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第37羽
しおりを挟む調理開始直後から一悶着ありましたが、やってみると意外や意外、私と加藤さんはお互いの作業が円滑に進むように譲り合って、問題なく調理工程が進んでいった。
……加藤さん、中々手際がいい。 普段からお料理するのかな? それとも、私と一緒で猛練習してきた口ですか?
その間、空くんと常盤くんはキッチンの前のテーブルに座って何気ない雑談をしている。 と思ったら、気になる会話が……
「そういえばさ、海弥さんの妹さんってどんな子なの?」
「みくるちゃんはね、明るくて可愛くて、活発ないい子だよ」
みくる氏。 “放課後空くん争奪戦” では強豪の一人だ。 その約束は “絶対” 。 更に親友である勇くんまで参加する事も多い。
「なんか、お姉ちゃんとイメージ違うね」
――確かに……。 私も会ったことはないけど、聞く限りでは別府さんの性格と似ていない。 写メは見たけど、見た目もあんまり似てないんだよね。
「そう? 結構似てる所もあるよ」
「例えば?」
………例えば?
つい頭の中で常盤くんと同じ質問を浮かべた。 こら真尋、お料理に集中しなさい。
「そうだね。 強がりなのに実は我慢しちゃう所があって、あとは、大事にしたいと思うくらい優しい所……かな」
「……そう。 なんか、いよいよイメージと噛み合わないような……――わっ!」
「ご、ごめんなさい」
思わず食材をシンクに落としちゃった……。
「大丈夫? 真尋ちゃん」
「うん、平気。 ゴメンね」
お、落ち着け真尋。 どうせ空くんはなんで私が動揺したのかわかってないんだから。
加藤さんが “初心者” と言うのもわかる。 あんな愛しそうな声で他の女の子の話します? 私も初心者ですけどね、出来ればそういうのは私の居ない所で………それも嫌だな。
ふと隣を見ると……さすが加藤さん。 特に動揺する様子もなく淡々と作業を―――あれ?
「……加藤さん?」
「え?」
「フタ、開いてないよ」
彼女は閉じたままのお塩が入ったクックポットを振り続けていた。
「あ、ああ、うっかりしてたぁ……はは」
「ははは……」
顔を見合わせて苦笑いをする私達。 加藤さん……
―――しっかり動揺してますな。
「……空くんが、悪いよねっ」
「えっ」
眉を寄せて、私に同意を求めるように見つめてくる彼女。
そう、これは……
「……うん、空くんが悪い」
私がそう言うと、お互いの無神経な想い人に一度視線を送り、二人でなにか可笑しくなってきて笑ってしまった。
恋敵同士だからこそ共有出来る苦労ってあるんだね、勉強になりました。 それに、なんか加藤さんは変わった気がする。 前の明るさと違う明るさ、っていうか。
悪い噂は聞いてたし、そういう行動もしていたから鵜呑みにしてた所もあったけれど、空くんの事…… “本気” なんじゃないかな? だって、私と同じ事で動揺して、同じ事で笑うんだもん。
本気の私と一緒ってことは、そういう事……でしょ?
それはそれで脅威ですが。
本気になったクラス一の美少女と彼を奪い合うには武器が無さ過ぎる。 そもそも私の武器ってなに? そう考えてチャームポイントを探ってみると……
―――無い……。
有るのはコンプレックスばっかりだ。
まさか、何か一つぐらいあるでしょ? と武器庫の番人に訊いてみると……「まぁ、そうですね、女性じゃ手の届きにくい所も掃除できますよ?」
……また来るわ、それまでに他のを仕入れといて。
バカな自問自答から我に返り調理に戻ると、空くんの携帯から着信音が聞こえる。
「もしもし、はい。 この前はありがとうございます」
この話し方、年上? この前?
「ええ、今度お礼しますね」
“お礼” って……なんだろう。 何かしてもらったんだよね? でも、お礼っていうのはちょっと気になる。 だって私の時お礼は “デート” だったんだから。
問題は、この電話の相手は男性? それとも……女性? ……加藤さん、長ネギで鶏肉は捌けないと思うよ。
「自宅はちょっと……見せたいもの、ですか」
少し困った声で話す空くんは、席を立って話しながらベランダに出て行った。 これは……
―――女性だ。
自宅に行くのが抵抗があるなんて、男性の可能性は低い。 しかもあの言いよう――― “一度行ってる” 風にも感じる……っ!!
深読みし過ぎ? でも、もしそうなら………やだ。 やだなんてもんじゃないからっ!
空くんに限って何かあったなんて思わないけれど、年上の女性と自宅で二人きりなんて……。
いや、そうだよ、空くんは天使じゃない。 “男の子” なんだ。 それも盛んなお年頃なんだから、彼に “限って” 、なんて考えは捨てよう。
大体場所を変えて電話するなんて怪しいもん! 私が彼女だったら大ゲンカだからねっ! 彼女じゃないけどさ………。
それから暫くしてベランダから空くんが出て来ると、私と加藤さんはなんの打ち合わせもなく、同時に動き出した。
私は手を止め、加藤さんは火を止めた。
そして、何事もなかったように戻って来た空くんに詰め寄り、
「え……」
目の前に居る私達に前方を塞がれている事に気付いた空くん。
「ど、どうしたの?」
彼は、仁王立ちの不機嫌そうな女子高生二人に狼狽えながら視線を上げる。
そんな顔してももうダメ、限界です。
思いが重なった私達は、不満と不安を乗せて言い放った。
「今の女、誰っ!!」
私達の迫力に、空くんは怯えた声で「だ、誰って……」なんて口ごもっている。 後ろからは「謝って……灰垣くん……」と縋るような常盤くんの声。
悪いけど、お昼は少し遅れちゃうからね。 このままじゃ落ち着いて支度出来ません。
―――ちゃんと説明してください、空くん!
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