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第121話  妖精王の隠し事

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 良い事をした夜はお菓子が美味い! アミナスはノエルに言いつけられている耳栓をつけて床に座り込んで妖精王と一緒にお菓子を食べていた。

 ノエルはいつも言うのだ。ノエルとアミナスの部屋は両親の寝室の隣の部屋だから、ノアがアミナス達に向かってニコッと笑って寝室に入った夜は絶対に耳栓をつけなさい、と。

 今のアミナスの両親はティナとエリスだから、二人がモジモジしていたのを見て何かを察したアミナスはしっかり耳栓をした次第である。

「あの二人もやっとだな」
「クロちゃん知ってたの?」
「知っていたとも。我は何でも知っている。あの二人の出会いから今までの全てを。なかなか似合いのカップルではないか!」
「うん! 私もそう思う! 赤ちゃん早く生まれないかなぁ」
「それはまだ気が早かろう。それにしてもレックスは今日は城に泊まるのか」
「ううん、オルトおじさんのとこにレオと泊まるって。なんかね、オルトおじさんのお仕事が面白かったんだって」
「宰相の仕事が面白いとはなかなか出来た男だな。しかしあいつは何者なんだろうな」
「レックスはレックスだよ。何者かなんて関係あるの?」
「いや、うん。お前にとってはそうだろうがな。もしかしたら我にとっては脅威かもしれん」

 言いながら妖精王はお菓子に手を伸ばした。最近アミナスに太ったと言われてからちゃんと歩くようにしているのでお腹が減って仕方ないのだ。

「脅威かなぁ? レックスは味方だと思うけどな」
「何故?」
「何となく。勘だけど。オズワルドって人もそんなに悪い人じゃ無い気がするな。クロちゃん、どうしてオズワルドに魔力封じられたの?」
「う? うむ……いや、まぁ、それはだな、その……」
「クロちゃん? もしかして何か隠してない?」

 俯いてごにょごにょ言う妖精王にアミナスは怖い顔をして詰め寄った。すると、妖精王は観念したようにポツリポツリと話し出す。

「あの戦争でだな、前妖精王がどうしてあいつに力を貸したのか我は調べたのだ。前妖精王はもう隠居して気ままに色んな星を旅しているゆえ、これはオズワルド本人に聞くしかないと思ってオズワルドを探したのだがな、その……」
「なに?」
「あ、頭ごなしに怒ってしまったのだ! 我の星で好き勝手するのは許さんと言って、その……あいつを消そうとしたのだ。そうしたらその……」
「逆にやられちゃったの?」
「……うむ。オズワルドの方が我よりもはるか前に生まれていて、我はあっさり負けてしまったのだ」

 しょんぼりと膝を抱えた妖精王にアミナスは口をあんぐりと開けた。

「え、それはクロちゃんが悪くない? オズワルドの正当防衛ってやつなんじゃないの?」
「そ、そうとも言う……かもしれん」
「かもしれんじゃないよ! そうだよ! それで魔力封じられて本盗られて⁉ 兄さま達が聞いたらブチギレ案件だよ! じゃあ何でオズワルドが命狙ってるとか言ったの⁉ それも嘘だよね?」
「う、嘘ではない! あいつは我を殺しにかかってきた! だから逃げたのだ!」
「それはクロちゃんが先に消そうとしたからでしょ⁉ オズワルドはもうクロちゃんの事なんて微塵も狙ってないかもしんないじゃん!」
「うぅ……しかし、あいつがあちらに手を貸していたのは本当なんだ。だからまた敵に回るかもしれん。そうなったら終わりだ。我が消滅したらこの星の加護が無くなってしまう」

 アミナスに叱られて妖精王はどんどん小さくなっていく。そんな妖精王を見てアミナスはため息をついてサイダーを妖精王に渡した。

「クロちゃんが命狙われてるとかややこしい事言うから皆が手を貸したんだよ。そう思うってだけでそんな事言っちゃ駄目だよ。父さまが聞いたらめちゃくちゃ怒られるよ?」
「うむ……ノアは怖い」

 こんな話を聞かれたら、今度こそ首がコロンと落ちる首輪をはめられそうだ。アミナスはうなだれる妖精王を抱き上げて頭にグリグリと顎を押し付ける。

「一緒に謝ってあげるよ。ちゃんとなんでそうなったか皆に話そ。フィルちゃんだって心配してるってルーク言ってたよ」
「うむ……そうだな。ちゃんと起こった事を言うべきだった。すまん」
「もういいよ! あ! 仲直りのラーメン食べる?」
「こんな時間にか⁉ また太るだろうが! せめて春雨のラーメンにしておこう」
「うん!」



「寝られない」
「僕も」
「俺もです」
「俺もっす」

 オズワルド、リアン、キリ、オリバーはそう言って部屋の隅っこでアリスの持ってきたシュラフにくるまって、さっきから縦横無尽に寝返りを繰り返すアリスを見て呟いた。オズワルドの腕にはスヤスヤ眠るリーゼロッテが抱きかかえられている。

「毎日こんなの?」
「そうですね。大体は。今日はシュラフなのでまだ拳や足が飛んでこないだけ大分マシです」

 そう言ってキリはため息をついて自分の髪を食べながらゴロゴロ寝返りをうつアリスを見る。手足が出てないだけいつもよりははるかにマシだが、寝ようとしたところにシュラフで体当たりしてくるので、激しく迷惑である。

「あんたら本当に凄いよね。コイツの面倒もうずっと見てんだもんね」
「殴りたくなる気持ち、痛いほどよく分かるっす」
「俺などまだマシです。本当に大変なのはノア様かと」
「あれはもう染み付いてんでしょ。ていうか、あれはもうあいつの趣味だよ。はぁ、オズ、どっか他に寝られそうな部屋ないの?」
「ある。そっち行く? それか俺の繭にコイツ入れとく?」
「ああ、それいいかもね。もうグルグル巻にしてやったらいいんじゃないの?」
「無駄です。お嬢様はどれほど強く縛っても、どんな縛り方をしてもなめくじのようにぬるりとそこから這い出します」
「怖いよっ! 関節どうなってんの⁉ じゃあもう部屋移動しよ。朝になったら迎えに来たらいいでしょ」
「賛成です。オズワルド、お願いします」
「分かった。ちょっとリゼ持ってて」

 オズワルドはリーゼロッテをキリに渡すと魔法陣を開いた。さらに詠唱すると魔法陣の中に扉が現れる。

「入って。違う部屋に繋がってるから」
「ありがと! いや~便利便利」

 すっかりオズワルドに慣れたリアンは何の躊躇いもなくドアを開けて一歩足を踏み入れて息を呑んだ。ドアの先が一面金色に輝いていたからだ。リアンはギョッとして思わずドアを閉めてオリバーの腕に縋り付く。

「ぼ、僕あんなとこで寝れない!」
「なんすか? 何があったんすか? 虫っすか?」
「ち、ちが! き、きん、金! 一面金色!!」
「はぁ?」

 あまりにも必死の形相のリアンにオリバーが恐る恐るドアを開けると、リアンの言う通り壁一面が金色だった。リアンと同じ様にドアに手をかけたまま固まるオリバーの後ろからキリが一歩部屋に入って声を漏らす。

「これは見事ですね。これだけの金があれば今すぐにでも全ての国を買収できそうです」
「気に入った? ここは俺のお気に入りの部屋なんだ。地下に住んでた奴らだって数人しかここには入れなかった。欲のある奴らは入れなかったんだ。ここにはそういう魔法がかかってる」
「つまり、俺たちを試したと?」
「うん。だって分からないから。どうしてお前たちがここに入れたのか。なるほど、ディノは確かにお前達の侵入を許したんだな」

 金だけで出来た部屋は欲を持つ者は入れない。少なくともこの三人は金になど興味もない三人だと言うことだ。それが分かっただけでもオズワルドとしては価値がある。

「ついでに言っておくとお嬢様も多分ここを見ても何も感じないと思います」
「うん、だろうね。じゃ、ちゃんとした部屋に繋ぐ」

 オズワルドはそう言ってもう一度詠唱した。
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