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しおりを挟む「リンドベルン王国最強のロムニカル家を学ぼうと来たが、これでは拍子抜けだ! 屈強な私兵の一人も目に映らんではないか!」
どこかの貴族風な男とその従者が三人、町の真ん中で高笑いをしている。
「ヘンリーさん、何あれ?」
「ああ、ダリンサッジ家の次男坊ですよ」
ダリンサッジ家、どこかで聞いたような……。
「偶に来るんですが、気にする事はないですよ。 しばらく吠えたら帰りますから」
「ふぅん」
「いつもロムニカル家に頭を押さえられて二番手ですからね、でも本家には敵わないからここに来るんですよ」
そういう事か。 別に暴れたりしないなら構わないけど、早く帰ってね。
「――ん? まさか、噂は本当だったのか」
嫌な予感がした。
それは、ダリンサッジ家の次男がこっちに目を向けたから。 それはボクにじゃなく、珍しい水色の髪に。
ああ、来るな、来るなって……!
「これはこれは、ローズバインド大公侯爵家のリナーリ様ではありませんか」
人違いです、ボクはそう言って欲しかった。
「はい、初めまして」
「お見かけしたことは何度か、サーヴォ・ダリンサッジと申します」
そのやり取りを聞いて、ヘンリーさんはボクの耳元で興奮する。
「リベルノ様、奥様は大公侯爵家のご令嬢なんですか……!」
「ええ、まあ」
もう予感は確信に変わりつつあった。
これからきっと、嫌な思いをする。
「すると、こちらがロムニカル家の次男、リベルノ様ですか」
ほらね。 ……何で町なんか来たのか、カリナンのバカ。
「これは良い機会だ! 同じ国を愛し戦う者として、是非ロムニカル家の剣を学びたいと思っていた所!」
カリナンのバカ。
「あ、あのですね、そういうのは本家に……」
「それも同じ次男だ! 敵わないまでも最強の剣を体験してみたい! おい!」
「はっ」
従者から無理矢理剣を渡された。
人の話を聞かないタイプが多いよね、こういう武人系って。
「こ、こんな町の真ん中で、やれませんよ……」
「何を言う、領主の逞しさを見せれば領民も安堵すると言うものでしょう?」
今その領民はハラハラしてるだろうな。 この人の言う事も一理あるかもしれないけど、女子供の居る前でやる事じゃない。
「いや、やめておきます」
「……そうですか、それは残念だ。 だがそれでリナーリ様をお守り出来るのですか? 不貞で婚約破棄されたとはいえ、元第一王子の婚約者ですぞ?」
「――なっ……リナーリ様は不貞なんて働いてないッ!!」
そう言って吠えたのは、後ろに居たノアだった。
「なんだこの無礼なメイドは。 ふんっ、どうせ大勢メイドを抱えるローズバインド家の落ちこぼれだろう」
……まあ、どうせ少し吠えたら帰るんでしょ。 別にいいよ、今日は帽子を買いに来たんだから、喧嘩しても良い事無いし。
「本家が怖くてここで吠えてるんだろ?」
「――なっ、なんだと!?」
……あれ? 今の、誰が言ったの?
「ボクはロムニカル家の剣を学ばせてあげられないけどね、強者を僻んで弱きを貶める程落ちぶれてないよ」
まったく、何をやってるのか。
気づけば抜いちゃってたよ、――――苦手の剣を。
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