【第一幕完結】転生幼魔女は生き延びたい!~唯一無二の力はナイショだよ〜

葵井瑞貴

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~ 覚醒 ~

6話

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「わたし、もうげんき! だいじょうぶ!」

 そう訴えつづけて迎えた、三日目の朝。
 心配性なポーラが首を縦に振ってくれたことで、ベッドの上の住人だったセレスティアはようやく療養生活から解き放たれた。

(やったー! 自由だ~!)

 解放感に包まれテンションが上がるものの、暢気に喜んでばかりもいられない。

「ぽーら! あのね、くりすちーぬさまのとこ。ごあいさつに、いきたいの! だからね、かわいくして、ほしいの」

「ふふっ、かしこまりました。このポーラにお任せください」

 鏡台の前にある椅子に座ると、背後に立ったポーラが緩やかに波打つマリーゴールド色の髪をブラシで丁寧にかしていく。

 普段は長髪を背に流し、髪飾りヘアピンなどをつけるくらいだが、今日はおめかしを頼んだため手の込んだ髪型にしてくれるようだ。
 ポーラがテキパキと手を動かす。

 まずはサイドの髪を編み込み、残りの髪とあわせて耳下で結ぶ。
 同じことをもう片方にも施し、結び目を白いリボンで飾れば、編み込み風おさげ髪の完成だ。
 
 首を左右に振ると、ふたつの毛束がふるふると揺れた。
 ウサギの垂れ耳のようで可愛らしく、嬉しくなって「ふへへっ」と笑うと、鏡越しにポーラも目尻を下げて微笑んだ。
 
 勝負服に選んだのは、春に咲くチェリーブロッサムを思わせるパステルピンクのドレス。
 襟元や袖、裾に純白のフリルがあしらわれた可憐なデザインで、身にまとうだけで自然と気分が上がる。セレスティアのお気に入りの一着だ。

 姿見の前でくるりと回ってみせると、親バカならぬ乳母バカなポーラがニコニコと拍手を送ってくれた。

「あぁ……! 今日は一段とお可愛らしいですわ、お嬢様」

「ありがとう、ぽーら! ──いよぉし!」

 腰に手を当てて気合いを入れたセレスティアは、キリッとした顔で扉を見つめた。
 足元ではマリアベルがセレスティアの格好を真似して後ろ足で器用に仁王立ちし、『頑張りなさいな』と激励を送ってくれる。

「みなのもの、ゆくぞっ! いざっ、けっせんの、ちへ!」

 セレスティアと継母の対面を見届けるべく集った風の精シルフ小人ブラウニー三人衆が『おーっ!』と雄叫びを上げた。

 一方、そんな妖精たちの声がまったく聞こえないポーラはというと。

「皆の者? 決戦の地? そんな言葉、どこで覚えてきたのかしら?」

 不思議そうに首を傾げながら、勇ましく部屋を出ていくセレスティアの後を追うのだった。


 ꙳✧˖°⌖꙳✧˖°⌖  ꙳✧˖°⌖꙳✧˖°⌖


(うぅ、緊張してきた……。怖い人じゃないといいなぁ……)

 ポーラの話では、クリスティーヌは穏やかで優しい方らしい。
 だがマリアベルから散々継母の恐ろしさを聞かされてきたため、どうしても不安が拭えない。
 
 部屋の前にたどりついたセレスティアは、ひとつ深呼吸をしてから覚悟を決め、ドアを叩いた。
 すると間髪入れずに中から「どうぞ」と柔らかな女性の声が返ってくる。

「しつれい、いたしますっ!」

 丁寧に挨拶をしてから扉をポーラに開けてもらい、セレスティアは室内に足を踏み入れた。

「初めまして、セレスティアさん」

 そう言って出迎えてくれたのは、薄紫色のドレスをまとった細身の女性だった。

(わぁ、綺麗な人……)

 ほっそりとした面差しは新雪のように白く、背に流れる髪も氷の結晶を思わせる澄んだ銀色。
 窓から差し込む陽光が彼女の輪郭を淡く縁取り、そのまま溶けて消えてしまいそうな儚げな雰囲気を醸し出している。

 眉がハの形に下がったその表情は気の強そうな継母像とはほど遠く、継子を虐めるような人物にはとても見えなかった。
 
 思いがけない継母の第一印象に、セレスティアは一瞬ぽかんと立ち尽くす。
 しかし、マリアベルが足にすりっと額を擦りつけてきた感触でハッと我に返った。

 すぐさまスカートのすそを摘まみ、ポーラに教わった通り、ゆっくりと身を沈めて淑女のお辞儀カーテシーをする。

「はじめまして、くりすちーぬさま! おあいできて、こうえいで、ございます。ごあいさつが、おくれまして、もうしわけごじゃい……ごじゃ、ご……」

 一度甘噛みをしてしまったら最後。焦りと緊張で、ただでさえ動かしにくい舌が、余計にうまく回らなくなってしまった。

(あんなに何度も練習したのにぃ! 三歳児の身体、不便すぎっ!)

 思い通りにならない我が身に苛立ちながらも、どんなに頑張っても発音できないものは仕方ない。

「ごあいさつ、おそくなって、ごめんなしゃいっ!」

 セレスティアはとっさに難しい言い回しを諦め、クリスティーヌの翡翠ひすい色の瞳をまっすぐに見上げて、年相応の言葉で気持ちを伝えた。
 
 すると子供らしい言動がクリスティーヌの緊張を解きほぐしたのか、彼女がわずかに口元をほころばせる。

「どうかお気になさらないでください。お身体はもうよろしいのですか?」

「はいっ!」

「それは、よかったです」

 クリスティーヌに促され、セレスティアは窓辺のテーブル席に腰を下ろした。
 すかさず使用人たちがティーセットを載せたワゴンを押してきて、カップに香り高いお茶を注いでくれる。

「すぅー、はぁ~。いいにおい、ですね、くりすちーぬさま!」

「ええ」

「おかしも、おいしそう! くりすちーぬさまは、あまいもの、おすきですか?」

「はい」

「えっと……ほかに、おすきな、たべものは?」

「どのようなものでも、ありがたく頂きます」

「ご、ごしゅみは?」

「特にこれといったものは。しいて挙げるとすれば、掃除でしょうか」

「そうじ! しゅごい! わたし、ニガテで、よくぽーらに、おこられちゃうんです」

「そうでしたか」

「はい……そう、なんです……」

 意地悪そうな方ではなくホッとしていられたのも束の間。クリスティーヌは終始うつむきがちで、返事も当たり障りのないものばかり。視線が合ってもすぐに下を向いて目をそらされてしまう。

 不機嫌ではなさそうだが、会話を楽しんでいる様子でもないため、次第に声をかけるのが申し訳なくなってくる。

 給仕の使用人が出ていくと、室内は気まずい静けさに包まれた。

(空気が重たい……! どうしよう⁉)

 困り果ててうつむくと、セレスティアの膝の上で丸くなってくつろいでいたマリアベルと目が合った。

『なんだか、破談まっしぐらのお見合いみたいですわね。見ていて面白いわ』

(くぅ! 他人事だと思ってぇ! 助けてよぉ、マリアベル)

 すがるような眼差しを向けると、頼りになる猫妖精は『仕方ないですわね』とため息まじりに呟いた。

『緊張しているのは向こうも同じですわ。下手な前置きはやめて、言いたいことを言ってしまいなさいな。伝えたいことがあるのでしょう?』

 マリアベルの言葉に背中を押されたセレスティアは、小さく頷いて顔を上げ、意を決して口火を切った。
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