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181 少女たちを尋問する
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「で、とりあえずそいつら持ってきたわけかい」
再び魔法工房に戻ってくると、ラズリーズさんが呆れ顔で俺たちを迎えた。
もう夜である。ラズリーズさんは両手にミトンをはめて、かまどからシチューらしき鍋を持ち上げながらため息をついた。
「さっそく敵に襲われたわけだね」
兵の人たちには帰ってもらった。傍らには、手足を縛られた少女二人が横たわっている。
「ま、危険は伴うとわかってはいたがねえ。こうもすぐに行動に移してくるとは」
「すみません、俺の油断が招いたことです」
「ランドラック卿は敵性勢力のあぶり出しも含めておまえさんにアールカを引き渡そうとしていたんだろうよ」
ラズリーズさんはそう言ってくれはしたが、さすがにアールカとはぐれてしまったのは想定外だったろう。
「で」
ラズリーズさんはシチュー鍋を持ったまま、少女たちに近づいて見下ろした。
「アールカの所在は本当に知らないのかい?」
「知らないわよ!」
ボブカットの少女が答えた。
「きみも?」
俺は茶色い髪の少女に聞いた。
「し、知らないです……」
「言わないとうっかり鍋をこぼしてしまうかもしれないよ。できたて熱々のシチューが入ったこの鍋をね」
ラズリーズさんが怪しく笑いながら言った。怖い。
「脅しなんかには屈しないわ」
ボブカットの少女が答えた。
……アールカが怖がってどこかに行ってしまったということだろうか。それにしても、どこに、どうやって?
「質問を変えよう」
俺は言った。
「きみたちは何者だ?」
「言うと思う?」
ボブカットの少女がまっさきに答える。彼女は、茶色い髪の子と違って毅然とした態度だ。
「……どうしても答えてくれない?」
「これは不当な拘束よ。大魔法使いラズリーズとクリムレット辺境伯の使いが少女を何人も誘拐していたって訴えてやるわ」
「…………」
肩をすくめるラズリーズさんと目が合った。
俺は短くため息をつく。
それから、表情を引き締めてボブカットの子に改めて聞いた。
「まずはきみたちの名前を教えてほしい。答えないと、そっちの子だけを今すぐ憲兵に引き渡す」
そう言って、茶色い髪の子を指さした。茶色い髪の子はびくりとなる。
「『どんな手を使っても情報を引き出せ』という命令と一緒に。俺が、この第二級紋章の提示とともに兵に命じる。紋章持ちの命令は、下の者には絶対的に働くことは、さっき証明して見せたよね?」
「!」
ボブカットの子の目が見開かれた。
「そ、そんなの、い、言うわけない……」
茶色い髪の子が恐る恐る反論した。
「きみには聞いていない」
俺はにらみつけて、茶色い髪の子を黙らせる。
これはちょっとした駆け引きだった。
ボブカットの子は、俺が茶色い髪の子を追いかけたとき、自分だけ逃げずに戻ってきた。
茶色い髪の子を助けに来たのだとしたら、二人は仲間意識が強く、互いに思いやりがあることになる。もしくは主従関係などがあり、茶色い髪の子を見捨てられない理由があるかだ。
仲間意識が強いなら、仲間をむざむざ憲兵に売るまねはしたくないだろう……というのが俺の予測だ。
どんな状況でも気丈にふるまっているのは、気が強い証拠でもあるけど、少しのことでは考えを曲げない心の表れでもある。そこを突かせてもらう。
「どうする? 話してくれるんなら、悪いようにはしないよ」
ラズリーズさんは俺の考えを察しているのか、無言で二人の反応を見ている。
これでしゃべらなければ、別の手を考えよう。
「わ、私はミカ、そっちの子はパピルサ。『マグナシア教団』の指示で、ラスリーズ魔法工房で保護されている少女を捕らえるように言われている」
「ミカ! だめだよ……!」
気の強そうな金髪ボブカットの子はミカ、気弱そうな茶色い髪の子はパピルサというらしい。
「ミカと、パピルサ。それが本名?」
「そうよ」
「アールカ……さっききみたちがさらおうとした少女は、きみたちは何と呼んでいる?」
「知らない。ただ、ラズリーズ魔法工房で保護されている少女、としか」
「なるほど。わかったよ」
俺は二人の縄を解いて自由にした。籠手は破壊しているし、脛当てはもう奪っている。脅威はないだろう。
「反撃はしないようにね」
解放されたミカとパピルサは、拍子抜けしたように動かないでいた。
「どういうこと……?」
「逃がして、くれるの?」
俺はうなずいた。
「悪いようにはしないっていったじゃん」
「…………」
ミカとパピルサはゆっくりと立ち上がり、こちらを警戒しながらラズリーズさんの魔法工房から出ていく。
「逃がしてもよかったのかい?」
二人が立ち去ってから、ラズリーズさんが尋ねた。
「名前だけ聞いて放免なんて、ずいぶん甘いもんだ」
「そうでもないですよ」
俺は苦笑した。
「ラズリーズさん、アールカの本当の名前って知ってます?」
問うと、ラズリーズさんはややあってため息交じりに答えた。
「……そいつは『特一級』に相当する秘密さね。知るにはランドラック城塞伯の許可が必ずいる」
「あー、なんかそうなんじゃないかって思ってました」
「まあ、緊急事態ではあるからね。私の口から伝えよう。聞く覚悟があるのならね」
ラズリーズさんは改まって答えた。
「彼女の名は《神格アルカヘストの召喚》。彼女の存在そのものが、禁忌の大魔法の一つさ」
再び魔法工房に戻ってくると、ラズリーズさんが呆れ顔で俺たちを迎えた。
もう夜である。ラズリーズさんは両手にミトンをはめて、かまどからシチューらしき鍋を持ち上げながらため息をついた。
「さっそく敵に襲われたわけだね」
兵の人たちには帰ってもらった。傍らには、手足を縛られた少女二人が横たわっている。
「ま、危険は伴うとわかってはいたがねえ。こうもすぐに行動に移してくるとは」
「すみません、俺の油断が招いたことです」
「ランドラック卿は敵性勢力のあぶり出しも含めておまえさんにアールカを引き渡そうとしていたんだろうよ」
ラズリーズさんはそう言ってくれはしたが、さすがにアールカとはぐれてしまったのは想定外だったろう。
「で」
ラズリーズさんはシチュー鍋を持ったまま、少女たちに近づいて見下ろした。
「アールカの所在は本当に知らないのかい?」
「知らないわよ!」
ボブカットの少女が答えた。
「きみも?」
俺は茶色い髪の少女に聞いた。
「し、知らないです……」
「言わないとうっかり鍋をこぼしてしまうかもしれないよ。できたて熱々のシチューが入ったこの鍋をね」
ラズリーズさんが怪しく笑いながら言った。怖い。
「脅しなんかには屈しないわ」
ボブカットの少女が答えた。
……アールカが怖がってどこかに行ってしまったということだろうか。それにしても、どこに、どうやって?
「質問を変えよう」
俺は言った。
「きみたちは何者だ?」
「言うと思う?」
ボブカットの少女がまっさきに答える。彼女は、茶色い髪の子と違って毅然とした態度だ。
「……どうしても答えてくれない?」
「これは不当な拘束よ。大魔法使いラズリーズとクリムレット辺境伯の使いが少女を何人も誘拐していたって訴えてやるわ」
「…………」
肩をすくめるラズリーズさんと目が合った。
俺は短くため息をつく。
それから、表情を引き締めてボブカットの子に改めて聞いた。
「まずはきみたちの名前を教えてほしい。答えないと、そっちの子だけを今すぐ憲兵に引き渡す」
そう言って、茶色い髪の子を指さした。茶色い髪の子はびくりとなる。
「『どんな手を使っても情報を引き出せ』という命令と一緒に。俺が、この第二級紋章の提示とともに兵に命じる。紋章持ちの命令は、下の者には絶対的に働くことは、さっき証明して見せたよね?」
「!」
ボブカットの子の目が見開かれた。
「そ、そんなの、い、言うわけない……」
茶色い髪の子が恐る恐る反論した。
「きみには聞いていない」
俺はにらみつけて、茶色い髪の子を黙らせる。
これはちょっとした駆け引きだった。
ボブカットの子は、俺が茶色い髪の子を追いかけたとき、自分だけ逃げずに戻ってきた。
茶色い髪の子を助けに来たのだとしたら、二人は仲間意識が強く、互いに思いやりがあることになる。もしくは主従関係などがあり、茶色い髪の子を見捨てられない理由があるかだ。
仲間意識が強いなら、仲間をむざむざ憲兵に売るまねはしたくないだろう……というのが俺の予測だ。
どんな状況でも気丈にふるまっているのは、気が強い証拠でもあるけど、少しのことでは考えを曲げない心の表れでもある。そこを突かせてもらう。
「どうする? 話してくれるんなら、悪いようにはしないよ」
ラズリーズさんは俺の考えを察しているのか、無言で二人の反応を見ている。
これでしゃべらなければ、別の手を考えよう。
「わ、私はミカ、そっちの子はパピルサ。『マグナシア教団』の指示で、ラスリーズ魔法工房で保護されている少女を捕らえるように言われている」
「ミカ! だめだよ……!」
気の強そうな金髪ボブカットの子はミカ、気弱そうな茶色い髪の子はパピルサというらしい。
「ミカと、パピルサ。それが本名?」
「そうよ」
「アールカ……さっききみたちがさらおうとした少女は、きみたちは何と呼んでいる?」
「知らない。ただ、ラズリーズ魔法工房で保護されている少女、としか」
「なるほど。わかったよ」
俺は二人の縄を解いて自由にした。籠手は破壊しているし、脛当てはもう奪っている。脅威はないだろう。
「反撃はしないようにね」
解放されたミカとパピルサは、拍子抜けしたように動かないでいた。
「どういうこと……?」
「逃がして、くれるの?」
俺はうなずいた。
「悪いようにはしないっていったじゃん」
「…………」
ミカとパピルサはゆっくりと立ち上がり、こちらを警戒しながらラズリーズさんの魔法工房から出ていく。
「逃がしてもよかったのかい?」
二人が立ち去ってから、ラズリーズさんが尋ねた。
「名前だけ聞いて放免なんて、ずいぶん甘いもんだ」
「そうでもないですよ」
俺は苦笑した。
「ラズリーズさん、アールカの本当の名前って知ってます?」
問うと、ラズリーズさんはややあってため息交じりに答えた。
「……そいつは『特一級』に相当する秘密さね。知るにはランドラック城塞伯の許可が必ずいる」
「あー、なんかそうなんじゃないかって思ってました」
「まあ、緊急事態ではあるからね。私の口から伝えよう。聞く覚悟があるのならね」
ラズリーズさんは改まって答えた。
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