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しおりを挟む明日、わたしはゴッゴーシュに戻る。 街の皆さんに会えるのは嬉しいのですが、何日かでもクリード様と離れるのは寂しいです。
今こうして、夜の巡回から戻るのを待つのさえ辛いのですから。
「――あっ」
ドアの開く音で身体を起こし、ベッドから出て玄関へ向かう。 昨日は開けたら熊でしたが、今日はガリガリしてないのできっと大丈夫です。
ほら……
「――ん? 起きてたんだね、ただいまヴィオラ」
「はい、おかえりなさい」
もう寝たフリをしなくていいですし、少しの間離れしまうのですから先に眠るのなんて勿体ないですっ。
「巡回はどうでしたか?」
「狼が多くなったかな。 昼間は大丈夫だろうが夜は危険だ、少し狩るか」
「そうですか」
熊だけじゃないのですね。 狼はすばしっこそうですし、群れているかもしれません。
「気をつけてくださいね」
「ああ、ヴィオラも夜は外に出るなよ」
「はい。 あっ、そういえば、次の入団試験はいつなのですか? ――わっ」
お話の途中で突然の抱擁……。 そして、そのままクリード様は話し続けました。
「半年に一度だから、あと4ヶ月半くらいかな?」
……い、息が荒くなって……ク、クラクラします……
「そう……ですか……」
だって、昨晩までわたし……抱きしめられた事もなかったから……
「それまで、みっちり鍛えないとね」
み、耳元で囁かれると……頭がぼうっとして……
「は……ぃ……」
本当はわたしも、クリード様に応えて抱き返したいのですが……身体に力が入らなくて腕はだらりとしています。
「っ……」
腕はわたしの腰に回したまま、キレイなお顔が目の前に……
「ヴィオラ、ちゃんと言ってなかったね」
ああ、そうでした……キレイなんて言ったら……嫌なのですよね……
「君が好きだよ」
……こんな事を思ったら、きっとクリード様は嫌がるでしょう……。
でも、あなたを想うようになって見るあなたは――――目眩がする程美しい。
「わたしも……――――」
華奢で見栄っ張りな見習い騎士様は、返事も待てないくらい肉食の獣………なのかもしれません。
「……これ以上は、私が危険な狼になりそうだよ。 次の入団試験の後、君の全てをもらうつもりだから」
「……はい」
二度目の口づけは長く濃密で、骨抜きにされたわたしはベッドに寝かしつけられました。
身体の芯が熱くて、心が満たされて……
ヴィオラはもう、夢心地です……。
◆◇◆
「なんで……なんだ……?」
この絵は、僕の描いた絵だ。
なのになんで……
――――わからない、この先をどう描いたらいいのか。
カイロ公爵もジーナお嬢様も絶賛だった。 これを完成させて二人の信頼を勝ち取り、世間に僕の名前を轟かせるんだ。
でも……
「ダメだ……」
もう、どうやって描いたのかさえわからない。
わかるのは、下手に手を加えたらこの絵がダメになるってこと。
「……おかしいだろ、開花した才能がこの歳でしぼむ訳ないだろ!? もっと、もっと大きく花開くもんじゃないのかッ!?」
……描かなきゃ……描かなきゃ僕は終わりだ……。
ジーナを物にして、いつかこの屋敷の主になるんだ。
「……そうさ、一時的なスランプだ。 芸術家にはよくある事……」
じゃなきゃ、わざわざ悠々自適な暮らしを捨てた意味がない……ッ!!
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