラエティ番組はほとんど終わり、夜のニュースだけが淡々と流れていく。

『昨夜未明、H市のアパートにて女性が死亡しているのを近隣住民が発見し、病院に搬送されましたがまもなく死亡が確認されました。頭部に複数の外傷があることから警察は殺人事件として捜査を……』 

(俺には全然関係ねーな)

 コンビニで買い込んだ酒とつまみを食べながらぼんやりとテレビを眺める。

「明日も仕事休もうかな」

 久々に誰かと喋り、遊んだ気がする。
 こんなに楽しいのは久々だった。
 冬陽が聞き上手だからだろうか。
 話していてずっと飽きない。

「あー、仕事やめてー」

 そんなことを言いながら、琉はテレビのチャンネルを切り替えた。
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