異世界超能力だより!~魔法は使えませんが超能力なら使えます~

Mikura

文字の大きさ
24 / 39

23話 それはまるで、嵐のような(後)

しおりを挟む

 私にはユーリに意図せず告白をした過去があるが、さすがに婚約の申し込みになると知っていたらやらない。そもそも装飾品を贈ろうと思うような仲の相手もいない。知らずにやるとしたら友人であるユーリに渡したはずなので、結局大した問題にはならなかっただろう。彼は私が何も知らないことも、他意がないことも知っているのだから。
 それに、私の瞳は黒だ。真っ黒な装飾品なんて人に贈るだろうか。ユーリは不安そうだが、そんな未来は訪れないだろうから安心してほしい。
 その時だった。突然視界が暗くなったので、ぴたりと動きを止める。心配そうに私の名を呼ぶユーリの声には『未来視です、しばらく動けません』とだけ伝えた。

(この、未来は……)

 そこで見た未来は随分可愛らしいものだった。セルカがせっせと紫の花を集めて冠を作って、それを私にプレゼントしてくれるというなんとも微笑ましい光景。しかし、今の話を聞いた直後だとなんというか。


『……ユーリさん、瞳の色の花の冠って装飾品に入るんですかね』

『子供が将来を誓う遊びでそういうことをすることはあるが……』


 元の世界で言うところの、シロツメクサで冠やら指輪を作って「大きくなったらけっこんしようね」と子供がやる、幼いプロポーズのようなアレである。その約束が守られることはほとんどないだろうが。
 未来視では精神感応のように感情を読み取ることはできない。ただ、少し頬を染めたセルカが私に自分の目に似た紫色の花で作った冠を渡そうとする未来が見えただけだ。何だかそういう雰囲気な気もするが、彼は十四歳の思春期の少年にしては幼いように感じるし、そういう意味でない可能性だってある。


『……誰にもらったんだ?』

『セルカさんでしたけど……どうしました? なんで嫌そうなんですか?』


 誰にもらったのかと尋ねるユーリから何か気に食わないという感情が伝わってくる。彼がそういう感情を抱くのはとても珍しいし、驚いた。そして私の言葉でそう思っていることに気づいた彼もまた自分に驚き、その感情はすぐに霧散した。


『……自分でもよく分からない。だが、セルカなら……純粋な好意かもしれないな』

『そうですね、そんな気がします。セルカさんはなんだか幼いですし』

『構ってほしいんだろう』


 ユーリがセルカと出会ったのは色判定の広場だ。髪の色の薄さで希望はほとんどないが、それでももしかすると少しは濃い色に染まるかもしれない。そんな希望を抱きながら受けた魔力判定の結果は、髪の色と変わらないもので。親にも見捨てられ、まともな仕事もある訳がない、そんな彼をユーリはホームへと連れ帰った。
 幼い頃からほとんど親の愛情を受けていないのがよく分かる、細くやつれた頼りない体だったらしいので、虐待すらされていた可能性がある。今の彼は明るい少年に見えるが、やはり愛情を欲しているのだろうというのがユーリの見解だった。


(子供返り、ってやつかな……でもユーリさんこそ、そうなってもおかしくなさそうなんだけど)


 親から得られなかった愛情を求めて、それなりに大きい子が幼い子供のような言動になる話は聞いたことがあるし、ぽっかりと空いた穴を埋めたくてそういう行動になるのだろうと理解もできる。
 そして家族に無視され続けたユーリもそうなっていそうだと思ったけれど、彼は逆に“与える人”になっているから不思議だった。誰にでも親切で、優しくて、お人好しすぎるくらいで。自分と似たような境遇の人に手を差し伸べて、人を助けてばかりで自分は――。


「ハルカ、どうしたんだ。ぼうっとしてないか? 疲れたなら休もう」


 心配そうに声をかけられてハッとする。たしかに大勢の意思を読み取るのは精神的に疲れるし、集中力が切れてきて大分別の方向に思考が向いていたので頷いた。気分転換をした方がいい。
 道から外れ、建物の影になっているところに腰を下ろしてしばらく休むことにした。リュックから水筒を取り出し、ダリアード特製の甘いジュースを二人で飲む。……ほどよい甘さが脳の疲労に効く気がする。


「無理はしていないか? 君の力がどれくらい消耗するものなのか、私には分からないからな」

『大丈夫ですよ。ユーリさんは優しいですね』


 私が異質な超能力者で、大抵のことはどうにかしてしまえるような存在だと分かっていても様子がおかしいと思えば心底心配してくれるのだ。それが偽りの感情ではないことも、精神感応で分かる。……だからこそ彼は私の行動にいつもハラハラさせられているのだろうけれど。
 誰にも彼にも優しくて、人を助けてばかり。自分だって、辛いことを抱えて助けてほしい立場だろうに。


(あ、そっか。……ユーリさんは、してほしかったことを他人にしてるんだ)


 ユーリは誰にも救ってもらえなかった。ずっと一人で立って、それでよく折れなかったものだと思う。そんな彼が誰にでも優しいのはきっと、彼自身が優しくしてほしかったからなのだ。彼自身がずっと誰かに助けてほしかったから、助けを求める人を助けているのだ。……まるで、過去の自分を救うように。
 その悲しい優しさで、セルカ、イリヤ、ダリアード、そして私は助けられた。でも、それなら一体誰が、ユーリを助けてくれるのだろうか。……それは彼の事情を唯一知る友人で、人よりできることの多い超能力者たる私の役目ではないだろうか。


『ユーリさん。ユーリさんが大変な時、困った時は私が絶対に助けますから、助けを求めてくださいね』

「……急に、どうしたんだ?」

『ユーリさんは人を助けてばかりだから、私くらいはユーリさんを助ける人になろうと思いまして』


 過去、最も辛かったであろう時期の彼に手を差し伸べることはできないけれど。私がここに居る限り、目の前にいる彼の力になりたいと思う。……驚かせたり焦らせたりしていることが多い自覚はあるのだが、本当にそう思っているのだ。


『私はユーリさんの味方になりたいです。この世界の常識がないので、驚かせることが……その、いっぱいありますけど。本心ですよ、伝わりますか?』


 私くらいは彼を助ける人になってもいいだろう。彼に救われるだけではなく、彼を救える相手になりたい。対等な友人として、お互いに支えられる関係でいたい。
 感情の起伏の少ない超能力者でも、彼を大事だと思うこの気持ちは本物のはずだ。ちゃんと伝わっているだろうか。
 そう思ってフードの影で見えにくい彼の顔を下から覗いてみると――驚くほど、真っ赤になっていて。


『ああ、そうか。私は、この人が好きなのか……あ』


 そんな意思と、台風の日に荒れ狂う海のような強い感情が同時に押し寄せてきた。でもそれは全て悪いものではなくて、まるで熱を直接心に注がれたような心地で、私まで体温が上がってしまう。
 ふわりと宙に浮くような気分でいて、けれど何かに強く鷲掴みにされているようで、心地よいのに息苦しくて、何かを求めてやまない強い欲求もあって、自分では抑えきれない激情と呼ぶべきもの。……これが、恋愛感情なのだろうか。人はこんなに強い感情ものを抱けるのか。


(こんな気持ちを抱えて、普通に暮らせるものなの……?)


 世の中の恋する人間は皆、この感情を持って普通に日常生活を送っているというのか。信じられない。……自分の制御もままならなさそうな、こんな気持ちに振り回されたら、とても正気でいられない気がする。激しい感情を知らない私には、あまりにも手に負えない。耐えきれずに精神感応を切ってしまった。

 そしてそんな感情が伝わっていることを理解している彼は、精神感応がなくても分かるくらいに焦り、大混乱に陥った表情をしていて――さすがにこれは、どうやって助けたらいいのか分からない。ついでに大きな感情を受け取ってしまった私もまだ落ち着かない。

 ……こういう時は、どうしたらいいんだろう。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

キャンピングカーで走ってるだけで異世界が平和になるそうです~万物生成系チートスキルを添えて~

サメのおでこ
ファンタジー
手違いだったのだ。もしくは事故。 ヒトと魔族が今日もドンパチやっている世界。行方不明の勇者を捜す使命を帯びて……訂正、押しつけられて召喚された俺は、スキル≪物質変換≫の使い手だ。 木を鉄に、紙を鋼に、雪をオムライスに――あらゆる物質を望むがままに変換してのけるこのスキルは、しかし何故か召喚師から「役立たずのド三流」と罵られる。その挙げ句、人界の果てへと魔法で追放される有り様。 そんな俺は、≪物質変換≫でもって生き延びるための武器を生み出そうとして――キャンピングカーを創ってしまう。 もう一度言う。 手違いだったのだ。もしくは事故。 出来てしまったキャンピングカーで、渋々出発する俺。だが、実はこの平和なクルマには俺自身も知らない途方もない力が隠されていた! そんな俺とキャンピングカーに、ある願いを託す人々が現れて―― ※本作は他サイトでも掲載しています

【完結】そして異世界の迷い子は、浄化の聖女となりまして。

和島逆
ファンタジー
七年前、私は異世界に転移した。 黒髪黒眼が忌避されるという、日本人にはなんとも生きにくいこの世界。 私の願いはただひとつ。目立たず、騒がず、ひっそり平和に暮らすこと! 薬師助手として過ごした静かな日々は、ある日突然終わりを告げてしまう。 そうして私は自分の居場所を探すため、ちょっぴり残念なイケメンと旅に出る。 目指すは平和で平凡なハッピーライフ! 連れのイケメンをしばいたり、トラブルに巻き込まれたりと忙しい毎日だけれど。 この異世界で笑って生きるため、今日も私は奮闘します。 *他サイトでの初投稿作品を改稿したものです。

記憶喪失となった転生少女は神から貰った『料理道』で異世界ライフを満喫したい

犬社護
ファンタジー
11歳・小学5年生の唯は交通事故に遭い、気がついたら何処かの部屋にいて、目の前には黒留袖を着た女性-鈴がいた。ここが死後の世界と知りショックを受けるものの、現世に未練があることを訴えると、鈴から異世界へ転生することを薦められる。理由を知った唯は転生を承諾するも、手続き中に『記憶の覚醒が11歳の誕生日、その後すぐにとある事件に巻き込まれ、数日中に死亡する』という事実が発覚する。 異世界の神も気の毒に思い、死なないルートを探すも、事件後の覚醒となってしまい、その影響で記憶喪失、取得スキルと魔法の喪失、ステータス能力値がほぼゼロ、覚醒場所は樹海の中という最底辺からのスタート。これに同情した鈴と神は、唯に統括型スキル【料理道[極み]】と善行ポイントを与え、異世界へと送り出す。 持ち前の明るく前向きな性格の唯は、このスキルでフェンリルを救ったことをキッカケに、様々な人々と出会っていくが、皆は彼女の料理だけでなく、調理時のスキルの使い方に驚くばかり。この料理道で皆を振り回していくものの、次第に愛される存在になっていく。 これは、ちょっぴり恋に鈍感で天然な唯と、もふもふ従魔や仲間たちとの異世界のんびり物語。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

聖女なんかじゃありません!~異世界で介護始めたらなぜか伯爵様に愛でられてます~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
川で溺れていた猫を助けようとして飛び込屋敷に連れていかれる。それから私は、魔物と戦い手足を失った寝たきりの伯爵様の世話人になることに。気難しい伯爵様に手を焼きつつもQOLを上げるために努力する私。 そんな私に伯爵様の主治医がプロポーズしてきたりと、突然のモテ期が到来? エブリスタ、小説家になろうにも掲載しています。

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~

ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。 休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。 啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。 異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。 これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。

処理中です...