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第25羽

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 ある日の休み時間、他愛も無い男子達の雑談が聴こえた。


「なぁ、クラスで一番可愛いの誰だと思う?」

 入学して間もないこの時期、きっとどこのクラスでも男女問わずこんな話題が出てるんだろうね。
 くだらない。 どうせ私がいる以上、このクラスの一番は決まってるけど。

「加藤じゃねーの?」
「まぁそーだな」

 まるで自分はそこまで気にならないような言い方、どうせ私が気になってるクセに。 でもね、キミ達じゃ遊び相手にもならなそうだから……… “失格” 。 遠くから見てるだけにしてねっ。

「でもそれは女ならって意味だろ?」

「は?」


 ―――女? なに言ってんの?


で一番なら、灰垣じゃね? 可愛いの」
「はははっ、ウケる」
「確かになー」


 …………あ、そう。

 面白いこと言うね、キミ達。




 ◆



 あんな冗談みたいな会話正直どうでも良かったけど、なんか木村ウザい奴が寄ってくるだけで暇してたし。

 それから気まぐれにちょっかい出してみたら、灰垣くんを恋する瞳で見つめる女子が次々と現れて、私はどんどん楽しくなっちゃった。

 ついね、を見つけるとさぁ……欲しくなっちゃうんだ。

 手に入れたら私には不要になる、



 ――――誰かの “大切なもの” って。



「今日は妹さんに譲るからいいよ、また誘うね」
「ごめん、ありがとう」

「あたしは別にいいんだよ? あんたが “第ニ回謝罪会見” したいならさ」


 第ニ回、ね。 第一回のは細目の常盤くんでしたー。


「海弥、ニ回目はないよ」

「うっ―――な、生意気な顔すんなっ、甘ったれのクセに……」

「変えの靴も着替えも持ってきたからね、今日こそはいい所見せるよ」

「べ、別に見たくなんか……!」

「みくるちゃんにだよ? 僕、運動音痴だと思われてるからなぁ」

「お……お前なんかコケてしまえっ!」


「??」


 あーあ……恥ずかしい。 逃げちゃったよ、可愛い女の子が。


「休み時間も終わるし、私達も戻ろう」

「うん、そうだね」


 まぁ、そんなに焦らなくてもね。 私と校内を歩いてるだけでインパクトあるし? 勝手に噂は広まっちゃうんだよねー、自分に話題がない人達のお陰で。 
 また周りが言い出すとね、本人も意識し出すものなのよ。 もう時間の問題かな? 


 “クラス一可愛い” 、灰垣くんも。




 ◆



 前の休み時間、空くんは教室を出て行った。 きっとお手洗いにでも行ったんだと思うけれど、問題はじゃない。 なのっ!

 なんで加藤さんと二人で戻って来たの? 偶々廊下で会った? そんなの加藤さんが待ち伏せしてたに違いないもん。
 空くんが悪い訳じゃないけど、もう本当に嫌です。 私達はもう “デート” した仲だっていうのに。(お礼) そうよ、いーい加藤さん、私なんか空くんのほっぺに付いた生クリーム食べた程ラブラブなんだからねっ!(内緒で)告白だってしたんだから、 “空が大好き” って!(天気の良い空)

 私達はもう、ただの友達じゃない……(筈) だから、その……あんまり他の女の子と一緒に居ないで欲しいです、お願いだから。


「うーん、加藤さんはあれかね、灰垣くんのこと本気なのかね?」

「なっ?!」

 か、可奈さん? あなたなんてこと言うのっ?!

「そうね。 でもちょっと、加藤さんの黒い噂を耳にしたのよね」
「黒い噂?」

 な、なにそれ? 解説お願いします良子さん。

「彼女の中学時代の異名はね……」

 異名……なんてあるんですか? 『なんとか中の狂犬』とか? 『麗しのトリカブト』とか?



「『恋泥棒』……らしいわよ」



「「こ、恋泥棒?」」


 なに………それ?


「どうやらね、誰かが好きになった男子を大して好きでもないのに自分のものにして、手に入れたらボロ雑巾のように捨てる……それが異名の由縁らしいわ」

 そ、そんなのって……



 ――――あ、悪魔ですか………。



「こっわ~」

「まぁあくまで噂で、本当の所はわからないけどね」


 でも、加藤さんならありえる。 私には理解出来ないけど………一体何が楽しいの? 誰かが好きでも、自分が好きじゃなかったら関係ない………


 ―――誰かが、好き?


 待って、じゃあなに? 誰も好きじゃなければ手は出してこないってことだよね? つまり加藤さんは、空くんをだと感じて動き出した。

 それは…………



 ――――ワタシ?



 いやいや、そんなまさか! だって良子も可奈もそんなこと思ってないし、私だって学校じゃそこまであからさまな態度取ってないよね? 多分………


 ―――保健室の件かな? ていうか本当は皆にバレバレなのかも?

 うん、これは………



 ――――だ。



 そうだよね、別府さんが空くんと仲良く?なる前から加藤さんはちょっかい出してきてたし。 

 なんてこと……じゃあこの私が加藤さんを引き寄せたと?!



 ………おのれ、加藤さん………こうなったらこっちにも考えがあるわよ。 そう、


 ―――なんとか木村くんキムで手を打ってもらえませんか? 


 お願いします、それなら協力しますので。

 ほら、 “木村” なんてイケメンな名字だし、喋り方だって喋らさなきゃいいし、性格だって人間変わっていける筈だよね? それに……



「そういえば真尋、そのヘアピン可愛いね」


「――えっ?」


「そうそう、珍しく可愛らしいの付けてると思ったのよ」

「そ、そうかな……」


 ふふ、うふふふ。
 気付いてくれましたか、ありがとうマイフレンド。 “珍しく” は余計だよ可奈さん。

 私の横髪を留めているこのヘアピン。 ワンポイントの可愛らしいお花があしらわれたこれは、なんとこの前のデートで空くんから頂いた物なのですっ!

 最早 “家宝” 。 代々受け継いでいこうかとっ! 子孫にもあげる気ないけど!

 偶々寄ったお店で空くんが見つけて、「私はこういう可愛らしいの似合わないなぁ」なんて言ってたら買ってくれました。 
 申し訳ないからいいって言ったんだけど、空くんがきっと似合うよって……それで、ちょっと付けてみたら……



 ―――か、「可愛い」って言ってくれて……。



 もう朝鏡で付ける時ニヤニヤしちゃうのっ!いい加減 “鏡が目を逸らす” ぐらいうっとりしちゃって、早く会いたいなぁ………って思う。


 そんなささやかな私の幸せを、自分勝手な『女怪盗』なんかに奪われてたまるかっ! 


 もし噂が本当なら断固としてキムを押し付けてやるんだから。


 これ、結構本気だからね。


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