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別れ話に立ち会わされてたらカップルの彼氏から突然告白されました。

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 私は早乙女悠花さおとめゆうか。 別に水を被っても異性に変身したりしない、ごく普通の高校一年生です。 目を引くような容姿でもなく、巨乳でも天然でもありません。 自己評価ちょっと平均より可愛いかも? だから恐らく平均、もしくは中の下でしょう。

 その私が今何をしているのか、と言いますと。  えー………今私は、少々緊張感のある場面に同席しています。 

 それは何かと言うとですね、簡単に言いますと、私の友達の新光寺亜由吏しんこうじあゆりちゃんというシャレならん程の美少女と、彼氏のイケメン小堺秀馬こさかいしゅうまくんの別れ話に立ち会っているのです。

 ―――何故私がこの場に居るのか。 

 それは、秀馬くんは亜由吏を好きで、よく相談されていた私は二人を引き合わせた恋のキューピッド、だからなのです。 つまり、お前くっつけたんだから責任持てや! って感じですかね。

 そして今、高校生の懐に優しい大手チェーン店のカラオケボックスで、歌声どころか会話さえ無い沈黙が流れている訳なんです。


「まぁ、とにかくお互いの言い分を聞きましょう」

 だんまりの場面を動かす。 それが私に与えられた使命ですから。

「じゃあまず、秀馬くんからどうぞ」

 ほら、普通男から歌ってあっためるでしょ? カラオケって。 ……歌う雰囲気じゃありませんが……。

「俺は別に、亜由吏から別れたいって言ったんだから……」

 ふんふん、彼は別れるのを了承していると。 でも、それっておかしいよね? だってそれなら、私が亜由吏から立ち会って欲しいなんて言われなくない? 亜由吏が別れたい、秀馬くんは言われただけ。 なのに亜由吏はこの場を設けた。

「てことは、秀馬くんは別れるのに文句は無い訳だ」

「……まぁ」

 では、語って頂きましょう。 
 自分からフったのにこの場を設けた美少女に。

「亜由吏、何を話したくて彼を呼んだの?」

「……別れたいって言ったのは、秀馬くんの気持ちを確かめたかったから……」


 …………可愛いな、おい。


 もうヤバい可愛いんだけど。 
 切ない表情で俯く美少女? 私が付き合いたいわ! いや別にそういう趣味無いけど。

「つまり、亜由吏は思う所あって彼の気持ちを確かめたかった。 そういう事ね」

「……うん」

「だそーです。 これだけ思い詰めるような事をしたって事だよ? 秀馬くんが」

「俺は別に……何にも……」

 ―――はぁ? 何をおみゃーはグジグジやっとるかね? ウチの亜由吏が不満だっちゅーてるやん。 ユーに何らかの落ち度あったんちゃうんかい?

「付き合って三ヶ月……手も握ってもらってない……」


 ―――はぁ!?


 おい秀馬、お前奥手過ぎて手ぇ肘に生えてんの? 私が男だったらとっくに………やん♡ 乙女に何言わせるの。

「……まぁ、それは私からどうこう言える話題じゃないけど、何も求められないのは女の子だって不安になる……と思うよ?」

 付き合った事ないから予想ですが! 多分そうなると思われ?

「悠花も、そうなのか?」

「えっ? ……う、うん、多分……」

 ちょっと、私に振るなって。 予想言うてるやん。 いや言ってはないか……。 てか私の事はどうでもいいのよ、問題は亜由吏が――


「それが嫌なのッ!!」


 ―――わっ!  ど、どうした亜由吏!? それってどれよ!?


「何でいつも私の言う事を悠花に置き換えるのっ!?」

「そ、そんなつもりは……」


 ………ちょっと、秀馬くん?  ここは頑張ってよ? 何か私のポジが危うくなるのはホントやめて?


「秀馬くんは私と話してても、いつも悠花もそう言ってた、悠花から聞いた………そんな事ばっかり……!」


 コラ秀馬、黙ってないで何とか言わんかい。


「……そんなつもりは……」


 それさっき言ってダメだったヤツじゃん!  引き出し一個!?  キミ売れへんで!?  ……仕方ないなぁ。


「あ、亜由吏、秀馬くんはホラ、私にずっと亜由吏の事相談しててさ、きっと亜由吏ならこう言われると喜ぶよ、とか、こうすれば好かれるんじゃない? ってアドバイスしてたから、その名残りだって……」


 そのね、正直言って二人の破局の火種に使われるのはマジ勘弁。 恋人までなるのに助力した私に矛先向けるの酷すぎるって……。


「秀馬くんだって、ホントは亜由吏と別れたくないんでしょ? 女の子から言われたからって、男のプライドでそれを意固地になっても良い事ないよ?」

 こんな可愛い子中々居ませんぜ?  強がっても必ず後悔しますから、お客さんこれ絶対!

「私は、秀馬くんがちゃんと私を見てくれるなら………好き、だよ……」


 ――――やば………私がキュンとしたわ。


 ………亜由吏、こんな男忘れて俺と付き合おうぜ。 って言いたくなるくらい可愛いな!  もう別れちまえって、もっと良い男いるって!

「そう、だよな……」

 おっ? 少年、やっとわかってくれたか。 そうさ、折れるのもまた勇気。 戻れない幸せに気づいてもレモンは苦いらしいよ?


「亜由吏、俺が悪かったよ……」

「秀馬くん……」


 ふっ……。 

 私の役目は終わったね。 

 後はまぁ、仲直りの熱いアレでもしておくれよ。 私は先に消えるから、秀馬くん迷惑料として奢っといてね!


「じゃ、私はこれで――」

「俺、悠花が好きなんだ」


 そうかそうか、良かったね、私も好きだよ。 末永くお幸せにね……―――って秀馬くん、名前私になってるから、ウケる。



「……ふっ………うぅ……っ」


 ――えっ!? な、何か亜由吏泣いてるけどっ!?

 で、でも、涙って色々あるよね? これ、嬉し涙、だよね……?  この後アレかな―――涙のキッス?   歌、入れときましょうか?


「ごめん、俺がだらしないせいで……」


 そうだ、これからはシャンとしなよぉ?  雨降って地固まるっていうけど、何度もは私も御免だからねっ!


「悠花と話したくて、近づきたくて……俺は、亜由吏を利用してしまった……」


 ―――は? ちゃうやん?  悠花と亜由吏の使い方逆でしょうが。


「……とっくに、わかってたよ……」
「亜由吏……」

「ちょ、ちょっと待って……! 違うじゃん? とっくにわかんないじゃん!?」


「でも、それでも……努力すれば私を好きになってくれるかも……そう思って……」
「いや、秀馬くんは最初から亜由吏を好きで……」

「本当にゴメン。 俺がちゃんと、亜由吏に付き合ってって言われた時、悠花が好きだって言えば……」

「もう、いいよ……私―――嬉しかったから。 秀馬くんと付き合えて………それが、悠花の代わりでも……」


 ……………このコ達、さっきから何語喋ってんの?


「……と、いう訳で悠花」
「何だよ」

「な、何だよって……。 だ、だからさ」
「おう」

「……お前、怒ってんのか……?」
「怒ってない、警戒してるの」

 そりゃするでしょ。 二人で何お芝居してんの?  私が好き?  私に近づきたくて亜由吏を利用した?


 ―――全然話が違う。


 亜由吏と付き合いたくて私に相談してたんでしょ? で、私の絶妙なパスを受けた秀馬くんは見事ゴールを決めた。 あ、でも、付き合ってって言ったのは亜由吏からだっけ。

「亜由吏には本当に悪いことをしたと思ってる。 散々悠花にお膳立てしてもらって、俺が言い寄った形になってたから……その、断り切れなくて……」

「もういいよ……。 私は、気持ちの整理ついたから……」


 涙を拭い、健気に笑みを作る亜由吏。
 秀馬くんが私に視線を向けてくる。 ドキッとするぐらい真剣な、女を虜にする甘いマスクで。


「俺は、悠花が好きだ。 だから、色々迷惑かけたけど、悠花と付き合いたい」

「な、何でそうなるのっ!?  コレ別室でモニタリングされてるヤツ!?」

「そんなんじゃない、最初から俺は悠花が好きだったんだ」


 ………秀馬くん。 

 そんなに、私のこと………




 ――――って信用出来るかいなッ!!




「てか、私のどこが好きなの?」

「そりゃ、一緒にいて楽しいし……」
「それ友達でいいじゃん」

「なんて言うか、自然体でいられるっていうか……」
「友達じゃん」

「そうじゃないっ! ちゃんと女として見てるし、話してると……ドキドキするんだよ……」


 ―――全然わかんない………何で?


「このさ、神様が直々にお造りになった可愛い可愛い亜由吏ちゃんが好きだって言ってんのに、何で大量生産されたその他大勢の私を選ぶ訳?」

「そんなの、好きになったんだから仕方ないだろ」

「バチ当たるよ?」

「選ぶのは神様じゃない、俺だろ」


 な、なんとバチ当たりな………でも――――カッコいいじゃん。


 そっか、そうだよね。

 人の好みは十人十色、極上スイーツより菓子パンが好きな人もいるかも。


「私は菓子パンか」

「は?」


 おめめパッチリ大きな黒瞳、長い睫毛の亜由吏ちゃんより平均点の私が良いと。

 うーん……信じられないけど、あの亜由吏相手に天秤を傾け、こんなイケメンが彼氏になってくれるんだもん。  



 こんなの………





「――お断りしますッ!!」

「悠花っ!?」


 はい、自分バシッと言ってやりました!

 亜由吏は私が断ると思ってなかったのか、驚いた顔をして見てくる。


「な、なんでだ? やっぱり、こんなだらしない男じゃダメってことか? でも……もう俺は流されたりしない!」

「そうだよっ、私だって応援するよ!?  辛くって、嫉妬した事もあるけど………寧ろ今は、悠花ならって思ってるし……」


 ………違う。  違うんだよお二人さん。


 アンタらわかってない、これだから美男美女はさぁ……!


「あのねぇ、私が秀馬くんと付き合ったら周りはどう思うかわかる?」

「どうって……別に……」
「うん、付き合ったんだって思うだけ、でしょ?」

「……キミ達、マジで言ってる? ―――んな訳ないでしょおがぁっ!」

「「ひぃっ……!」」


 3年〇組金〇先生の如く声を荒らげる私に怯む二人。 ちょっとこの恵まれた容姿達には世間の厳しさ教えなあきまへんわ。


「そんなん亜由吏にフラれた秀馬くんが友達の私と妥協して付き合ったと思うに決まってるやん!?」

「そ、そんなこと……なあ?」
「う、うん」

「いや思うね! 私なら思うもん! キミ達主人公ヒロインみたいな顔して生きてるからそんなコトもわかんないのっ!」

「それは考え過ぎだ」
「そうだよっ」

「じゃあ何? 周りは秀馬くんが私のどこに惹かれて付き合ったと思う訳よ?」

「そりゃ、いつも自分を自虐的に言って笑わせるクセに、たまに褒めると照れるトコとか、可愛いし……」
「秀馬くん、そんなコト思ってたんだ……。 いいな、悠花……」


「……だ、ダメ……」


「「……何が?」」


「―――ダメダメダメダメぇッ!! そぉんな内面的なコトで周りに伝わるかいッ! それどころか亜由吏を応援してるフリして悪いこと吹き込んで彼氏ぶんどった悪役令嬢にすら見えるわっ!」

「じゃ、じゃあどうしたらいいんだよ!」
「そうだよ、悠花は周りを気にし過ぎだって!」


「はぁ?」

「「うっ……」」


「そりゃ私だって亜由吏と張れるぐらい可愛かったら『大事な親友なのに、私どうしたら……』ってなモンよ。 だけど現実は―――『おい、秀馬フラれた繋ぎにしてもアレはなくない?』とか大きめの陰口叩かれるわぁけ! ………大体秀馬くん」

「な、なに?」

「私、目もぱっちりしてないし鼻がスっと通ってる訳でもないよ」

「だ、だから?」

「別段肌がキレイでもないし髪も女として普通? あっ、でも唇ちょっとふんわりしてエロくない?  コレちょっとグッとこない?」

「く………くるよッ!」
「あ良かった、ちょっとは欲しいじゃん」

「……すごい悠花、私じゃ絶対そんなコト言えない……」

 あーたと違って言わなきゃ言われないんですよこっちはさぁ!  折角イケメンが何とち狂ったか好きだって言ってくれてんだからちょっとは欲しいじゃん!?

「おっぱいないよ?」
「ああ」
「お尻結構大っきいよ?」
「ああ、ああっ!」

「それでも………いいの?」


「そ……それッ……!」


 ―――ん?  どれよ?


「その偶にくるデレにやられんだよッ!  」
「こ、これなの!?  私も出来るかなぁ……」

 ちょ、ちょっと恥ずッ………や、やめてよねっ!

「亜由吏はなぁ……普段からほら、可愛くしてるから……」
「なっ! ひ、ひどいよ秀馬くん……!」

「ほら、ソレ」
「もぅどーしたらいいのっ!」

 ……いや、キミ達寧ろ息合ってきたんじゃない? 今なら上手くいくかもよ?

「悠花は、俺のこと何とも思わないのかよ……」

「わ、私は………――――ってもう!  はい、時間?  三十分延長で!  秀馬くんのせいだから秀馬くんの奢りねっ!」

「わかったよ!」
「えっ、今のも?  今のもデレ?」
「違うよ亜由吏、このツンがデレを活かすんだよ」
「そっか、そうなんだ」

「そこ!! 説明は死ぬほど恥ずいからやめてッ!!」

 な、なんなのよ……!  こっちは別に計算してやってるんじゃないんだからねっ!


「………まあ、秀馬くんがそこまで言うなら、方法が無いことも無いけど……」

「ほ、ホントか!?  俺はどうすればいいんだ!?」
「私も協力するよ! 何でも言って!」


 ―――言ったな?  キミ達、言ったよね?


「じゃあ、まず秀馬くん」
「おう」

「秀馬くんは明日から学校でバカみたいに私を好き好きアピールして」

「な、なんで!?」
「じゃ終わり」
「わかったよ! す、するから!」

「次亜由吏」
「うんっ」

「亜由吏は秀馬くんに復縁を迫って、それも痛い女レベルで」
「や、やだよ!」
「はい終わりー」
「わ、わかったよぉ!」

 
 ふむ、ちゃんと言った通りにしてよ?  後で細かく指示するから。


「それの、何が方法なんだ?」

「これで――――秀馬くんは妥協じゃなくて私を好きなんだと思わせる、で亜由吏はフったんじゃなくてフラれた、私は言い寄る秀馬くんを嫌がるから――」
「えっ? 俺嫌がられんの?」
「いいから聞く!「はい」嫌がる私は悪どく亜由吏から奪ったんじゃなくて勝手に秀馬くんが好きになった事になる。 そして……周りが段々とこの構図に慣れた頃――――いい加減折れた私は秀馬くんと付き合う……て方法」


 美男美女くん達、わかったかな?


「それ、いつまでやるんだ?」

「時期は私が見極めます。 だからそれまで亜由吏は誰とも付き合えないよね」

「そんなことしてたら……そうだよ……」
「何でも協力するって言ったよね?」

「うっ……うん……」

「亜由吏、俺の為にごめん」
「ううん、いいよ。 秀馬くんの為だもん」


 何かキミ達………まだ付き合ってない?


「さ、やるの? やらないの?」


「や、やるさ!」
「私も!」


 そっか。  じゃ……やるとしますか!





 ◇◆◇





 それから、悠花の作戦は毎日のように繰り広げられた―――



「なぁ悠花、帰り一緒に帰ろうな?」
「な、なんで私が……! 亜由吏と帰りなよっ!」

「ひどいよ秀馬くん、考え直して! 私の何がいけないの!?」


 これを毎日のように見せられたクラスメイト達は―――



「しかし、なんで秀馬は早乙女なんだ?」
「ま、好みは人それぞれだからなぁ。 逆にあいつがこの調子なら新光寺さん狙えんじゃね?」


「小堺くん、なんで悠花なんだろ?」
「最初は悠花が秀馬くんを奪ったと思ったけど、悠花は嫌がってるし。 寧ろ亜由吏に協力しようとしてるもんね」



 ………ふっふっふ。  


 どうやら作戦は上手くいってるようね。  もう少し、そろそろの筈………。


「亜由吏、いつもごめんな……」

「いいの、これも秀馬くんの為だもん」


「亜由吏……」
「秀馬くん……」


 ん~~?  なんかキミ達、通じ合ってるね。



 作戦………




 ――――間違えたかな?



 
「こ、小堺っ!」
「えっ?」


 ―――なーんてねっ!


「早乙女は嫌がってるんだから、や……やめろよ……」

「あ、ああ」


 もう、やっとぉ?

 ホント奥手なんだから………







 ――――松嶋くん♡







 秀馬くん、キミは亜由吏とお似合いだよ。  今回でわかったでしょ?  亜由吏はとっても可愛いくて良い子なんだから。


 お陰で私も肩に手が生えてる奥手の松嶋くんを引っ張り出せました。 


 ――――という訳で!


 私も幸せ、二人も幸せ。


 作戦は………




 ――――大成功、だねっ!!



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