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「なんで……なんで “アレ” だけ手に入らないのよッ……!」


 クリード様と別れた私は、自宅ではなく男手を使う為に兄の居る会社へ向かった。 フィンは自宅で馬番をしてるだろうけど、まずは役立たずのごろつきを処理しないといけないから。


「あっ、ちょっとあんた達」


 丁度いいのが居たわね。


「おい、フィンの奴ここ辞めたらしいぜ」

「本当か? いやまあ、まともに仕事もさせてもらえねぇんじゃ辞めて当たり前か、よく続けたもんだぜ」


 ―――フィンが辞めた?


 ……アイツ、それで最後にクリード様に暴露して私から逃げたのね。


「ソフィアお嬢さんの奴隷じゃなあ」

「ああ、俺たちゃ使用人じゃねぇんだ。 大体アルゴス坊ちゃんがお嬢さんを甘やかしすぎんだよ」

「おい、坊ちゃんじゃなくて副社長って言わねぇと怒られるぞ」

「……それもよ、あの適当な仕事の取り方じゃこっちの身体が持たねぇぜ」

「そうだよな……」

「大体俺は親方に付いていってんだ、悪ぃがアルゴスさんには……」


「――あんた達ッ!!」


「「――っ!? お、お嬢さん……」」


「無駄話してるならちょっと頼みたいんだけど」

「「へ、へいっ」」


 まったく、グチグチ言ってないでアンタらは言う通り働いてればいいのよ。


「頼んだわよ」

「「へいっ」」


 二人に指示を出しクリード様の所へ向かわせた後、私は兄の居る部屋へと走った。


「――兄さんッ!」

「っ……な、なんだソフィア、ドアはもうちょっと静かに開けてくれ」

「フィンが辞めたって本当なの?」

「ああ、別に構わんだろ。 そもそも馬番なんて家の使用人達がやるんだから。 あいつはただ、お前が好きに使える若い衆が欲しいと言うから……」

「――それでアイツはどこに行ったの!?」

「……知らないよ、何かあったのか?」


「………別に」


 結局なに? クリード様には絶縁され、フィンの奴には逃げられたって事?


 何もかも腹が立つ、何でこう思い通りにいかないの? 子供の頃から何でも思い通りだったのに……。 

 使用人達は何でも言うことを聞くし、兄さんもお願いしたら断られた事なんか無い。 なのにクリード様だけは、私が欲しいと言っても誰もくれない、それどころか邪魔ばかりするッ!


「何なのよ……!」


 家の仕事を手伝わせてあげて、本人は知らないだろうけどお給料だって他の奴らより多く出して、村の娘達にも手を出されないように警戒してきた。 

 そしてやっと、そろそろ騎士を諦めて私のものになるって時に――――あの女、ヴィオラが現れた……ッ!


「冗談じゃないッ!」

「そ、ソフィア?」


 ………そうだ。 まずはあの女の事を調べよう。


 ヴィオラが戻って来たら、誰か村の娘を使って情報を聞き出すのよ。 こっちはこのままお幸せになんて見守る気はさらさら無いんだからね。


 そうよ。 一度は死のうとしたならもう一度、



 ――――あの女を死にたくさせればいいのよ。


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