【第一幕完結】転生幼魔女は生き延びたい!~唯一無二の力はナイショだよ〜

葵井瑞貴

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~ 覚醒 ~

5話

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 動揺のあまりセレスティアはアルフレッドからすっと目をそらし、うつむいたまま固まった。すると、しくもその仕草が以前のセレスティアと同じだったからだろう、頭上から安堵の滲む声が降ってくる。

「ひとまず無事なようで安心したが、今後はポーラの言うことをよく聞き、十分に注意するように。分かったな?」

「はいっ!」

「よろしい。医者の見立てでは問題ないとのことだが、頭を打った以上は油断できない。しばらくは大人しく部屋で休みなさい」

 セレスティアが元気よく二度目の「はいっ!」を口にすると、アルフレッドはよろしいと言わんばかりに頷き、足早に部屋を出ていった。

 扉が閉まるのと同時にセレスティアは「ふぅ」と胸を撫で下ろし、両手を広げてベッドに仰向けで倒れ込む。

 ぼんやり天井を眺めていると、ベッドに飛び乗ってきたマリアベルがセレスティアの胸の上に寝そべり、我が物顔で寛ぎはじめた。

 豊満ボディのため、ずしりとした重みを感じるけれど、ほんのり温かくて柔らかい。
 純白の毛並みはふわふわで、撫で回しているうちに思考がとろけてゆく。

「ふぁ~。気持ちいい……」

『アタクシは抱き枕じゃありませんことよ』

「もふもふぅ……」

『まったく、聞いちゃいないわね。──ところで、前から思っていたのだけれど』

「ん?」

『アナタたち、親子にしては他人行儀すぎじゃありませんこと?』

「んー。しかたないよ。だって、おとうしゃま、おいそがしいし、いっしょにいるジカン、すくないからね」

『だからってねぇ。いくらなんでも、ここまで親子の縁が薄いと、のちのち苦労しますわよ』

「そうなの? どうして?」

『よく考えてごらんなさいな。もしアナタのその力が誰かに知られた時、アルフレッドが守ってくれなかったら?』

 マリアベルに導かれ、セレスティアは三歳の小さな頭で必死に考える。

《緑の民》の血がすでに絶えてしまっている以上、妖精と交流する方法を知っている人間は、おそらくセレスティアのみ。

 仮に他にも転生者がいるとしても、その数は決して多くはないだろう。

 つまりセレスティアの能力は極めて希少なもの。

 それが誰かに知られれば、利用しようとするやからにつけ狙われ、望まぬ争いに巻き込まれる可能性もある。

 最悪の場合、かつての人生と同じように異端者として疎まれ、そして……。


 ──『おのれ、忌まわしい魔女め!』

 
 脳裏に恐ろしい光景がよみがえり、セレスティアはぶるりと身震いした。
 悪い記憶を頭の中から追い出すように首を振り、このままではいけないと強い危機感を抱く。

「おとうしゃまと、なかよくなるっ! もしものとき、まもってもらうっ!」

『ええ、それがいいと思いますわ。けれど父親だけじゃ足りませんわね。もっと重要なのは──そう、継母の攻略ですわ』

「まま、はは……。くりすちーぬさま? え? なんで?」

 目を丸くするセレスティアの鼻先に、マリアベルがビシッと指を差すように肉球を押し当ててくる。

『いいこと、セレスティア。アタクシはこれまで色んな家庭を見てきましたけどね。継母の機嫌を損ねた継子は、だいたい不幸になっていますのよ』

「えぇ⁉ そうなの? どんなふうに?」

『そうですわねぇ……。例えば壮絶ないじめにあって心を病んだり、一文無しで屋敷を追い出されたり』

「ひぃ……」

『ひどい嫁ぎ先をあてがわれて、死ぬより辛い目に遭った令嬢もいましたわね』

「あわわわ。たっ、たいへんだぁ……!」

 セレスティアは転んで気を失っていたため、クリスティーヌの出迎えができていない。

 嫁いできた初日に騒ぎを起こし、挨拶にもこない無作法な娘。
 今のところ加点要素はゼロ、むしろ印象としては圧倒的にマイナスだ。

(急いで会いにいかなきゃ……!)

 焦りに駆られ、セレスティアが急いでベッドを下りようとした、その時だった。
 軽いノックの後、トレイを持ったポーラが扉の向こうから姿を現す。

 彼女は片足を床につけたセレスティアの姿を見るなり、驚くほどの早さで歩み寄ってきた。
 しかし、トレイに載った器の中身は一滴たりともこぼれていない。

 ポーラ、実は結構すごい人なのかもしれない。

「お嬢様、どちらへ行かれるのです? あっ、お手洗いですか?」

「ううん。くりすちーぬさまの、とこ。ごあいさつ」

「そうでしたか。お気持ちは分かりますが、ご挨拶は後日にいたしましょうね。旦那様からも、しばらくはゆっくり身体を休ませるよう仰せつかっておりますので」

「でも……。ごあいさつしないと、くりすちーぬさま、おこっちゃう」

「ふふっ、そのような心の狭い方ではありませんよ。さあ、お食事が冷めてしまいますので、ベッドへお戻りください」

 口調は柔らかいもののポーラの目は至って真剣で、なにを言ってもクリスティーヌのもとへは行かせてくれそうにない。

「う、うん……」

 セレスティアはしぶしぶベッドに戻り、ポーラが運んできてくれた、優しい甘みのミルク粥とすりおろし林檎を食べはじめるのだった。

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