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第三章

戦場の女神、冷凍も用意する

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 正面門、チーム破壊神の兵士三人が町の中に帰還してきた。


「あ、あなたがコックさんですか!?」

「ふっ……―――おおよ」


 ――――恥知らずの戦力外がドヤ顔を決める。


 最早『剣士』と言われず『コック』でこの顔。 またタイトル変更の可能性が出てきた。(もうしない筈ッ!)


「さあ食材を持ってこいっ! お前達も手伝え!」

「はいっ! ……いや、ですが、今正面門はあの女の人一人で……」

 自国の町を女一人に任せ、自分達だけ退いた事に眉を下げる兵士。 それを見たノエルは冷めた顔で問い掛けた。


「心配か?」

「そりゃ…………それが……―――全然」


「いよぉぉおしッ!! それでこそデルドルの民ッ!! ちょうど夕飯時だ、今日は鉄板パーティーだぜぇッ!!」


「「「おおぉぉッ!!」」」


 外の戦闘より盛り上がる町中。 
 過去ノエルがこれ程頼り甲斐のある存在に見えた事があるだろうか。


「んー? カレーパーティーじゃないのぉ?」

「アンジェ、そりゃまた今度やってやっからな」
「うんっ」

 未だ激闘が行われる中、娘を甘やかす困った父親。

「忙しくなるぞ! お前らもっと人を集めて来いっ! 兵士も町民も全部だ!! 全員に食わせてやる、肉は勝手に歩いてくっからよッ!!」

 命懸けで戦う仲間を手伝わず勝手な事を言い放つクズ。  だがこれも、今この町には必要な事なのかも知れない。


 その頃、一人奮戦するミシャは―――



「なによ、討ち漏らす程の数も来ないじゃない。 そもそも一体一体に手こずりすぎなのよ、これじゃブランとくまキチも暇してんじゃないの?」


 お前もくまキチ言うな。


「魔法剣士殿っ! コックさんが次の食材をと―――おおっ!!」

 そこには既に、厳選されたモンスター食材が大量に積まれていた。

「ちょっと、私は魔法剣士じゃないわ」

「と、言いますと……」

「ジャンルでなんか私を表せない、私はそう――――戦場の女神、ヴァルキリーねッ!」


「………」


 さあ兵士くん、食材を持って町に戻ろう。


( 殺人兵器……て意味かな……? )


 ま、人は殺していないがほぼ正解だ。

 軍施設では聖女と言われたミシャだったが、戦う姿しか見ていない者にはまさに修羅にしか映らない。 この町の人間は、今日天使と悪魔を見た事になる。


「お次は保存用よ! 氷上のサル=ギアッチョ女神=デアッ!!」

「――ひッ! さ、さぶいッ……!」

 氷の冷気が辺りを冷やし、生命活動を停止したモンスター達の氷像を造り上げた。


「氷の世界も獄炎も、私なら思いのままよ」


 いやだなあ、それもう地獄じゃないっスかぁ!! と言った顔で兵士は苦笑いを浮かべる。 



 そして、モンスター襲撃の峠を越えた頃、主要メンバーを一人残してミシャ、ブランが休憩に入った――――



「――ぷわぁ……おなか、いっぱいだぁ……」

 満足そうに大の字になった子供。 彼は開戦前家を飛び出し、母親に駄々をこねていたあの子だ。

「アンジェもー……」

 と隣で同じように転がるピクシー。

「ぼくのほうがいっぱいたべた!」
「アンジェのがおっきいからいっぱいたべたよー!」

 大食い自慢をして睨み合う二人、ここしばらくサザンピークでは聞けなかった和やかな会話に、大人達は優しく微笑んでいる。

「アンジェ、大分仲良くなったのね」

 戻って来たミシャも柔らかな表情で話しているが、戦場の彼女を見れば子供も寄りつかない事請け合いだ。

「うんっ、コランていうんだよ!」
「おねーさんたちがやっつけてくれたんでしょ!? きれーなのにつよいんだねっ!」


「――なッ!  も、もうっ……おませさんなんだから……」


 コランくん、君のお陰でサザンピークは救われるだろう。


 ちょろいヒロインは子供に褒められてもその気になってくれる。 
 これでしばらくふわふわしているかと思われたミシャだったが、


「ブラン、話があるの」


 隣で食事を終えていたブランに切り出したその表情は、浮かれた勘違い女のそれではなかった。


「……わかった」


 二人は立ち上がり、人気ひとけの無い町外れへと消えて行く。









 人目が無いのを確認した後、ブランは木に寄り掛かり腕組みをして始めた。


「それで、話とはなんだ」

「ええ、この町……


 質問に答えるミシャは俯き、風に揺れる金色の髪が顔を隠す。



 ――――捨てられたわね」



 四人の凄腕冒険者の活躍に希望を取り戻したサザンピーク。 光が差した筈の町に、ミシャが投げた言葉は闇だった。


 その言葉が示すものは一体何なのか、サザンピークはもう、救えない町だと言うのか――――。



 ……………凄腕冒険者は三人の誤りです。


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