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第10章 国立学校 (後期)
『ブレイズ』へのダンジョン遠征 16
しおりを挟むあまり魔物との戦闘がないまま辿り着いた17階層のセーフティフロア。
中に入るとそこは16階層のセーフティフロアと同じで、だだっ広い部屋の隅の方に噴水のような水飲み場があるだけの部屋だった。
とりあえず俺達はいつもの様にテントを張り、夕食を簡単に手持ちの作り置きで食べると、今夜はみんなさっさと寝ることになった。
「そういえばこのダンジョンに入ってからあなた達しかネシアの兵士と会ってないんですけど、何人ぐらいがこの中で鍛えているんですか?」
俺は今夜も出しておいた風呂に浸かりながら、ちょうど一緒に入っていたネシア兵の代表者さんに話しかけてみる。
彼は風呂に浸かりながらほわぁ~としていたのだが、話しかけられると思っていなかったのか、話しかけるとビクッとしてこちらを見た。
「……私に話しかけました?」
「ええ、ネシア軍の人はあなたしかいないですから。」
その人が目をパチクリとさせてそう言うと、俺はそう返す。
そう、いま湯船に浸かっているのは俺とその人、あとはリーシェさんだけだ。
長風呂が意外と好きな人が残っている。
「そうですねぇ……外に出ていなければ、大体我々やこの前消えた3名も含めて2、30名といったところでしょう。ただ、我々より先に交代するために入った兵士もいるので、その者たちが到着次第交代でダンジョンから出ていく者がいます。できれば先遣隊と連絡が取れる物があれば良いんですが、そんな魔道具なんて聞いたことないですからね。」
その獣人さんは少し考えた後にそう言うと、残念そうに肩を竦める。
……あれ?俺がパニアさんに渡した魔道具の片割れは?
「それはおかしいですね。俺が前回来た時にそういう魔道具を作って15階層の休憩所に置いておいたんです。昨日到着した時に確認したら、対の魔道具を置いておいた台座が破壊され、柵の外に捨てられていました。それにそれと対になっている魔道具はパニアさんっていう友人に渡して、その友人の知り合いという軍人さんに渡っているはずです。現に、この前消えた3人が『上の方に連絡するのに使っている』的なことを言っていたんですよね。ネシア軍の中では話題になってなかったんですか?」
俺の言葉に対して訝しそうな顔で「全く無いですね。」とその人は答えた。
「……なんだかきな臭い話になってきたけれど、そのシエルくんの友人は冒険者なんだっけ?」
「ええ。この前このダンジョンに一緒に潜ったネシアの冒険者です。彼自身はあの神聖法国に捕まりませんでしたが、チームメンバーや知り合いが捕まっていたようで奪還しようと躍起になっていたほど正義感の強い人ですよ。」
俺の返答に対してリーシェさんは「そっか、その彼がこの『ネシア軍をダンジョンで鍛えたほうがいい』と言っていた人か。」と頷く。
「そうなんです。パニアさんは『ネシアの近くにダンジョンができたから、これからは魔物の脅威にさらされるだろうからしっかり鍛えなければ』って言ってました。」
「なるほど、君が言っているのはネシア軍の将軍の副官の友人ですね。確かこのダンジョン遠征が始まる前にそんな話が流れたことがあります。『ネシア軍も平和ボケをしている場合じゃない!』という言葉とともに言ってました。」
その兵士長さんはそう言って納得顔をしている。
……納得してもらったのは良いんだけど、その通信の魔道具は一体どうなったんだって話だ。
多分パニアさんからその友人に渡り、そこからどこへ行ったのかが、例の3人の行方に繋がっているんじゃないかな。
「それで……このダンジョンにいる一番偉い人は誰ですか?」
俺のその言葉に兵士長さんは少し考えたが、すぐに「副将軍のカイヤ殿ですね。」と答えた。
「今回の遠征には将軍のジェイド殿は参加せずに、国で何かあった時のために備えております。なので将軍の代わりに副将軍が指揮を執っているんですよ。」
なるほど……で、あるならば、魔道具は将軍の副官から将軍へと渡り、ダンジョンへと向かうことになった副将軍へと渡ったのかもしれない。
ということは……もしかするとあの3人が言う『上の人』とはその副将軍の可能性があるというわけか……。
俺が顔を顰めて考えたしたものだから、リーシェさんは「何、考えてるのかな?」なんて声をかけてきた。
俺がチラッと兵士長さんを見ると、リーシェさんは苦笑いをして「良いんじゃないかな?」と言った。
「……実は俺、3人の会話を聞いたことがあるんです。」
「えっ?あの3人のですか?」
「ええ。あの3人、5階層の休憩所に泊まった翌日のまだ暗い頃に、俺たち学生のテントへ近寄ろうとして俺の結界を壊そうとしていたんですよ。そして3人が消えた10階層の休憩所でも真っ暗な中でやはり俺達……それもアンドリューのいるテントに忍び込もうとしていました。それは俺の結界があったので阻止しましたが、彼らはもしかするとアンドリューに何かしようとした可能性があります。しかもその時の会話で通信の魔道具を使用していることも分かりましたので、もしかすると……。」
俺が最後の言葉を濁すと、兵士長さんも黙ってしまった。
「……この事はまだ他の兵士には内緒にしていてもらえませんか?」
振り絞るような声で、兵士長さんはそう言う。
多分色々調査をしてから……と考えているのだろうが、それよりも信じられないという気持ちが勝っているのだと思う。
そりゃあ知り合ったばかりの俺たちよりは、同じ獣人兵達の方が信用があるのはわかる。
とりあえず俺達は頷き、しばらくの間は黙っている事を承諾する。
「でも、もしアンドリューに何か起きそうな時は俺の持てる力で、全力で守りますので。それに対しては文句はないですよね?」
俺が真剣な顔でそう言うと、兵士長さんも真剣な顔で「もちろんです。彼は我々獣人の象徴でもあるのですから。」と答えてくれた。
それから俺たちはのぼせると悪いので風呂を上がる。
もちろんこの会話は風呂ごとに張ってある結界によって外には漏れないので、俺たち以外は誰も聞いていないはずだ。
明日からまた探索が始まるが、みんな無事に遠征を終了して帰還できるといいな。
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