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「荷物はそれだけか?」

「はいっ」


 お迎えに来てくださったクリード様はいつもの馬ではなく、行商の方の荷台に乗っていらしたようです。 その荷馬車にわたしも乗せて頂き、これから新しい生活の拠点、と言っても、もう何日か過ごしたレミンゴの町……の、外れの森にあるクリード様の小屋へと向かいます。


「すみません、お世話になります」

「いやいや、あんたのおかげで魚屋さんに大分オマケしてもらったからね、むしろこっちは大儲けだよっ」


 行商の方にご挨拶すると、どうやらおば様がまたお力添えをしてくれたようです。 時々ここに戻ると約束しましたし、今度はわたしも何かお土産を持って来ようと思います。


「さっ、それじゃあ行きますよっ」


 荷台にクリード様と乗り、馬車がゆっくりと動き出しました。 

 また新しい暮らしが始まる。 これは性格的なものなのでしょうか、あんなに辛い事があったというのに、わたしには期待ばかりで不安がありません。 我ながら懲りない女です……。


「ヴィオラ、戻ったら私は狩りに力を入れて、ソフィアの所の仕事は辞めようと思う」

「そうですか、わかりました」

「それから、今まで恥をかくだろうと行かなかったけど、レミンゴの衛兵達の訓練に時々参加させてもらおうと思う。 なりふり構わずやってやるさ、次の入団試験に向けてね」

「……はいっ」


 やる気十分、クリード様が頼もしい言葉を聞かせてくれると、いよいよ不安なんて微塵も感じません。 それに気のせいかもしれませんが、少しお身体がたくましくなったような……。

 ――あっ、そうでした。


「クリード様、わたしも戻ったらお仕事を探そうと思います」

「えっ……いや、でもあそこは家賃もかからないし、私の稼ぎだけで十分やっていけるよ。 ヴィオラは家の事を……」


「――やりたいのですっ」


「うっ……で、でも……」

「家事だけでは持て余してしまいますし、わたしもクリード様同様、日々成長したいのですっ」

「……かっ、考えておく!」

「はい、わかりました」


 クリード様はそっぽを向いて眉を寄せています。 それも可愛らしいのですが、どうしてでしょう? どうやらわたしをあまり外に出したくないようです。


「荷馬車ではレミンゴに着くのは明日の昼前ぐらいだろう。 会えなかった数日の話でも聞かせてくれ」

「はい、それでは―――」


 荷台で揺られながら、ゴッゴーシュの優しい皆さんのお話をしました。 クリード様からは少し寂しいお話も。 

 フィン様が小屋の修理をしてくださったらしいのですが、その後もっと大きな街で修行したいとレミンゴを出てしまったそうなのです。

 ちゃんとお礼を言いたかった……。

 でも、きっとまた会えますよね。 お互いに成長して、いつかフィン様にお家を建ててとお願い出来るくらい頑張りますっ。 

 あっ……それは旦那様が決めることですね。


「――って……だ、旦那様なんて、気が早いです……」

「ん? どうしたヴィオラ」

「なっ、なんでもありません……!」


 荷馬車はゆっくり、赤い顔のわたしと、不思議そうな顔をしたクリード様を運んでいきます。 潮風はやがて感じなくなり、ゴッゴーシュの街が遠ざかっていく。



 ―――そして翌日、予定通りお昼前に小屋が見えてきました。



「荷物を置いて、少し休んだら昼食にしようか」

「はい、たくさん食べてくださいね」

「……ヴィオラ、あまり張り切り過ぎないでくれよ」


「――あれ? クリード様、小屋の前に誰か……」


 小柄な……女の子?

 あれは確か……


「ああ、この前町でパンをくださった女の子です」


 彼女はまたパンを入れたバスケットを持って、どこかおどおどした様子でこちらを見ています。 ……と言っても、前髪が長くてお顔がよく見えませんが。


「ク、クリード様……ふふ、ふ……」


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