56 / 56
天使のオマケ 3
しおりを挟む――ある日の休み時間。
空の席に愛里と光昭が集まり、隣には当然真尋が座っている。 そして、女子二人が同時に――
「「空くん、週末空いてる?」」
重なり合った誘いの後、視線の火花を散らす真尋と愛里。
「土曜は用事があるけど、日曜日なら……」
その返事を聞き、今度は先手を取った愛里が顔を突き出して話し出す。
「じゃあさっ、もうすぐ夏休みだしぃ、新しい水着買いたいから付き合ってよ~、もちろん空くんに見てもらう為にねっ♡」
「い、いちいちいかがわしいのよ加藤さんはっ……! 良くないよ、空くん。 小悪魔の誘いに乗るなんて」
「買い物のどこがいけないのよっ!」
「下心が直すぎるのっ!」
愛里に大分言いたい事が言えるようになった真尋。 これが成長と言えるかは微妙だが。
「それより行ってみたいお店があってね、おいしい洋食屋さんらしいんだけど……あのね、もっとお料理上手になって、今度空くんにお弁当を――」
「はぁ!? お弁当なんて彼女でもないのにあつかましいっ、大体空くんの方が料理上手なんだからっ!」
「だ、だから勉強しようと……」
熾烈な争奪戦が繰り広げられる中、光昭はその光景を呆れた顔で傍観していた。 その時、
「なぁ灰垣、週末暇か!? 暇だよなっ!?」
割って入って来たのは保健の先生、朋世にご執心のやんちゃな少年。
「こっち来ないでよ木村!」
「なっ、なんでだよっ」
「キム、ハウス」
「キムって言うなっ!」
これ以上邪魔者を増やしたくない二人は、キムこと木村良平の参戦を阻もうと結託する。
「頼むよ灰垣ぃ、ある人がお前と一緒ならデートしてくれるって言ってんだ。 クラスメイトを助けると思ってさぁ」
「行くわけないでしょ! ネタは割れてんのよあのショタコン保健医っ!」
「キムお願い消えて」
「なんか水崎覚醒してねぇか!?」
混沌とした現場は、其々の主張がぶつかり合い収まる気配が無い。 真尋と愛里は恋敵に引こうとせず、良平は空を出しに朋世に近付こうと必死だ。
「何やってんだあいつら……」
遠くから冷えた視線を送る海弥。 騒がしいライバル達の奥、困った顔をしている空を見ると、
( ほんと、父親にそっくりだな…… )
偶然出会った父直人と見比べ、お互い見た目は完全に父親に偏ったな、と思いに耽っていると、その視線が交わり、空が救いを求めるような目を向けてくる。
「し、知るか……! 自分で何とかしろっ……!」
嫉妬混じりに顔を背け、素直になれずに見殺しにしてしまう海弥だった。
一方現場では、収拾のつかない状況に良平が声を上げる。
「これじゃラチがあかねぇ! 公平に日曜の権利を賭けて勝負しようぜ!」
「キムが来たからもっとややこしくなったんでしょ!」
「公平なんて言葉あんたから聞きたくなかったわよ」
勝手に仕切るなと不満をぶつけてくる二人を振り切り、良平は提案を続けた。
「どれだけ灰垣を必要としてるか、その想いが強いヤツが勝つ方法があるっ!」
「そ、そんな……恥ずかしいこと言わないで……」
「水崎さん、急に清純気取らないでくれる?」
突然恥じらう乙女を演じる真尋に白けた目を向けた後、愛里は闘志を秘めた目で良平を睨み、
「いいわ、何であれ受けて立ってやろーじゃない。 大事な彼氏を守る為だしねっ」
「彼氏じゃないでしょっ!」
「よし、じゃあ放課後、付き合ってもらうぜ」
かくして、本人度外視の権利争奪戦が決まった。
そして、内容も聞かずに勝負を受けた二人がやって来たのは―――
「ここは学校帰り俺がよく来るラーメン屋、『イーグルフライフリー』だ」
「……およそラーメン屋とは思えない名前ね」
中華という概念の無い店名に呆れる愛里。
「まさにその名の通り、辛さの象徴である鷹の爪を自由自在に使った激辛ラーメン屋だ。 飛ぶぜ」
看板を見つめ、したり顔で語る良平に真尋が口を開く。
「キム、イーグルは鷲。 鷹はホークだよ」
「………」
「ま、木村らしいけどね」
英語力の低さを露呈した良平は、「い、いくぞっ」と恥を隠しながら店内に入って行った。
「コイツだ……」
運ばれてきたのは、どんぶり一面を赤に染めたラーメンらしき物体。 鼻腔に届く刺激的な匂いが、その辛さを想像させる。
「まだ俺も挑戦したことがない、この店最強の激辛ラーメン『火口』………コイツを先に食いきったヤツが勝者だっ!」
どうやら勝負の内容は早食いらしい。
しかし、このラーメンを食べ切ること自体が困難なのは明白。
果たして、女性である二人に勝機はあるのか。
「………で、―――何で俺がっ!?」
「当たり前でしょ? 私達は女の子なんだから」
「頑張って常盤くんっ!」
何故か連れて来られていた光昭は、こういった事態に捨て駒として使われる為だった事を理解した。
「俺は別にいいけどよ、常盤じゃ楽勝だぜ?」
体格的に有利な良平は異存なしのようだが、分が悪い筈の愛里も何故か余裕の表情を浮かべている。
「負ける訳ないよねぇ、辛いのは得意でしょ?」
「ぐっ……!」
過去の悪行をチラつかせる愛里。
「そうなんだ。 じゃあキムなんかに負けないよねっ」
その被害者の一人である真尋は、何も知らずに光昭を応援している。
( こんなの食べたら痔になってしまう……! でもこれは、少しでも罪を償うチャンスだ…… )
食べる前から汗を滲ませ、『火口』を覗き込む光昭。
「………木村くん、負けないよ」
「おもしれぇ、かかって来いよ常盤」
決心を固めた光昭が箸を取り、良平もそれに続く。
( 先生……いや朋世さん! この勝利を、愛するあなたに捧げます…… )
( 負けられないんだ……―――俺はっ! )
ラーメン屋のテーブル席で、今愛と懺悔の対決が始まろうとしている。
「じゃあいくよ~………はいっ、始め!」
「「いただきます!」」
愛里の掛け声で、二人の男は火口へと飛び込んだ。
箸で中の具と麺を掴み持ち上げると、滴るスープが溶岩のように感じる。 それを同時に口に運んだ二人は―――
「「――ブッ!!」」
お約束のリアクションを披露してくれる。
「きちゃないわね~」
「と、常盤くん……!」
それでも挑戦者達は、懸命に『火口』へと挑んで箸を動かす。
( ここまでとは……今まで食ってたのがおしるこに感じるぜ…… )
( 啜ったらダメだ、咳き込む……これはそういう食べ物じゃない……! )
食べ始めてから十分程が経ち、二人の半袖のワイシャツは汗で身体に貼り付いている。
( 常盤の野郎、結構根性あるじゃねぇか……だが、俺の方がリードしてるぜ )
普段からこの店に免疫がある良平がやはり優勢。 光昭も必死に食らいついてはいるが、その差は徐々に開いていく。
その時―――
「だらしないわね~、空くんは咳き込みもしなかったわよ」
「――っ!!」
愛里の言った言葉に反応する光昭。
「えっ? 空くんこれ食べたことあるの?」
事情を知らない真尋は理解していないが、誰よりもそれを理解出来るのは光昭だ。
( そうだ、灰垣くんはアレを咳き込みもせず完食した……。 俺は、負けられない……―――負ける資格がないっ!! )
猛然と溶岩を食らい出す光昭。 細い目を血走らせ、決死のスパートをかける。
「なっ! こ、こいふ……!」
最早辛味で腫れ上がった唇の良平は焦り、負けじと勢いを増してラーメンを掻き込み出した。
そして、決着の時―――
「ほ、ほちそうさまれした……っ!」
大雨に打たれたような汗だくの少年は、涙目で勝利の勝ち名乗りを上げる。
その勝者は―――
「すごいっ! やったね常盤くんっ!」
「ひょ、ひょんな……俺のおもひが負けるなんふぇ……」
今回は懺悔が愛を上回り、良平はガックリと肩を落とした。
真尋は汗だくの光昭にハンカチを差し出すが、
「平気ら、俺にひょんな資格ないろ……」
「??」
それを受け取らず、光昭はテーブルに置かれた紙ナプキンに手を伸ばし、過酷な戦いで流れた血の汗を拭った。
「糸目、ちょっとは根性あるじゃない。 でも、まだまだ許さないからね」
「………わはっへるよ……」
日曜日の権利を獲得した光昭が出した提案は、買い物に行って食事をするという、真尋と愛里、両方の願いを叶えるものだった。
だが当日、体調を崩した光昭は参加せず、自宅のトイレで週末を過ごしたらしい―――。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラスメイトの王子様系女子をナンパから助けたら。
桜庭かなめ
恋愛
高校2年生の白石洋平のクラスには、藤原千弦という女子生徒がいる。千弦は美人でスタイルが良く、凛々しく落ち着いた雰囲気もあるため「王子様」と言われて人気が高い。千弦とは教室で挨拶したり、バイト先で接客したりする程度の関わりだった。
とある日の放課後。バイトから帰る洋平は、駅前で男2人にナンパされている千弦を見つける。普段は落ち着いている千弦が脚を震わせていることに気付き、洋平は千弦をナンパから助けた。そのときに洋平に見せた笑顔は普段みんなに見せる美しいものではなく、とても可愛らしいものだった。
ナンパから助けたことをきっかけに、洋平は千弦との関わりが増えていく。
お礼にと放課後にアイスを食べたり、昼休みに一緒にお昼ご飯を食べたり、お互いの家に遊びに行ったり。クラスメイトの王子様系女子との温かくて甘い青春ラブコメディ!
※特別編4が完結しました!(2026.2.22)
※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。
※お気に入り登録、いいね、感想などお待ちしております。
迷子を助けたら生徒会長の婚約者兼女の子のパパになったけど別れたはずの彼女もなぜか近づいてくる
九戸政景
恋愛
新年に初詣に来た父川冬矢は、迷子になっていた頼母木茉莉を助け、従姉妹の田母神真夏と知り合う。その後、真夏と再会した冬矢は真夏の婚約者兼茉莉の父親になってほしいと頼まれる。
※こちらは、カクヨムやエブリスタでも公開している作品です。
サンスクミ〜学園のアイドルと偶然同じバイト先になったら俺を3度も振った美少女までついてきた〜
野谷 海
恋愛
「俺、やっぱり君が好きだ! 付き合って欲しい!」
「ごめんね青嶋くん……やっぱり青嶋くんとは付き合えない……」
この3度目の告白にも敗れ、青嶋将は大好きな小浦舞への想いを胸の内へとしまい込んで前に進む。
半年ほど経ち、彼らは何の因果か同じクラスになっていた。
別のクラスでも仲の良かった去年とは違い、距離が近くなったにも関わらず2人が会話をする事はない。
そんな折、将がアルバイトする焼鳥屋に入ってきた新人が同じ学校の同級生で、さらには舞の親友だった。
学校とアルバイト先を巻き込んでもつれる彼らの奇妙な三角関係ははたしてーー
⭐︎第3部より毎週月・木・土曜日の朝7時に最新話を投稿します。
⭐︎もしも気に入って頂けたら、ぜひブックマークやいいね、コメントなど頂けるととても励みになります。
※表紙絵、挿絵はAI作成です。
※この作品はフィクションであり、作中に登場する人物、団体等は全て架空です。
うっかり結婚を承諾したら……。
翠月 瑠々奈
恋愛
「結婚しようよ」
なんて軽い言葉で誘われて、承諾することに。
相手は女避けにちょうどいいみたいだし、私は煩わしいことからの解放される。
白い結婚になるなら、思う存分魔導の勉強ができると喜んだものの……。
実際は思った感じではなくて──?
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
貧乏貴族の俺が貴族学園随一の麗しき公爵令嬢と偽装婚約したら、なぜか溺愛してくるようになった。
ななよ廻る
恋愛
貴族のみに門戸を開かれた王国きっての学園は、貧乏貴族の俺にとって居心地のいい場所ではなかった。
令息令嬢の社交場。
顔と身分のいい結婚相手を見つけるための場所というのが暗黙の了解とされており、勉強をしに来た俺は肩身が狭い。
それでも通い続けているのは、端的に言えば金のためだ。
王国一の学園卒業という箔を付けて、よりよい仕事に就く。
家族を支えるため、強いては妹に望まない結婚をさせないため、俺には嫌でも学園に通う理由があった。
ただ、どれだけ強い決意があっても、時には1人になりたくなる。
静かな場所を求めて広大な学園の敷地を歩いていたら、薔薇の庭園に辿り着く。
そこで銀髪碧眼の美しい令嬢と出会い、予想もしなかった提案をされる。
「それなら、私と“偽装婚約”をしないかい?」
互いの利益のため偽装婚約を受け入れたが、彼女が学園唯一の公爵令嬢であるユーリアナ・アルローズと知ったのは後になってからだ。
しかも、ユーリアナは偽装婚約という関係を思いの外楽しみ始めて――
「ふふ、君は私の旦那様なのだから、もっと甘えてもいいんだよ?」
偽装婚約、だよな……?
※この作品は『カクヨム』『小説家になろう』『アルファポリス』に掲載しております※
※ななよ廻る文庫(個人電子書籍出版)にて第1巻発売中!※
まずはお嫁さんからお願いします。
桜庭かなめ
恋愛
高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。
4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。
総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。
いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。
デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!
※特別編7が完結しました!(2026.1.29)
※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。
※お気に入り登録、感想をお待ちしております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる