56 / 97
連載
99 無法者集団は酒を飲み交わす
しおりを挟む
『異邦』近辺の森の中で、男たちは日没を待っていた。
五十人近くはいるだろう。
中心には無精ひげを生やした大柄な男が一人どっしりと座っている。
「今夜だ。今夜奇襲をかける。いいな?」
男が言うと、周囲にいた男たちは「ウオオオオオッ!」と雄たけびを上げた。
大柄な男の隣には、グレント魔法盗賊団の首領であるグレントもいた。
辺境伯軍からどうにか逃げてきたグレントは、無法地帯である『異邦』周辺へと逃げ、そこを根城にしていた無法者に拾われたのだった。
無法者集団のトップにいるのは、中心に座っている大柄な男。名をヴァーノンといった。
「……本当にお前らに協力したら、捕まった俺の仲間たちを助けてくれるんだろうな?」
グレントはヴァーノンに尋ねた。
「ああ、もちろんだとも。俺たちの目的は辺境伯領の襲撃だ。どさくさに紛れて助ける事もできるだろうよ」
ヴァーノンは上機嫌にうなずく。
「その代わりしっかりと我々を手伝ってもらうぞ」
「ああ、わかってる」
「先のオーク防衛戦、防衛の要だったのは兵ではなく魔法工房の研究者とかいう話だったそうじゃないか。で、あれば、まずはそこを潰す。いの一番にな」
ヴァーノンたちがとっているのはゲリラ戦法だ。一カ所に的を絞っては、奪い、破壊し、対応される前に逃走する。それが成功したら、後日今度は別の場所を同じように襲撃する。そうやって領邦全体を穴だらけにしようというのである。襲撃の一番初めに選ばれたのが、ロッドやサフィたちのいる魔法工房だった。
「……サフィール魔法工房か」
とグレントは言った。
「俺の仲間から聞いた。俺の盗賊団を潰してくれたのも、そいつらだそうだ」
「ふん、潰されたのは貴様らが貧弱だったからよ!」
ヴァーノンはグレントを鼻で笑う。
「たかが魔法工房の研究者なんぞ、奇襲をかけて力で押せばすぐに潰せるわ。兵士でもあるまいに、常日頃から戦闘を仕掛けられる訓練などしているはずもなかろう」
「……あまり推奨は、しない。奴らは魔法使いとしてはかなりの達者だ。悔しいが、それは認めなきゃならねえ」
「ああ!?」
ヴァーノンは立ち上がって、グレントを力任せに殴り飛ばした。
「がはっ!」
グレントは吹き飛び、太い木の幹にぶつかってようやく止まる。
周囲の男たちから嘲笑と喝采が飛んだ。
「てめえ、誰に向かって口答えしてやがる」
グレントは息が出来ないまま、地面に突っ伏した。
「だからお前は小物なんだよ。魔法使いなど前衛がいてこそ成立する。魔法使いばかりなら、魔法なぞ使う暇もなく強襲するだけだ。丁度工房の裏手が雑木林になっているだろうが。襲撃するにはうってつけの地形だし、この数で押せば楽勝よ。そうだろうてめえら!」
ウオオオオオッ!
「……で、でも、もし気づかれていたら?」
グレントはそれでも食い下がる。
「関係ないと言っているだろう。奇襲は素早くやらねば意味がないんだからな。対応しようとしている間に終りよ。準備ができていない者なぞ、少しも恐怖じゃねえんだわ」
ヴァーノンは、立ち上がろうとしたグレントの頭を踏みつける。
「お頭、その工房に女の研究者はいるんですかい!?」
子分の一人が尋ねた。
「ああ! 若いのが二人いるってよ!」
ヴァーノンが大声で答えると、男たちはさらに昂揚する。
「殺せなんて野暮な命令はやめてくださいよ!」
「ああ、もちろんだ! 早い者勝ちで持っていけ! 奪えるものは全て奪え!」
「ウオオオオオッ!」
ヴァーノンはなおもグレントの頭を踏みつけながら、グレントに告げる。
「お前にも来てもらうぞ。最前線でしっかり働かなきゃ、お前の子分なぞ助けん。逆に一人ずつなぶり殺しにするからな」
「わ、わかってる……わかってるよ」
「作戦通りにやれ。お前が先駆けだ」
ヴァーノンは首からネックレスのように下げている魔法石を指でなでながら言った。
「俺とこの魔法石があれば何だってできるんだよ」
無法者集団は、日没を待ちながら高ぶり、酒を飲みかわす。
五十人近くはいるだろう。
中心には無精ひげを生やした大柄な男が一人どっしりと座っている。
「今夜だ。今夜奇襲をかける。いいな?」
男が言うと、周囲にいた男たちは「ウオオオオオッ!」と雄たけびを上げた。
大柄な男の隣には、グレント魔法盗賊団の首領であるグレントもいた。
辺境伯軍からどうにか逃げてきたグレントは、無法地帯である『異邦』周辺へと逃げ、そこを根城にしていた無法者に拾われたのだった。
無法者集団のトップにいるのは、中心に座っている大柄な男。名をヴァーノンといった。
「……本当にお前らに協力したら、捕まった俺の仲間たちを助けてくれるんだろうな?」
グレントはヴァーノンに尋ねた。
「ああ、もちろんだとも。俺たちの目的は辺境伯領の襲撃だ。どさくさに紛れて助ける事もできるだろうよ」
ヴァーノンは上機嫌にうなずく。
「その代わりしっかりと我々を手伝ってもらうぞ」
「ああ、わかってる」
「先のオーク防衛戦、防衛の要だったのは兵ではなく魔法工房の研究者とかいう話だったそうじゃないか。で、あれば、まずはそこを潰す。いの一番にな」
ヴァーノンたちがとっているのはゲリラ戦法だ。一カ所に的を絞っては、奪い、破壊し、対応される前に逃走する。それが成功したら、後日今度は別の場所を同じように襲撃する。そうやって領邦全体を穴だらけにしようというのである。襲撃の一番初めに選ばれたのが、ロッドやサフィたちのいる魔法工房だった。
「……サフィール魔法工房か」
とグレントは言った。
「俺の仲間から聞いた。俺の盗賊団を潰してくれたのも、そいつらだそうだ」
「ふん、潰されたのは貴様らが貧弱だったからよ!」
ヴァーノンはグレントを鼻で笑う。
「たかが魔法工房の研究者なんぞ、奇襲をかけて力で押せばすぐに潰せるわ。兵士でもあるまいに、常日頃から戦闘を仕掛けられる訓練などしているはずもなかろう」
「……あまり推奨は、しない。奴らは魔法使いとしてはかなりの達者だ。悔しいが、それは認めなきゃならねえ」
「ああ!?」
ヴァーノンは立ち上がって、グレントを力任せに殴り飛ばした。
「がはっ!」
グレントは吹き飛び、太い木の幹にぶつかってようやく止まる。
周囲の男たちから嘲笑と喝采が飛んだ。
「てめえ、誰に向かって口答えしてやがる」
グレントは息が出来ないまま、地面に突っ伏した。
「だからお前は小物なんだよ。魔法使いなど前衛がいてこそ成立する。魔法使いばかりなら、魔法なぞ使う暇もなく強襲するだけだ。丁度工房の裏手が雑木林になっているだろうが。襲撃するにはうってつけの地形だし、この数で押せば楽勝よ。そうだろうてめえら!」
ウオオオオオッ!
「……で、でも、もし気づかれていたら?」
グレントはそれでも食い下がる。
「関係ないと言っているだろう。奇襲は素早くやらねば意味がないんだからな。対応しようとしている間に終りよ。準備ができていない者なぞ、少しも恐怖じゃねえんだわ」
ヴァーノンは、立ち上がろうとしたグレントの頭を踏みつける。
「お頭、その工房に女の研究者はいるんですかい!?」
子分の一人が尋ねた。
「ああ! 若いのが二人いるってよ!」
ヴァーノンが大声で答えると、男たちはさらに昂揚する。
「殺せなんて野暮な命令はやめてくださいよ!」
「ああ、もちろんだ! 早い者勝ちで持っていけ! 奪えるものは全て奪え!」
「ウオオオオオッ!」
ヴァーノンはなおもグレントの頭を踏みつけながら、グレントに告げる。
「お前にも来てもらうぞ。最前線でしっかり働かなきゃ、お前の子分なぞ助けん。逆に一人ずつなぶり殺しにするからな」
「わ、わかってる……わかってるよ」
「作戦通りにやれ。お前が先駆けだ」
ヴァーノンは首からネックレスのように下げている魔法石を指でなでながら言った。
「俺とこの魔法石があれば何だってできるんだよ」
無法者集団は、日没を待ちながら高ぶり、酒を飲みかわす。
応援ありがとうございます!
10
お気に入りに追加
3,181
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。