1 / 56
第1羽
しおりを挟む誰もいない放課後の教室、もう窓も全部閉めてあって、風も入って来ない。
でも、それで………ううん。
それがいい。
風なんて入って来なくていい、誰も……入って来ないで。 邪魔されたくないの、今だけは。
だって今、私は、
―――『天使』を抱きしめているから………。
「………罪悪感なんて、感じる必要ないよ」
ずっと抱いていた私の劣等感を、消してくれた。
「私が、したくてしてるから……」
柔らかい、さらさらとした髪。 ずっと触れていたい。
「代わりでもいい。 “空くん” を………抱きしめたいの」
私の胸元に、小さな、愛おしい顔が埋まっている。
私は背が高いのが嫌だったけれど、そのお陰で、今こうしていられる。
すごく、幸せな気持ちだよ。
今日、初めて自分が大きくて良かったって思った。
ありがとう。
私より、20センチ小さい、クラスメイトの空くん。
◆
桜が “ようこそ” と言っているようにすら感じる、新しい学校生活に期待を膨らませる新入生達。
もちろん、同時に不安も抱えている。 それでもやっぱり、新たな門出は期待の方が強い筈だよねっ!…………普通。
私も今日からこの『翔英高校』に入学するのだけれど、私の場合、残念ながら強いのは “不安” の方で………。
同じ中学から来ている生徒も何人かいる、でもそこまで仲が良い友達はいないし、何より不安なのは、“目立つ” 事。
これは格好つけてる訳じゃなくって、昔から私は、 “目立ちたくなくても目立つ” 、から。
実はこの私、水崎真尋は、入学したての高一女子高生にして、身長175センチ。 これが、昔からのコンプレックスなのです……。
お願い神様、どうか席は後ろの方にして下さい! 一番前なんて地獄です。 後ろの女の子からボソッと黒板見えないって言われたら私、泣いちゃうかも……。
私は無事入学式を終えて、自分のクラスになった1-Cに向かった。 その途中にも、珍しい物を見るような視線を感じる、ていうか確定。 だって、珍しいもん……。
「でかっ……」
「アレ、1年だよな」
「あの背で腰上まで髪伸ばすのって何年かかるのかな?」
ううぅ……だから新生活は嫌い……!
一年です、胸のリボンの色見ればわかるでしょ。 髪は何年物かなんて覚えてません、ちゃんと美容院行ってます……! 心が折れそう、私、やっていけるかな……。
聞きたくない声から逃げるように、私は足早に教室に向かった。
教室に入り、黒板に掲示されている座席表を祈るように見ると………か、神様………大好きっ!
―――私、一番後ろだぁ~~♪
ホント良かった、これからクラスメイトに “でかっ” ってリアクションされても、この席が与えられた幸運をバネに頑張るっ!
あんまりニヤけてると変に思われちゃうね、平静を装いましょう。
そして着席、内心はウキウキしながら、普通に座りました。 お父さん、お母さん。 真尋、なんとかやっていけそうです! 席替えないといいなぁ……ない訳ないか。
そんな事を考えていると、私の隣の席に一人の男子が腰を下ろした。
この人が高校生活最初のお隣さんか。 お願い、デリカシーたっぷり男子でありますようにぃぃ!
とにかくどんな男子か見てみないとね、自然に、チラッとね。
「………―――は?」
ま、まずい、声出ちゃったよ……!
でも、これは……仕方ないってぇ。 だって、だって、この男子すごく…………… “小っちゃい” の。
………せっかく一番後ろの席になれたのに、これじゃ皆になに言われるか………。
そりゃさ、この男子も私と一緒で、好きで小さい訳じゃないのはわかってる。 私も好きで大きい訳じゃないから。 「おい、後ろの二人身長逆じゃね?」とか言われたらさ、傷つくのは私だけじゃない、彼もだもん。
諦めよう、一緒に乗り越えようね、君。
「…………」
な、なにこの男子、よく見たら………
―――― “超” 可愛い…………。
ちょ、ちょっと幻想的なぐらいキレイな顔してるんですけど!?
さらっさらの黒髪、大きな瞳、なんか、赤ちゃんみたいにキレイで、柔らかそうなお肌………。
これ……人間? ううん、違うわ。
――――きっと “天使” だ………。
ダメ、目が離せない……整いすぎてるの、全てが。
その瞳に、吸い寄せられる………。
目を、逸らさなきゃ。 気付かれたら変に思われるもん、それでなくてもこんな大っきい女に……。
―――こ、こっち見たっ!!
お願い私! 前向いて俯くのっ! 見てたのなんてバレてるけど、ずっと見てたら変人だと思われちゃう……っ!
あっ―――笑った………。
現実に、あるんだ………『天使の微笑み』って………生きてる内に見れる………とは………。
もう、ダメ………溶ける………。
「初めまして、僕は灰垣空」
“僕” ……きっとこの男の子、世界で一番 “僕” が似合う……。 声までキレイ。
「隣になったのも何かの縁だし、よろしくね」
ま、また笑った。 可愛い……可愛くないところが無い。
「……ええと、どうしたの?」
―――はっ!! ばかばか、私もご挨拶しなきゃ!
「す、すいません、私は水崎真尋……です。 よろしく、お願いします……」
「クラスメイトなのに敬語はやめてよ。 友達は皆 “空” って呼ぶから、そう呼んでね」
………とも……だち………?
今の言い方だと、私………も?
名前呼びの……… “許可証” まで………。
「あ、ごめん、自己紹介したばかりの女の子に図々しいよね。 こちらこそよろしく、水崎さん」
「ま、真尋……」
「え?」
「真尋って、呼んでください……いいえ、なんて呼んでもいい……です」
「 “なんて” って……言われても」
ああっ! 変な事言った?! うん言った、完全に!
せっかくお友達に、それもいきなり名前呼びのお友達にご招待頂いたのに……―――引かれた、絶対……。
終わった……。 あは……あはは………。
許されるなら、クラス全員に嫌われてもいい、貴方だけには……嫌われたくなかった……。
「じゃあ、真尋ちゃんねっ」
マヒロチャンテ……ダレ?
私は水崎真尋だから違うよね、そうだよ、だってもう嫌われたんだもん。 天使に嫌われたら地獄しかない。 うん、ん? まひ………
―――真尋は私だっ!
「は、はいっ。 ありがとうございます……!」
許してくれるの? なんて寛大な……。
そ、そうか、天使は “裁く“ んじゃなくて、“救う” のがお仕事ですねっ?
「じゃあ、僕も呼んでみて。 あ、そうだ。 ちゃんとタメ口でお願いします」
そそ、それは調子に乗りすぎだって……!
だって今、今許されたばかりのこの申し子が、た、タメ口なんて地獄に堕ちるっ!
……でも、彼がそう “お願い” してるのに、応えないのは失礼だよね?
ちゃんと、ちゃんとしろ真尋っ!
地獄なんて怖くない、彼の “お願い” に応えられるなら、堕ちたって………!
「う、うん。 そ、そ、そ、………空……くん」
「そう、忘れないでね」
その笑顔―――堕ちちゃう………。
忘れない……… “一生” ………。
◆
新しい学校生活には、期待と不安が入り混じる。 でも私は、不安が8、期待が2、ぐらいの割合だった。
でも、入学初日にして、もう私は大丈夫。
不安とか期待の問題じゃない。 そう、もう “天に召され” ました。 生きながらにして。
だって隣には、私を大きいなんて一言も言わない、ううん、言われてもいい。 きっと彼のそれは悪意が無いから。
何故なら、
彼は、 “空” に浮かぶ “天使” だから……。
あ……もう、羽まで見えてきた………。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラスメイトの王子様系女子をナンパから助けたら。
桜庭かなめ
恋愛
高校2年生の白石洋平のクラスには、藤原千弦という女子生徒がいる。千弦は美人でスタイルが良く、凛々しく落ち着いた雰囲気もあるため「王子様」と言われて人気が高い。千弦とは教室で挨拶したり、バイト先で接客したりする程度の関わりだった。
とある日の放課後。バイトから帰る洋平は、駅前で男2人にナンパされている千弦を見つける。普段は落ち着いている千弦が脚を震わせていることに気付き、洋平は千弦をナンパから助けた。そのときに洋平に見せた笑顔は普段みんなに見せる美しいものではなく、とても可愛らしいものだった。
ナンパから助けたことをきっかけに、洋平は千弦との関わりが増えていく。
お礼にと放課後にアイスを食べたり、昼休みに一緒にお昼ご飯を食べたり、お互いの家に遊びに行ったり。クラスメイトの王子様系女子との温かくて甘い青春ラブコメディ!
※特別編4が完結しました!(2026.2.22)
※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。
※お気に入り登録、いいね、感想などお待ちしております。
迷子を助けたら生徒会長の婚約者兼女の子のパパになったけど別れたはずの彼女もなぜか近づいてくる
九戸政景
恋愛
新年に初詣に来た父川冬矢は、迷子になっていた頼母木茉莉を助け、従姉妹の田母神真夏と知り合う。その後、真夏と再会した冬矢は真夏の婚約者兼茉莉の父親になってほしいと頼まれる。
※こちらは、カクヨムやエブリスタでも公開している作品です。
サンスクミ〜学園のアイドルと偶然同じバイト先になったら俺を3度も振った美少女までついてきた〜
野谷 海
恋愛
「俺、やっぱり君が好きだ! 付き合って欲しい!」
「ごめんね青嶋くん……やっぱり青嶋くんとは付き合えない……」
この3度目の告白にも敗れ、青嶋将は大好きな小浦舞への想いを胸の内へとしまい込んで前に進む。
半年ほど経ち、彼らは何の因果か同じクラスになっていた。
別のクラスでも仲の良かった去年とは違い、距離が近くなったにも関わらず2人が会話をする事はない。
そんな折、将がアルバイトする焼鳥屋に入ってきた新人が同じ学校の同級生で、さらには舞の親友だった。
学校とアルバイト先を巻き込んでもつれる彼らの奇妙な三角関係ははたしてーー
⭐︎第3部より毎週月・木・土曜日の朝7時に最新話を投稿します。
⭐︎もしも気に入って頂けたら、ぜひブックマークやいいね、コメントなど頂けるととても励みになります。
※表紙絵、挿絵はAI作成です。
※この作品はフィクションであり、作中に登場する人物、団体等は全て架空です。
うっかり結婚を承諾したら……。
翠月 瑠々奈
恋愛
「結婚しようよ」
なんて軽い言葉で誘われて、承諾することに。
相手は女避けにちょうどいいみたいだし、私は煩わしいことからの解放される。
白い結婚になるなら、思う存分魔導の勉強ができると喜んだものの……。
実際は思った感じではなくて──?
貧乏貴族の俺が貴族学園随一の麗しき公爵令嬢と偽装婚約したら、なぜか溺愛してくるようになった。
ななよ廻る
恋愛
貴族のみに門戸を開かれた王国きっての学園は、貧乏貴族の俺にとって居心地のいい場所ではなかった。
令息令嬢の社交場。
顔と身分のいい結婚相手を見つけるための場所というのが暗黙の了解とされており、勉強をしに来た俺は肩身が狭い。
それでも通い続けているのは、端的に言えば金のためだ。
王国一の学園卒業という箔を付けて、よりよい仕事に就く。
家族を支えるため、強いては妹に望まない結婚をさせないため、俺には嫌でも学園に通う理由があった。
ただ、どれだけ強い決意があっても、時には1人になりたくなる。
静かな場所を求めて広大な学園の敷地を歩いていたら、薔薇の庭園に辿り着く。
そこで銀髪碧眼の美しい令嬢と出会い、予想もしなかった提案をされる。
「それなら、私と“偽装婚約”をしないかい?」
互いの利益のため偽装婚約を受け入れたが、彼女が学園唯一の公爵令嬢であるユーリアナ・アルローズと知ったのは後になってからだ。
しかも、ユーリアナは偽装婚約という関係を思いの外楽しみ始めて――
「ふふ、君は私の旦那様なのだから、もっと甘えてもいいんだよ?」
偽装婚約、だよな……?
※この作品は『カクヨム』『小説家になろう』『アルファポリス』に掲載しております※
※ななよ廻る文庫(個人電子書籍出版)にて第1巻発売中!※
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件
こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる