【第一幕完結】転生幼魔女は生き延びたい!~唯一無二の力はナイショだよ〜

葵井瑞貴

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~ 崩壊の危機 ~

11話

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 翌朝、ぐっすりと眠ったセレスティアは、元気いっぱいに目を覚ました。

(よし! 今日こそ、いい案を考えるぞっ!)

 そんな意気込みを胸に、ポーラに手伝ってもらいながらテキパキと身支度を整え、朝食の席へと向かう。
 腹が減っていては何事もうまくはいかない。頭を働かせるためには、まずは空腹を満たさないと。

 ダイニングルームに入ると、純白のクロスが敷かれた縦長の晩餐ばんさんテーブルが目に入る。
 一番奥の席に腰を下ろせば、すぐさま給仕の使用人が朝食を運んできた。

 昼食や夕食が前菜、スープ、メインと続くコース料理で提供されるのに対し、朝食は手軽に食べられるワンプレートである。

 真っ白な大皿の上には、とろりとした半熟の目玉焼きと、薄くスライスしてカリカリに焼き上げた塩漬け豚肉ベーコン
 付け合わせは、春が旬のルッコラやマーシュなどの葉野菜のサラダ。
 白いふわふわのパンの横には苺のジャムが添えてある。

 今日も今日とて、前世では考えられないほど豪勢な食事だ。
 味はとても美味しいし、盛り付けも美しい。
 まさに完璧な朝食、なのだけれど──。

(なんだか、ちょっと……味気ないんだよね)

 静かなダイニングルームに、食器が擦れる小さな音だけが響き渡る。

 セレスティアはいつも食事はひとりで取っている。
 もちろんそばにはポーラがおり、給仕の使用人なども控えてはいるが、身分が違うため彼らが同じテーブルにつくことはない。

 他愛のない会話を交わしながら、「美味しいね」と笑い合っていた前世の食卓が、ふと懐かしく思い出された。


 あの頃のご馳走は、村の男衆が狩ってきた鹿やイノシシ、熊などの野生の獣だった。
 大猟の日は、集落の中央にある広場でき木に火をくべ、村人全員がそこに集まったものだ。

 女衆が捕ってきた川魚には串を打ち、火のそばの地面に突き立ててじっくりと焼いていく。
 メインとなる獣肉は塊のまま豪快に焚き火の上に吊るし、時間をかけて中まで火を通した。
 余った骨や肉の欠片は大鍋に放り込み、野菜やキノコ、山菜、臭み消しのハーブとともに煮込めば、森の恵みたっぷりの山肉鍋のできあがり。
 
 どの料理も時間がかかるため、酒をみ交わしていた大人たち──特に男衆は、完成する頃にはすっかり酔っ払ってしまっていたものだ。
 
 一方の子供たちはご馳走を前にニコニコと上機嫌。
 時に肉や魚を譲り合い、時に奪い合って喧嘩しながら、わいわいガヤガヤとはしゃいでいた。

(楽しかったなぁ……)

 前世の記憶は至るところがおぼろげで、まるで虫食いにあったみたいに穴もたくさん空いている。
 けれども、村のみんなで食べたご馳走の味や心温まる雰囲気は、確かに覚えていた。

(そういえば、いつも意地悪してくるあの子とも、大猟の日に少し仲よくなれたんだっけ)

 残念ながら顔と名前は思い出せないが、同世代の《緑の民》の少年で、前世のセレスティアをいじめてくる子がいたのだ。

 もっとも、いじめと言っても大したことはなく。言われたのは『ブス』とか『バカ』とか、そんな子供じみた悪口くらい。
 なので前世のセレスティアはまったく相手にしていなかった。
 まぁ、ちょっとはムカッとする時もあったけれど。

 ある大猟の日。ちょうど火の番をしていた前世のセレスティアは、やってきた少年に山肉の煮込みをよそってあげた。

『はい。あと、これ』

『魚の串焼き? オレ、くれなんて言ってないけど?』

『わたしが捕まえた一番大きいやつ、特別にあげる』
 
 そう言って魚の串焼きを押しつけるように差し出せば、少年は目を丸くしてブツブツとなにかを呟きはじめた。

『え。オレにだけ、特別に……? おま、お前、まさかオレのこと……』

『いらないなら、無理にとは言わないけど』

『いいや、食う! 骨まで全部食う! だから、よこしやがれ!』

『えぇ? さすがに骨は取ろうよ。喉に引っかかったら痛いよ』

『うるせぇ! 食うったら食うんだよ! はぐっ! もぐもぐ…………んっ! いってぇ! 水! 水くれっ!』

『ほーら、言わんこっちゃない』

 前世のセレスティアとしては、いつも馬鹿にしてくる彼に大きな魚を自慢したかっただけなのだが、よほど美味な串焼きだったのだろう。
 それから少年の意地悪はぴたりとやみ、その代わり会うたびに『よ、よお……』と、なぜかモジモジ挨拶してくるようになったのだ。

(みんなで食べるご飯って、美味しくてあったかくて、幸せな気分になれるよねぇ。話したことない子とも、料理の話で自然に盛り上がれたりするし……)

 それだ!と、セレスティアは目を輝かせた。

「ぽーら。おとうしゃま、いつ、しゅっちょう、かえってくる?」

「そうですねぇ。領内視察と伺っておりますので、あと数日でお戻りになると思いますよ。詳しい日程は家令のジェラールが把握していますので、聞いてまいりましょうか?」

「んーん! わたすもの、あるから。あとで、カレイのおへや、いってもいい?」

「もちろんです。ではお食事が終わったら一緒に行きましょうか」

「うん! あとね、そのあと、ちゅうぼう、いきたいの!」

「厨房に、ですか? それはまた急になぜです?」

「んふふ。なーいしょ!」

 首を傾げるポーラに笑顔で答えたセレスティアは、残りの料理をペロッと平らげた。
 そして一度部屋に戻って支度をしてから、家令のジェラールのもとへと向かうのだった。
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